子供
次の日、ピンポーンと随分聞いていなかった家のインターフォンが部屋に鳴り響き、重たい腰をあげながら俺はゆっくりと玄関の扉を開いた。
するとそこには案の定、俺の両親がにこやかな表情でたっていた。
「久しぶりだな、元気にしてたか?」
「まぁ、そこそこ」
明らかに元気ではないような返事をした俺に親父は愉快そうに笑いながら靴を脱ぎ始める。
それに続いてお袋も靴を脱ぎ出した時だった。
「ほら、綾もこっちへいらっしゃい」
「あや?」
聞いたことのない名前に疑問を抱いていると、名前を呼んだお袋の後からひょっこりとこちらへ顔を出したのは4歳ほどの女の子だった。
良い歳こいた老夫婦が何やってんだ。と思いながらその女の子を見ている俺を無視して両親はスタスタと部屋へ入っていく。
しかし、女の子はその後ろへはついていかず、俺の方をじーっと見つめている。
「なっ....なんだよ」
女の子の視線に耐えきれなくなった俺がそういうと、女の子は勢いよく人差し指を俺に向けてきた。
「おひげぼーぼーお化けだ!」
「は?」
それだけ言うと女の子はパタパタと走ってお袋の膝の上へと座った。
「誰がひげお化けだ」
いくらクズな俺でも失礼な言葉を言われると腹が立つもので、洗面所の鏡をこっそり覗いてみると、そこには不潔な自身の顔が映っていた。
自分の顔を鏡で見たのは久しぶりなわけで、俺は少し錆び付いた髭剃りを使った後にリビングへと向かった。
俺が両親の目の前に胡座をかくと、親父がどこか深刻そうな顔をして咳払いをひとつする。
「心の準備はいいか?」
親父にそう言われてだいたい予想のついている俺は真顔で頷く。
恐らく良い歳こいてできた二人目の子供、俺の妹の養育費のためにお前への仕送りは今後一切しない。とか言ったことだろう。
そう考えながらお袋の膝の上に座る妹(仮)をギロっと睨みつける。
「実はな、お前に綾を預かって欲しい」
「はぃ?」
親父の予想外の言葉に思わず情けない声が漏れた。
そして親父はお袋に何か目で合図をすると、妹(仮)を連れて家の外へと出ていった。
「預かるって..意味がわかんねぇんだけど」
「俺と母さんはもう歳だからあの子と沢山遊んであげるには限度がある」
そう言って俺の目を真っ直ぐと見つめる親父。
「そんなの良い歳こいて子供作るのが悪いんだろ」
俺がそう言うと親父は頭にはてなマークを浮かべた間抜けな表情で俺を見ていた。
そして急に大きな声で笑い出す。
「はははっ!お前綾が俺と母さんの子だと思ってたのか!」
何が可笑しいのかそう笑いながら言った親父は再び真剣な表情へと変わる。
「あの子はな、家の前に捨てられてたんだよ」
「捨て子?」
現代でも昔のような捨て方をする親がいるんだなと思いながら親父の話に耳を傾ける。
「はじめは孤児院に預ける予定だったんだが、母さんが可哀想だって言ってな。家で引き取ることにしたんだ」
そう言って親父はポケットからタバコを取り出し吸い始めた。
「だけど父さんも母さんももう歳だから体力が追いつかない。それで綾にお前の話をしたら会いたいって言ってな!連れてきたわけだ」
親父がそう言い終わると同時に玄関の開く音が聞こえて席を外した二人が帰ってきた。
パタパタと元気よく鳴る足音が聞こえてくると、そいつは親父に勢いよくダイブし、また俺を指さした。
「お化けだ!」
そう言って俺には眩しすぎるほどの無邪気な笑顔で笑うと今度は親父が俺を指さした。
「綾、良かったな!お兄ちゃんがこれからずっと遊んでくれるらしいぞ!」
「はぁ!?俺はまだ何も!」
「ほんとうに!?」
キラキラとした眼差しをこちらに向けてくるそいつに俺は思わず目を逸らす。
しかし、逸らした視線の先に今度は両親と目がばっちり合った。
するとにこやかなお袋が口を開く。
「一真、貴方いい大人なのにまだ仕事もしてないでおまけに親から仕送りしてもらってるわよね?
それなのに親のお願いを聞かないなんてどうかしら…」
そのお袋の圧倒的言葉に俺は何も言い返せずに黙っていると、いつの間にか玄関で靴を履き始めている両親
「じゃぁ綾、お兄ちゃんの言うことしっかり聞くんだぞ」
「あまり迷惑かけちゃダメよ綾」
「うん!」
「ちょっ!待てって!おやz」
俺が言葉を言い終わる前に玄関の重たい扉はバタンと閉じられた。
揺れる鞦韆 @ohchan
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