第2話 その奇妙さ

暗い言葉を投げ込んだ猩。

少し離れたところにいた承和が口を挟む。


「でもさあ、俺らにとってはこっちが普通で、そっちが〈奇妙〉な生活、だろ?」

「まぁな」



猩や承和の言う〈奇妙〉が何を指しているのか、全員によくわかっていた。

確かに私たちは、普通の生活はできていないと思う。物語の中の子供たちは自立するまで親と共に暮らすと言うが、私たちは生まれたその日から親元を離れ『保育所』で育てられる。

それは私たちや、私たちの親、その更に親…とてつもなく長い間続く伝統。もちろん理由あってのことだ。



この地の人類は二つに分けられる。


科学では説明できない力…魔法を操ることができる人間と、そうでない人間。

その二つの間には、どうしても埋まらない溝があった。

そしてその対立は魔法大国ヴィグリットと、科学共和国ウィルダリアという二つの国を生み出すことに繋がった。


ヴィグリットは比較的穏健で、お互いに干渉せず共存していく道を望むものが多いが、反対にウィルダリアは共存を望まないものが多い。かつて『魔法を使うものの方が優れている』という風潮を作ったり、それによって引き起こされた悲しい事件などの歴史的背景があり、魔法使いの存在を良しとしない考えが一般的に広まったらしい。

特にウィルダリアの過激派は、どちらが優れているか戦争で決めるべきだという者もいる。


それがどうして私たち子供の暮らしに変化をもたらしたのか、というのは、魔法を使う人間、使えない人間の「分かれ方」にある。


そう、生まれた瞬間から魔法が使えるかどうか分かるわけではない。長い間両国によって研究が続けられているが、今の所そのメカニズムを理解する者は存在しない。生まれた時間や時期とは関係なく、遺伝の影響すらも受けないのだ。そのため、親子や兄弟でも国によって分かたれることはよくある話だ。

ただ一つ、わかっていることは


十四までに魔法を使う、もしくはそのような兆候が現れなかった者は、一生魔法を使うことはできない


というただそれだけである。


だから私たちは満十四の年の春にこの保育所とお別れして、それぞれの国で生きる。


〈どんなに愛する身内であっても、敵同士になりかねないのなら、最初から一緒にいない方がいい。〉


端的に言ってしまえばそんなことで、私たち子供は、こうしてまとめられている。この保育所が建っている場所は両国の境界…丘の上の中立区域にある。

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