初勝利

 状況は悪化の一途をたどっている。このダガンの町を占領されれば、南以降は敵の手に落ちたと言ってもいい。なんとしてでも、ここを阻止しなければならない。町の住民のほとんどは南の町に避難をさせているが、それでもこの町に残っている者もいるようだった。幸いにもここは城塞都市である。周囲は三キロメートル。外壁の高さは十メートルを超え、壁も大きな石を組んで築かれていて簡単には崩れない。門は北に一カ所だけ作られていて木製だが大きく頑丈につくられている。鎖で繋がれていて、上下に開閉する仕組みになっている。

物資も、南にあるメルフィーとアリアの町からの補給で豊富にあり、兵や住民が困窮する事は無さそうだった。

 現在ここの指揮官は、グレゴリー将軍の副官だった、イルマが執っている。彼は、グレゴリーが現役の将軍だった頃から副官をしていて、退官後は将軍として軍に所属してきた。グレゴリーが再び軍に戻って来た時に、志願して副官になったのだ。前回の戦いで、グレゴリーと、共に死ねなかった事を、激しく後悔をしていたが、上官の最後の頼みとあっては、断れなかったのだ。長年グレゴリーの元で、副官をしていただけに無念であったろう。

しかし、この国のために指揮官を買って出てくれたのには感謝すべきことである。

ロズレイドは、城壁に上がり外を眺めた。

 敵の軍勢がもうそこまで来ている。イルマは、しきりに町の安全な場所への移動を進言したがロズレイドは聞き入れなかった。

確かに自分は戦闘は出来ない。せめて自分が見える所にいれば、兵達に激励はできる。

そう言ってイルマを納得させた。城壁の上には既に兵が配置されて、弓やその他の武器などが用意されている。幅が五メートルもあるので兵の動きにも制限される事は無いだろう。

「殿下、そろそろ戦闘が始まります。危険ですので後ろにお下がりください。」

 従者がロズレイドの側に来て耳打ちした。

「分かった、そうしよう」

 後方に下がり、さらに上に作られている指示塔に入った。敵側はダガンの周りをぐるりと取り囲んでいて、特に門のある北側には多くの兵が配置されている。敵が進軍の太鼓が鳴らして、一斉に動き始めた。破城槌が門に向けて動いている。さらに、歩兵達が二十ほどの梯子をそれぞれ持って走ってきている。それを見てこちら側からは上からさながら豪雨のような矢が打ち放されている。弓の攻撃によってかなりの敵が倒されてはいるが、梯子を持っている兵は楯を構えているために矢を避けつつ、壁にとりついた。梯子をめがけて敵の歩兵は、矢の雨の中を突き進んで来ているが倒れている者も多くいる、徐々に、敵兵が梯子にたどり着き、次々と登ってくる。

「油を流して火を付けよ」

 イルマが指示をだす。兵達は、樽の中に入った油を流して、火矢を敵兵に放つ。

あっという間に、敵兵が火だるまになり、途中まで登ってきたが全て下に落ちて行く。

 大きな打撃音が聞こえてきた。破城槌が門にたどり着き、攻撃を始めたようだ。盛んに弓を放って攻撃を阻止しようと試みてはいるが、楯で防御をしているので効果は低いようだ。しかし、イルマの指示で、火で熱した油を流し始めると、あまりの熱さで敵兵が逃げ始めた。追い打ちに弓を斉射して門から遠ざける事に成功した。

 西の外壁では、敵の攻撃が激しく、盛んに梯子が掛けられていた。こちらも熱した油や、火矢で応戦していて何とか防いではいる。

 東と南からは、攻撃を受けておらず、敵兵が待機しているのが確認できる。

 午後になり、北門には屋根付きの破城槌が門を叩き始める。更に、西側には攻城塔が三台こちらにやって来ている。梯子も何十という数が外壁に取り付いて敵兵が登りだしてきていた。

敵側が本腰を入れて攻城を開始したようだ。

 今度の破城槌には、屋根が付いているために、熱した油を落としても効果が無く、燃える油を流した後に火矢を撃ち込んでみたが、破城槌を水で濡らしているために燃えない。西の攻城塔が城壁に取り付いてきて、中から敵兵が勢いよく出てきて攻撃してきた。こちらも負けずに防戦をしていて、一進一退の攻防戦が繰り広げられている。攻城塔は限られた人数しか入ってこれないのでどうしても守備隊に囲まれるので不利になるが、魔人族の攻撃力が高いために、こちらの損害も大きい。

