天使に讃美歌を

砌七兵衛

堕天使の夢

第1話 宇宙に羽

「うう、寒い」


既に日は落ちて、群青のグラデーションが頭上を覆っている。空には光の粒がちらほらと見える。息が白い。

予想以上の肌寒さに思わず小声を漏らした。

誰に漏らしたわけでもないその言葉を聞かれていたらしく、目の前を歩いていた少年が振り返った。


「出かけようって言ったのは濡羽ぬれはの方じゃん」


声音こそ不機嫌そうだが、表情は柔らかい。男の子にしては少しだけ長い、深緑の髪の毛が冷たい風に吹かれてさらさらと揺れている。

彼に返す言葉も無く、私は苦笑いで言い訳を探した。

「へへ、そうだけど。寒いものは寒いの

常盤ときわは寒くないの?」


常盤が答えようとしたところで、私たち二人の更に前を歩いていた三人組がこちらを振り返った。


「おーい!お前ら何してんのー?置いてくぞぉー!」

三人組の中の一人、承和そががこちらに手をぶんぶん振り、大きな声で叫ぶ。薄明かりの中でも彼の金色の髪は輝いて見える。綺麗に伸ばした髪は泳ぐ海月のように、ふわふわと空を漂っている。


「ごめんごめん!」

承和の声を聞いて、私と常盤は小走りで三人に追いつく。すると、眼鏡の少年がいきなり常盤の頭を乱暴に叩いた。

「痛っった!

しょう、何すんだいきなり!」

不意打ちをまともにくらって情けない声を出す常盤。レンズの中に自我の強さを覗かせる猩は、そんな常盤の様子にもしかめっ面を変えない。

「遅れた罰だよ。ばーか」


「理不尽すぎだろ」

抗議しつつも、常盤はそれ以上とやかく言う気は無いようだ。


「も、もっと早く歩かないと、誰かに見つかっちゃうかもしれないよ…?」

一番前を歩いていたくせ毛の目立つ少年が、心配そうに辺りを見回しながら小声で囁く。

「わーってるよ!まったく、瑠璃るりは心配性すぎ!すぐ戻れば誰にもバレないって!」

瑠璃の心配をよそに、承和は大声で返事をする。その声にびくりと肩を震わせ、慌てて口に指を当て " 静かに!" とジェスチャーをする瑠璃。承和は大げさにため息をついて、大人しく後について暗い丘を歩いていく。


空を見上げれば、視界に収まりきらないほどの星たちが各々の光を放ち、五人はしばらくの間黙って空を見つめていた。


「いっぱいあるね、星」

目を輝かせ、瑠璃が呟く。濡羽もまた上を見ながら口を開いた。

「ほんとだね。

あの星の中にも、私たちみたいな生き物がたくさん住んでいるのかな」

「かもしれないね」

常盤が相槌を打つ。


風がそよぐ。その風が来る方を見つめて、まだ見ぬ地への想いを馳せる。

その中で一人、仏頂面を崩さない猩が暗い声を出した。

「…こんな奇妙な生活はしてないだろうな。」

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