第3話 明日の空

「俺らも今年で十四か」

呟く猩の感情は読めない。いつもそうだ。彼は本心をどこかに隠す。悪い人間でないことはわかるのだが、それが距離の遠さを感じて心細くなることがある。

「もうすこしで卒業なんだよね…早いなあ」

切なさを滲ませる瑠璃。できることならずっとこうしていたい。みんなそう思っているはずだ。そんな彼の顔を大袈裟に覗き込む承和。

「なんだよお前、寂しがってんの?

てかさ、みんな魔法とか使えそー!って思ったことある?」

承和の質問に四人は顔を見合わせる。


自分の身に何か起こったことは…ない。それに、この中の誰かにも何も変わったことは起こらなかった。

だから全員が首を横に振った。魔法なんて使えっこない。


「だからどーせ…魔法使いにはなれねーよなあ…」

がっくりと肩を落とし、目に見えて落ち込む承和。濡羽は笑いを堪えながら問う。

「そんなに残念かなあ?」

心底意外だ、というように目を見開いて顔を上げて叫ぶ承和。

「はあ!?ったりめーだろ?なりたいだろ魔法使い!!魔法使いだぞお前!!」

同意を求め瑠璃を見るが、愛想笑いで誤魔化される。猩と常盤には目線を外され、仲間は一人もいなくなってしまった。

「えぇ…」

悲しい呻き声を残しばたりと草むらに倒れこむ。


数秒の沈黙を破り、承和は倒れたままでジタバタと手足を動かした。駄々をこねている。

「ぁあー!俺もカッコいい魔法使いたかったぁ〜!」

そんな様子を見てみんなが自然と笑い出した。

こんなふざけた様子だが、確かに承和の指摘はもっともだ。誰も魔法を使えないのなら、きっと私たちはみんなウィルダリアに行くことになるだろう。離れることなんかない、ずっと一緒にいられるはずだ。見ないようにしていた心の中のわだかまりが解けていくのがわかった。


気がつけば日もすっかり沈んで、暗闇が空間を支配し始めていた。これ以上暗くなっては帰り道の確保が難しくなる。

「帰ろっか」

濡羽の一言に四人は頷き、寒空の中をぞろぞろと歩いていくのだった。

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