第221話 大裂目 -Over crack-
・1・
「ところで俺たちはどこへ向かってるんだ?」
挨拶を交わし、
「入国手続きとかも、まだですよね?」
ユウトの問いに続けてレイナも首を傾げている。
「ご心配なく。すでに手続きは完了しております」
光の反射で眼鏡をキラリと光らせたジーザスはそう答えた。
「ハハ、さしずめ魔術による広範囲感知システム、といったところかな? 僕たちがこの地に足を踏み入れた時点で何か動いた感覚はあったからね」
「然り。それはこの人工島を流れる霊脈をベースとした大規模結界魔術。あなた方の魔力を記録しています。手続きの一環とお考え下さい」
どうやら
結界魔術といっても、外部からの干渉を防ぐようなものではない。むしろその効果は内側へと限定しており、結界内の全ての人間の魔力をパターンとして記録・管理する術式らしい。
ジーザスによると、その気になれば誰がいつどこにいたのかなど大まかな情報を得ることも可能らしく、都市の治安維持にも大いに活用されている魔術だそうだ。
「そして吉野様の質問に対する回答ですが、現在我々は教会本部へ向かっています」
「それは君たちが崇拝する猊下とやらに会わせていただけるという意味かな?」
「残念ながら……猊下はお忙しく、此度のあなた方への応対は全て私に一任されております。もし面会をご希望であれば私から打診はできますが?」
「いや、いいんだ。けどそうなると、何か君が見せたいものがそこにあるということなのかな?」
今度は首を縦に振るジーザス。
「然り。これよりあなた方にお見せするのは、このイストステラがこの場所にある理由にして、我ら教会が管理する特級秘匿事項」
彼は人差し指を唇の前に立て、こう告げた。
「魔獣出づる次元の裂け目」
「……ッ、待ってください。それって!?」
これまで黙っていたアリサは何か思い当たったようだ。
「そう、あなた方の言葉でいうなら『
・2・
それはユウト達が
「
「
「不自然なほどにね。もっとも
地下へと向かう狭い通路。ジーザスの後ろを歩く
「到着しました。ここより先は他言無用でお願いします」
そう言って彼は重い鋼の扉をゆっくりと開いた。
そこには――
「「「ッ!?」」」
皆、言葉を失う。
ユウト達の目の前には、地下とは思えない広大な鉄の空間が広がっていた。
全長およそ500m。東京ドームが3~4個は入りそうな広さだ。
下は大穴。十分な光が届いていないのか暗くて底はよく見えない。
「わぉ、ひろーい!」
「ちょっ、大人しくしててください!」
非現実的な空間に興奮して危なっかしいフランをアリサが後ろから制止する。
「お気を付けください。壁の外は深海ですので」
ジーザスの言う通り、今いるこの場所は島の中心。その下に広がる海を円柱状にくり抜くように建設されたのがこの巨大空間の正体なのだろう。
「あれです」
橋を渡り大穴のほぼ中心まで移動して、彼は遥か下を指さした。
「あれが……」
目を凝らすと、それはようやく視認できる。
暗い暗い穴の底。深淵のその先で、大口は開いていた。
「待って、おかしくない?」
「えぇ……いくら何でも……」
「……大きすぎる」
その理由をユウトが呟いた。
「巨大な、
深い場所にあってもなお不自然なほど強すぎる存在感を見せるそれは、過去確認された中でも間違いなく最大サイズの
「我々は『
「
「確かに……こいつは桁違いだな」
「……ッ」
ユウト達先輩組はもちろん、レイナやカイン、
「あくまで結果論ですが、世界中から
「なるほど。確かにそれは一理あるね」
「博士、どういう意味?」
小さく頷いている
「知っての通り、あれは一種のワームホールだ。位相幾何学上では実現し得るいかなる時間、空間、場所をも繋げるトンネル。だが残念ながら人類にはまだそれを実現する術がない」
彼女は両手の人差し指を始点と終点に見立てて移動させ、ワームホールの原理を簡単に表現しながらこう続ける。
「とまぁ、仕組みはともかく、その実現にはまず間違いなく莫大なエネルギーを必要とするはずなんだ。それこそ神様の奇跡クラスのね」
「要は俺たちには想像もつかないような超自然的なエネルギーが働いてやがる。そう言いてぇのか?」
「うん。科学者としては何とも不本意極まりない話だけどね。何ならそれ自体は地球そのものを術者とした特大魔術とも言えるかもしれない。ま、とにかくそのエネルギーの観点でものを考えると、
異なる空間を捻じ曲げ、強引に繋げてしまうほどの馬鹿げたエネルギー。それが何の縛りもなく無尽蔵とはとても考えづらい。
となるとこの地球上で一度に発生する
眼下で大口を開ける
「まぁ、あくまでジーザス君の話を踏まえた上での都合のいい推論止まりだけどね」
「然り。偶然開いた世界最大の
ジーザスは胸に手を置き、祈るように天を仰ぎ見る。
「魔獣は、いったいどれくらい発生するんですか?」
「毎日。その数は大小問わず、少なく見ても200は超えるでしょう。ですがご安心を。先程申しましたようにここは我々の絶対防衛ライン。日夜彼らが駆逐に努めております」
アリサの質問にジーザスは下を指さして答えた。
よく見ると円柱状の壁に沿って教会の滅魔士たちが控えていた。それも10や20ではない。軽く100人は超える規模の大隊だ。有事の際の魔術による狙撃。複数人で構築する障壁魔術など。おそらく下から壁をよじ登って来る魔獣を彼らが地の利を活かして効率よく狩っているのだろう。
「それで、そろそろあれを俺たちに見せた本当の理由を伺ってもいいですか?」
ユウトはジーザスに問う。
ここに
けれどそれだけではないような気がする。何となく、べっとりと張り付くような嫌な感覚が背筋をなぞっていた。
「実にシンプルな話ですよ」
その理由はすぐに分かる。彼が質問にこう答えたからだ。
「私は探し求めているのです。
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