「西の守備兵を下がらせろ、かわりに南の兵に守備あたらせろ。門にいる破城槌はいずれ乾いてくる、それを待って油や火矢を使え」

 イルマも懸命の指示を出している。そのおかげで何とか守備隊の連携がうまくいっている。

やがて、日が落ちる時間になり、ようやく敵が陣に後退していくのが見えた。どうやら今日の攻城戦は終わったようだ。

 城外を見ると敵兵の死体が累々と転がっている。一方味方の損害も無視できない人数で、怪我人を収容している施設では沢山の兵が治療を受けている。

「長い一日でしたが、何とか守り抜く事ができました」

 イルマが外の様子を見ながら近づいてきた。

「ご苦労様でした。味方の損害はどれほどなのですか?」

「今のところ、死亡者は出ていませんが、戦線に復帰できないほどの怪我人が五百名ほどでてます。損害は敵の方が多いですね。これは、攻城戦の性質上、どうしても攻撃側に損害が多くなります」

「味方が倒れても、次から次へと梯子を登ってくる様子を見ていましたが、恐怖を感じました」

「明日はもっと激しい戦いになるでしょう、こちらの損害も覚悟しなければなりませんな」

「よろしくお願いします。私はこれから兵達の様子を見て回ってきます」

「殿下、どうかご無理をせずに」

「心配ありませんよ。私に出来るのは、これぐらいしかありませんので」

 ロズレイドは下に降りて兵達のねぎらいに向かって行った。


 翌日、日の出と同時に敵が動き出した。昨日までは、北と西の城壁を攻撃してきたが、今回は東と南の城壁も攻撃してきている。それに関しては、想定済みで、イルマは冷静に兵を配置した。全範囲からの攻撃であるが、兵達は必死に敵の侵入を阻止いていた。

 午後になり、戦況が少し変わってきた、敵の破城槌が、昨日よりも大型の物が配置されて攻撃を始めていたのだが、かなり早いペースで門の損傷が進んでいた。上から弓などの攻撃があるために、それを警戒して門の前には敵の歩兵は見当たらない。イルマは、騎馬隊を編制して、馬が門を抜けられるだけ開けて、破城槌の攻撃を命じた。これは見事に撃退することに成功した。

 次に西の城壁に、昨日の倍ほどの横幅をもった攻城塔が取り付いてきた。兵達が勢いよく敵兵に向かって行ったが、二、三人が宙に舞った。攻城塔から出てきたのは、あの魔獣兵達だった。凄まじい勢いで、こちらの兵が倒されていく。

「いかん、北の兵を五百ほど西に送れ。このままでは突破されるぞ、絶対に死守しろ」

 魔獣兵を楯にして、その後ろからは敵兵が次々と躍り込んでくる。更に、もう一台の攻城塔が南の城壁に取り付いて攻撃を始めている。中から出てきたのは、やはり魔獣兵だった。

この攻撃で、城壁の上では、敵の数が徐々に増えてきてこちらが圧倒され始めている。そのため、弓兵は下がることを余儀なくされ、警戒していた敵兵が、次々と梯子を掛けて登ってきた。味方の兵が次々と倒れていくのが見えた。

 ロズレイドは、勢いよく指示塔から飛び出して、敵に向かって走り出した。従者と周りの兵がそれを何とか止めている。

「放しなさい! このままではここが落ちてしまう。なんとかして止めなければ!」

「おやめください、行ってはなりません」

「せめて一太刀でよい。私も戦いに参加させてくれ! このまま兵達が倒れて行くのをただ眺めているだけなのは、我慢できない」

 五人ほどで、ようやくロズレイドを止める事が出来た。

「貴方は死んではなりません。貴方にもしもの事があったら、この国の未来はどうなりますか。グレゴリー将軍もそれは望んではいないと思います。今、ここで戦っている兵士のためにも生き延びてください」

