優しい悪魔に出会えたら

コオロギ

優しい悪魔に出会えたら

 その人はサクマと名乗っていた。

 ぼくはサクマさんが悪魔であることに気づいていた。

 サクマさんはぼくの友人にとりつき、契約を交わした。

「望みを叶えてあげますから、あなたの魂をくださいね」そう言って、友人ににこっと微笑んだ。

 友人は悪魔であるサクマさんにたくさんの願いを叶えてもらった。それは些細なことから大層なことまで、どんなことでも。サクマさんは嫌がりもめんどくさがりもせず、いつもにこっと笑ってそれを叶え、友人が喜ぶの見てとてもうれしそうに「喜んでいただけて幸いです」と微笑んだ。

 ある日、友人が真っ青な顔をしてぼくのところへやってきた。聞けば、サクマさんがいなくなってしまったのだという。手分けして、友人の思い当たるところはすべて探したが、結局サクマさんは見つからず帰ってくることもなかった。友人は憔悴し、まるで魂を吸いとられたかのように虚ろになってしまった。

 やがて友人は病院に搬送され、今なお入院している。

 誰が話しかけても返事は返ってこず、ただひたすらサクマさんを待っているのだった。

 そんな友人を憐れに思いながらも、ぼくは実のところ、少し羨ましくも思う。

 サクマさんは常に友人のそばに寄り添い、美しく笑っていた。

 サクマさんは宣言通り、友人の願いを叶え、魂を奪っていったのだろう。

 いつか、ぼくもあの優しい悪魔に出会うことができたなら、魂と引き換えに、ずっとそばにいてほしいと願ってみようと思うのだ。

 悪魔は笑って、願いを叶えてくれるのだろうから。

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