第一話
音楽室はエリーゼのために①
ぎしっ、ぎしっ、ぎしっ―――
階段を1段上るたび、上履きのこすれる音が響き渡る。普段なら気にも留めないこの音の響きが、周りにはだれもいないことを、音の主である彼女たちに理解させる。
「先輩も人使いが荒いよぅ。由美ちゃんが休んだからって、なんで私が片付けなきゃならないのさ…」
誰もいない部室棟の4階を、文句を言いながら進む少女。その両腕には段ボールの箱を抱えており、中にはCDやストップウォッチなどがいっぱいに入っている。
「綾、ごめんね?私一人で運べればよかったんだけど…」
「いやいや!そんなつもりで愚痴ったんじゃないからね?美沙っちのせいじゃないし!!――っと」
綾の隣を歩く美沙っちと呼ばれたポニーテールの少女は、ラジカセを右手に持ちながら申し訳なさそうに謝罪をした。それに対しショートボブの綾は、慌てて右手を顔の前で振りかざし弁解をするが、籠を取りこぼしそうになり慌ててそれを持ち直した。
「もう綾、大丈夫?」
それをみた美沙が綾を心配するが――
「大丈夫!落としたわけじゃないし、オールオッケー!!」
と、陽気に振舞う綾。
上を半袖のTシャツ、下はジャージを着ている彼女たちは、廊下の突き当りにあるダンス部室を目指す。彼女らは部活終わりで片づけた道具を、部室に運ぶ最中なのである。ちなみに綾は、風邪で欠席した本日の担当の少女、松永 由美の代わりを部活の先輩に押し付けられた形だ。
階段を上った先、彼女らが歩く部室棟4階の廊下には、進行方向左手の手前から応援部室、チア部室、第2音楽室、女子水泳部室と並んでおり、突き当りに彼女らの拠点であるダンス部室がある。この階に音楽室があるのは、比較的部室内に留まらない、物置として利用している部活が多いため、周りの迷惑になりにくいというのが理由の1つである。
進む彼女らを、右側から月光が照らす。
「ちょっと不気味だよねー。お化けが出たりして…」
と、左手で「うらめしやー」のポーズをとる美沙。
「ちょっ、やめてよね?!私、お化けとかチョー苦手なんから!!」
からかわれたことに本気で憤慨し、不気味さから腕を抱こうとするが、両手を籠に奪われていることに気付いてやるせなくなる綾。それをみた美沙はクスッと笑ってから、「私が守ってあげるから、大丈夫だよー」となだめる。「男らしい!」と綾は口から出そうになるが、以前それで痛い目を見たのを思い出し、何とかそれを飲み込んだ。そういう性格も、ある意味では男らしいのかもしれない。
そんなキャッキャウフフの戯れをしながら、彼女らは第2音楽室に差し掛かる―――――—
と、美沙の予言が的中することとなった。
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