イルマは必死な表情でロズレイドを説得した。それを聞いたロズレイドは、ひざまつき涙を流して、うなだれた。

 北から大きな打撃音が聞こえてきた。伝令から北門が破壊されたとの報告が入った。

「殿下、このままではここの陥落は時間の問題です。抜け道を通り、港町のトラントまでお引きください」

「イルマ将軍はどうされるおつもりですか?」

「私も後から参ります、グレゴリー将軍との約束がありますゆえ、この命まだ消すわけにはまいりません」

「・・・分かりました。では、トラントで会いましょう」

 ロズレイドが従者に連れられて、指示塔から出ようとしたその時だった。

「西から、新たな敵の軍勢が確認できます、かなりの数と思われます」

 見ると、確かに西から勢いよく軍勢が近づいてきている。

「殿下、新手のようです。急いで脱出してください!」

 ロズレイドは従者に囲まれながら下に降りる階段にさしかかった。すると、場外から大きなどよめきの声が上がっている。

「味方だ! 味方の援軍が来ました!」

 それを聞いたロズレイドは思わず足を止め、引き返して外の様子を見た。かなりの数の騎馬隊が、城壁の側にいる敵歩兵を追い回している。その中には歩兵隊も含まれていて、場外から、敵の攻城塔に入って背後を襲っていた。

 訳が分からなかった、一体どこの援軍なのだろう。これ程の規模の兵がどこに?

「殿下、騎馬の先頭をご覧ください!」

 イルマは喜びのあまり震える手で騎馬隊を指した。そこには紛れもなく、親友であるフロイス・ハインツの姿があった。

「そうか、そういうことか。収容所の奪還に成功したのか!」

 竜二達が収容所の奪還に成功した後、すぐに船に乗り、川を下って駆けつけてきたのであった。これは竜二らが収容所を攻撃する計画を立てた時から決めていた事で、敵がダガンを目指して進軍していたのはその時点で分かっていたので、事前にバルドに依頼をして、アレズの町から武器や防具、馬などを用意させていたのだった。上手くタイミングが合えば奇襲できると考えていたのがバッチリとはまったのだ。

 敵を追い立てる騎馬隊の中で、ロズレイドは少し信じられない光景を見つけた。

「・・・・何だあれは」

 先頭を走るフロイスの横で、一人の戦士が武器を振るうと、敵の兵が三、四人空中に吹き飛ばされている。そして、城壁の上からも大きな歓声が聞こえた、そこでも信じられない光景を目にする。

 見ると、二人の兵士を中心にして、あの魔獣兵が吹き飛ばされている。完全に勢いに乗った王国軍兵士は、城壁と、一部侵入してきた敵兵を一掃した後に、城外に出て、敵本陣を攻撃し始めた。

