東北本線② 黒磯→郡山

黒いその影が見えてから数日、私は「それ」に怯えながら生きていた。


「それ」は高く飛んだり右往左往したりしていたが、どうやら私にしか見えていないらしい。


黒い影はだいたい家の近くの原っぱにいる。


ふと「それ」をよく観察しようと原っぱまで行ったら


白い花を持って話しかけてきた。

「さぁ、会話をするか。お前に俺は見えてるらしいし。」


宮殿で見た紳士のような姿だった。

「とりあえず座りな。」

「お前は一体なんなんだ…?」


「お前とは失礼だな。こういう風に俺ら日本語で会話できてるのに気づいてないのかよ?」

「あっ…そういえば…」

「俺はここで死んだ日本人の霊。変わってるだろ?」


「はぁ、生きた日本人に会うのは久しぶりだな。もうクタクタだ。」

「お前…じゃだめならなんて呼べば良い?」

「俺は『アサカ』と呼んでくれ。」

「わかった。じゃあアサカは何年前にいたんだ?」

「そうだな…十年以上は昔だな。」

「そ、そんなに昔!?」

「今考えてみると結構長い時間待ってたんだな…暇な時はいつもこの野原に来てたが…」


「アサカはどこで…」

「あぁ、俺はそこの泉の向こう側でな。」


「どうやって…?」

「ここは主に狩りで食べ物を用意するのはわかるよな?それで流れ弾に当たってな。」


「で、何故今まで…」

「最近までそれに気づかなくてな。地面に表面が綺麗な石が落ちて、それに映った自分を見てね。でもこの体でいることが慣れちゃったんだよな。」


「どこに実家があるのですか?」

「うちは香川だ。」


「そういえば『アサカ』ってどんな字書くんですか?」

「『荒れる』に『栄える』で『荒栄』。」

「まさか…うちの会社に勤めてた…?」

「本名を言えばわかるか?『荒栄 ナガモリ』って言うんだが…」

「まさかその漢字って『流れる』に護衛の『衛』…?」

「そうだ、よくわかったな?」

「そりゃそうですよ!うちの会社で伝説として語り継がれているんですから!」


「あれ?でも本体って…?」

「あの氷山の上に墓のようなものがあってそこに埋まってるらしい。」

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