行間7-2 -招かれざる客人-
「はい、お待ちー!」
「おぉーッ」
ドンッという期待と充足感を同時に満たす魅惑の重音。
テーブルの上の盛りに盛られたフルーツ特大パフェを前にして、軍服ライクな黒服に身を包む角の生えた幼女は目を爛々と輝かせていた。
「こ、これが、『すい~つ』……ゴクリ……美味そうなのだ」
人間が作る甘くてフワフワな極上の食べ物。
少女は初めて見るその圧倒的な存在感に涎が止まらない。
「へへ、コスプレの嬢ちゃん。こいつはただのスイーツじゃねぇ。イストステラ名物。その名もゴールデントロピカル!」
「おぉ、ゴールデン……ッ!」
実はあまりよく分かっていない。でもとにかく魅力的に聞こえる言葉の響きに
「では……いただきますなのだ」
銀のスプーンを手に取り、彼女は柔らかい生クリームに先端を滑り込ませ、みずみずしいパイナップルも一緒に食べようと恐る恐る掬い上げた。
「あ~ん――」
「見つけたーッ!!」
その時、
「げ……ッ!?」
「もー、こんなとこで何してるの、
「な、何のこと……なのだ?
「フフ~ン、僕の鼻からは逃げられないよ。君の匂いはバッチリ覚えてるからね!」
サーカスの曲芸師のような奇抜な風体の少女――追跡者フランは自分の鼻の先端をツンツンと人差し指で突きながら胸を張る。
「コスプレ娘がもう一人……今日は何かのイベントか?」
店員が首を傾げる前で、フランはスッと
「は、離すのだフラン!
『
「ひぐッ――」
まるで空腹の腹を抉るような冷たい声。
突然聞こえてきたその声に
「こ、
『フフ、フフフフフ……』
フランの携帯端末の画面に映る
「ガハ、ガハハハハ……」
もはや画面を貫通してド直球に伝わる
『戻ったら……お・し・お・き、ね?』
「……おぅふ……」
そのただ一言で
今はただ、干された布団のようにぐったりと情けなくフランの腕にぶら下がっていた。
『ハハ、まさか機内に忍び込んでいたとはね。
「エッヘン、お安い御用だよ」
どうやら
しかもどういう訳か科学、魔術どちらの監視網でも彼女をまともに捉えることができないときた。だからこうして彼女を捕まえるにはフランの嗅覚を頼るしかなかった。
「うがーッ! だいたいパパが
両足をシャカシャカと振り回し、駄々をこね始める
もちろん、彼女たちを本社に置いて行ったのには理由がある。
そもそも彼女達は魔神――ネフィリムをも超える魔獣の最上位種だ。いくら意思疎通が可能とはいえ、この島の滅魔士からすればターゲット以外の何者でもない。こちらがどんなに言葉を尽くすにしても、なまじ一騎当千の力を持っているだけに、彼らの理解を簡単に得られるとは考えにくい。
まさに招かれざる客人だ。
『はぁ……困ったものだね。フラン君の話を通すだけでも一苦労だったというのに』
「アハハ……」
トンデモ生物という意味合いでは出自は違えどフランも魔神に引けを取らない。しかし
「まぁ付いてきてしまったものは仕方がない。送り返すにしても少々骨が折れる。今はこちらの要件を優先しよう。フラン君、その子を連れて今から指定するポイントへ来てくれるかい?」
『ごめんなさい、フラン。少しの間、
「あいあいさー! よっと」
フランは二人に満面の笑顔で返し、
「のわっ!? ま、待つのだフラン! せめて、せめてこのゴールデンだけでも!!」
「ダーメ。だいたい君、お金持ってないでしょ?」
「オカネ? 何だそれ? ウマいのか?」
「ハァ……というわけで店員さん、ごめんなさい。スイーツはキャンセルで」
「いやいや、もうお出ししちゃってるから無理だよ! お代はきっちりいただくよ!」
フランは可愛らしくウィンクするが、だからといって店員は首を縦には振らない。
彼の言うことは至極もっともなのだが、とはいえ彼女にも持ち合わせがない。
「ではそのゴールデントロピカル、僕が買い取らせてもらうよ」
双方困り果てていたそんな時、群衆を掻き分けて一人の牧師が姿を現した。
「ゼ、ゼラート様!?」
店員はひどく驚いた様子ですぐさま膝を付き、頭を下げる。彼だけではない。周囲にいた民衆も皆同様だ。
「えーっと」
「フッ、行っていいよお嬢さん方。さぁ、支払いは僕に任せて」
「でも……」
「気にする必要はないよ。何たって『黄金』は僕の専売特許みたいなものだからね」
「?」
少々異様な空気に包まれ思わずフランは気圧されるが、突然現れたゼラートという牧師はあくまで朗らかに微笑みかける。
「ふざけるな! それは
「ありがとう、お兄さん。じゃあ僕たちは行くね」
フランは余計なことを言う
「……あれが
彼女たちの背中を見送りながら、ゼラートは特大パフェを口にした。
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