 突然、思いもしない方角からの敵の奇襲に、帝国軍は完全に圧倒され敗走した。それを、味方の騎馬隊が追いに追って、かなりの敵兵を殲滅させることができた。

 帝国が王国に侵略してきて、初めての勝利であった。兵達はそれぞれに喜び合い、歓声を上げた。


 数時間後、周囲を完全に掌握した後、ようやく兵達は休息を取った。食料と酒が出し惜しみ無く兵達に振る舞われ、勝利の美酒に酔っていた。

 ロズレイドは、自分の個室にフロイスとバルドを呼んでいた。部屋の中にはミエリとイルマ将軍もいた。ロズレイドはフロイスの手を取った。

「お前に詫びなければならない事がある。グレゴリー将軍を失ってしまったのだ。すまん、フロイス。 ・・・・私が不甲斐ないばかりに」

「それは違う。命を賭けて殿下をお守りするのが我らの仕事。父は当然の事をしたまでなのだ、ロズレイドが気に病む事は無いのだ。俺は父の取った行動を誇りに思う」

「ありがとう、フロイス。イルマにも言われた事だが、グレゴリー将軍や、死んでいった兵達のためにも、どんな事があっても生き抜くと決めた」

 ロズレイドは部屋の中にいる皆に向かって誓った。

「しかし、本当によくあのタイミングで来てくれたものだ。お前の働きには感謝するぞバルド。よくぞ収容所を奪還し、妹まで救出してくれた」

 それを聞いたフロイスとバルドは、お互いに目を合わせ頷いた。

「そのことに関して報告したいことがあるのだ、ロズレイドよ」

「ん? 何のことだ」

「三人を中に案内してくれ、バルド」

 バルドは部屋を出て、外から竜二達を部屋に招き入れた。三人はロズレイドの前に来てひざまずいた。

「あなた達は一体?」

「殿下、報告致します。この三名、名を黒崎竜二、小原勝則、柏木聡と申します。実はこの三名の力をお借りして、今回の作戦が成功したのです」

 バルドは、ロズレイドに報告した。しかし、まだ合点がいかない様子で三人を見ていた。

「さっきの戦いで、敵が跳ね上がって吹き飛んだのを見たかロズレイド」

 フロイスがロズレイドとイルマに問いかけた。

「ああ、確かに見た。騎馬に乗った兵士と城壁で戦っていた兵士が、敵を吹き飛ばしていた! 彼らがそうなのか?」

「そうなのです。彼らの人並み外れた力があってこそ、作戦は成功したのです」

「それは、素晴らしい。我が軍の兵士でそんな力を持った兵がいたのか」

「いえ、ところが、彼らは王国軍兵士ではないのです」

「うん? どういう事だバルド。兵士では無いとすると民間人なのか?」

「それは、俺も聞きたかったのだ。竜二、お前達は一体何者なんだ?」

「発言をしてもよろしいか?」

 竜二は下を向いたまま、ロズレイドに問うた

「勿論です。遠慮しないで話してください」

「信じて頂けるか分かりませんが、我々は異世界から来ました。来たと言っても自分達の意思で自由に行き来出来る訳ではありません。三人で歩いていたら、突然こちらの世界にきてしまったのです」

 竜二はこれまでの経緯を皆に話し始めた。元の世界で、飲んだ帰りに突然来てしまった事、

リリスに出会って面倒を見てもらった事や、こちらの世界での、自分達の人並み外れた力

を持っていた事など全て話した。フロイスとイルマは驚いた表情をしていたが、ロズレイドとミエリは納得した表情を浮かべていた。

「兄様、これはもしかしたら」

 ミエリが何か知っている顔をして、ロズレイドの側に来た。

「・・・うん、あの話と似ているな」

 ロズレイドが腕を組んで考えている。

「どうしたんだ?」

 フロイスがロズレイドを見た。

「これは偶然かもしれないが。皆さんに、お話したい事があります。どうか椅子に座ってきいてください」

 ロズレイドは皆に座るように促し、従者に命じて飲み物を配らせた。竜二達は八人掛けの大きなテーブルに座りロズレイドが話すのを待った。

「この話は、我が王家直系の者のみが書物を引き継ぎ、必ず聞かされる話です。

今から千年ほど前。この国は、まだ一つの国家として形成されておらず、十国に分かれ、領土を争っていた、戦国時代でした。その時代の人族は魔人族、獣人族、エルフ族の奴隷としてなんとか生き延びていたそうです。そんな時、一人の若い人族の男が立ち上がります。名をボルグ・バランティー。彼は現状に不満を持った若者達を集め、一つの小さな国家を築きます。その中で三人の英雄がいました。一人はこの世の、どの種族よりも、力も速さもある、まさに一騎当千の最強の女戦士。名を三条雅。もう一人は人並み外れた知力を持ち、戦略の天才と言われた軍師、名をフレイ・ランジット。そして強力な武力と生まれつき人を惹きつける魅力を持った将軍。名をガレン・パーソン。この三人の英雄の力とボルグのリーダーシップで領土は拡大していきます。そんな中、リーダーのボルグが謎の死を遂げます、これに関しては詳しい内容は分かっていません。残された人族は一時、混乱しますが、ガレンを中心に再び息を吹き返します。人族は他の種族を圧倒していき、今の領土を獲得しました。そうして出来た国がバランティー王国です。お分かりになったと思いますが、ガレン・パーソンは初代国王になりました。ここからが話の核なのですが、最強の女戦士であった三条雅。この人の記述が非常に少なく、ボルグと一緒になって行動を始めてから、バランティー王国の建国まで生きていたのは分かっているのですが、それ以降は一切記述にありませんでした。しかし、その中で気になる記述があります。それは『この者、この世界の者にあらず』と記されていた事です」      それを聞いてフロイスが思わず立ち上がった。

「それはまさか、・・・・異世界から」

「うん、昔から私もミエリも、三条雅の存在については不思議に思っていたのだ。この世界の者にあらずと言う表現が、分からなかったのだが、今日、竜二殿の話を聞いて直感したのだよ」

 皆の視線が竜二達に注がれた。

「つまり、三条雅は俺達の世界の人間だと?」

 竜二は勝則と聡に視線を送った。

「名前からして、そんな感じはするけど、聡はどう思う?」

「偶然ではないでしょうね、『この世のどの種族よりも力も速さもあった』というのが僕達のこの世界での境遇と酷似してますし」

「不思議な事があるものだな。建国にそんな逸話があったとは、知らなかったな」

 フロイスが腕を組んでロズレイドを見た。

「話にはまだ続きがあるのだよ」

 皆、一斉にロズレイドに注目した。

「我がパーソン一族の墓地が、ガラ山脈の麓にあるのは知っている事だと思う。その中の初代国王の墳墓の側に、寄り添う様に雅が使っていた剣が安置されているのだよ」

「それはまた、知らなかったな。伝説の戦士が使っていた剣か、一度使ってみたいものだな」

「フロイスの言った通り、歴代の王が、その時代の最強の戦士に下賜しているのだ。

その剣は鞘に収まっているらしく、賜った戦士達は、全員剣を抜こうとしても抜けなかったそうだ。なのでその剣は、初代の思いがそうさせているのだろうと言う事で再び安置されていると言う事だ」

 ロズレイドはテーブル両手を置き、のぞき込む様に竜二を見た。

「そこで竜二殿。異世界から来たあなた達なら、もしかしたら剣を抜けるかもしれません。よろしかったら試してみませんか?」

 全員が竜二を見た、隣を窺うと勝則と聡もウン、ウンと頷いて竜二を見ている。

「剣に関しては、やってみても構わないんだが、もし無駄だったらどうするんだ?」

 竜二は、逆に全員に目配せした。

「それはそれで、構わないのではないか。やってみる価値はあるぞ。なあ、ロズレイド」

 フロイスがロズレイドに同意を求めた。

「その通りだ。駄目なら戻って来くればよいだけです」

 その場にいた全員が納得して賛成した。

「分かった、それでは行かせてもらう事にしよう。墓地には部外者が入っても平気なのかな?」

「いえ、墓地の内部に入るには王族の者がいないと入れません。ですので、ミエリ、頼めるかな?」

「分かりました」

 それを聞いたフロイスが、両手を併せて、パチンと鳴らした。

「話は決まったな。さて、これから竜二達の軍での処遇を決めないといけないな。客人扱いではいかんだろ」

「確かにそうだな、あれほどの戦力があるのなら一軍を率いてもらいたいですな」

 イルマがフロイスの意見に同意した。

「ありがたい話だけど、新参者の我々に、そんな待遇をして他の兵達は平気なのかな?」

 勝則が竜二を見た。

「問題ありませんよ、勝則さん。あなた達の戦いは、既に兵達が見ていて、心が震えるほど感動しています。むしろ兵達が喜ぶでしょう」

 バルドは同意を求めてフロイスを見た。

「うん。収容所の戦いを見たが、見事なものだった。」

「では、どのくらいの規模を任せるのがよいのだ、フロイス?」

「二万が良いだろう、編成は彼らに任せよう。どうだ三人共?」

その言葉を聞いて三人は驚いて目を合わせた。

「二万ですって、どうするんですか?」

 聡が小声で二人を見た。

「戦闘能力を考えたら、俺達が引っ張らないと駄目だしね、やるしかないと思う。ただし、竜ちゃんが頭をやってよ」

 勝則が竜二に囁いた。それを聞いた竜二が頷いてロズレイドを見た。

「分かりました。微力ながらお引き受けいたします」

「決まりですね。それでは編成はフロイスと話し合ってください。今まで敵に押されっぱなしで気持ちが落ち込んでいましたが、今日からはそれも吹き飛ばせそうです。私は戦いに参加出来ませんが、戦のサポートは全力でやらせてもらいます。これからも、お願いします」

 全員が立ち上がりロズレイドに一礼した。


「では、これからタップリと飲むとするか。お前達付き合え!」

 フロイスが竜二達を呼んで歩き出した。ロズレイドの部屋を出て、兵士が集まって飲んでいる広場に着いた。

「みんな、聞いてくれ。この三人の事は知っているな。彼らは我が軍の兵となった。先ほど殿下から二万の兵の指揮を任されたぞ!」

 フロイスは大声で兵達に告げた。大きなどよめきの声が聞こえたが、すぐに歓声に変わった。

兵士達は、竜二らに掛けよって、酒を注ぎ、そして、彼らを囲むようにして酒を飲み始めた皆一様に竜二達を歓迎している。

「ほら、どうだ。皆喜んで歓迎しているぞ」

「ああ、そうだな。では、一杯頂戴しようかな」

 竜二とフロイスが杯をを交わして飲み始めた。

「敵は、今どのあたりまで下がったんだフロイス」

「隠密隊の報告だと、かなり北まで下がったらしい、おそらく、テグの町まで下がるだろう」

「では、暫く出てこれないな」

「ああ、きっちり軍の編成ができる。そう言えば王族の墓地はいつ行くのだ?」

「明日にでも出発しようと思う、後で王女に話しておかないといけないな」

「まあ、馬車で三日もあれば行けるだろう」

「そうか、俺が行ってどうなるもんでも無いだろうが、行ってみるさ」

「さっき、ロズレイドが墓は山脈の麓にあると言っていたが、その付近は少しやっかいな連中が近くにいるんだ」

「どんな連中なんだフロイス」

「山を根城にしている盗賊団で、『陰狼』と呼ばれている。山脈は人族、魔人族、獣人族の三つの国をまたがっているので、奴らはそれを利用して、三カ国に盗みを働いているわけだ」

「野放しにしてるわけでもないのだろ?」

「勿論、各国が別々に討伐軍を出しているのだが、深い山々で人数を多く出しても身動きが出来ないのと、奴らの本拠地が未だに不明なんだ」

「ふむ、確かにやっかいだが、少人数で隠密隊をだして探ればいいじゃないか」

「勿論出したさ。しかし、すぐに連中に見つかって身ぐるみ剥がされて帰ってきてる」

「見張りがしっかりしてるのだな。連中の人数がどのぐらいだ?」

「これも不明なのだ。しかし、以前、魔人族の国に押し入った時に聞いた話だと五千は超えているという話だった」

「おい、おい、一軍が出来るじゃないか。それは脅威だな」

「そうなのだよ。しかし、国を転覆させようとはしていない。あくまでも窃盗がメインだ。まあ、お前がいれば問題ないがな、一応耳に入れておこうと思って言ったのさ」

「分かった、頭に入れておくよ」

 うまそうな匂いがしてきた、肉をどこかで焼かれはじめたようだ。勝則と聡も、他の兵と混じって飲んでいる。

 二つの月がやたらと大きく見えた。


翌日の朝、部屋の戸を叩く音が聞こえた。竜二は眠い目をこすりながら戸を開けるとそこにはミエリが立っていた。

「呆れた、まだ寝ていたのね。夕べは遅くまで飲んでいたようね」

両手を腰に当ててミエリは笑っていた。

「これは、王女。申し訳ない、今すぐに準備をしてきます」

 勝則も声を聞いて起きてきた。聡は夕べから他の兵とどこかに行っていて同じ宿にはいない。 竜二はすぐに着替えを済ませて、顔を洗い寝癖を直している。

「ああ、そうだった。竜ちゃん、今日行くのだったね」

「すっかり寝過ごしてしまったよ。ヤバいな王女を待たせてしまったよ」

 竜二は慌てて外に出たが、そこには、王女の侍女であるマリーと、荷物を積んだ馬が二頭

いるだけであった。マリーを見かけた勝則はビックリして竜二を追うように出てきた。

「マ、マ、マリーさん、おはようございます。マリーさんも一緒に行かれるのですか」

 それを聞いたマリーは少し困った顔をした

「いえ、私はここで、王子殿下と共に行動せよとミエリ様にいわれているのです」

「え、そうなんですか? お付きの人達や馬車はどこにあるのですか」

 竜二は目をパチクリとしてミエリを見た。大きく息を吐いてミエリは竜二に人差し指を向けた。

「はじめに一つ言っておくわね。私の事はミエリでけっこう、私も貴方の事は竜二と呼ぶわ。変に形式張った言い方はしないで。それと、行くのは、私と竜二の二人だけよ」

「ええ、二人だけで行くの? だって行くのに何日かするぐらいの距離なんでしょ? 大丈夫のなの竜ちゃん」

 勝則が目をむいて竜二を見た。

「普通、ご先祖様のお墓参りに行くぐらいで、大げさにするかしら? それに途中にアレズの町もあるし、野宿ぐらいだったら、たき火の火があれば充分に夜を過ごせるわ」

 それを聞いた竜二は、思わず吹き出して笑った。

「サッパリしているんだな。分かった。それじゃ、行こうか。勝ちゃん、軍の編成は昨日話した通りだから、フロイスと連携などの話をしておいてよ」

 竜二は勝則に片手を上げると、用意されていた馬に乗り込みミエリと共に出発した。

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