第220話 歓待 -The last piece has arrived-
・1・
着陸した飛行機が完全に停止し、その扉が開かれると最初に目に飛び込んできたのは、一切の乱れなく左右に整列する何人もの滅魔士たち。
「ようこそ、
そしてその中心でひときわ異彩を放つ丸眼鏡の神父――ジーザス・フォーマルハウトは来訪者一行を出迎えた。
「やぁ、ジーザス君。こうして顔を合わせるのは随分と久しぶりだね」
「然り。お互い多忙の身。このような機会は滅多にないでしょう。まさしく奇蹟! 我が神が与えたもうた恩寵に感謝をしなければ!」
「アハハ……」
特有の芝居がかった少々とはとても言えない大袈裟な反応。言葉だけでなく体全体で鬱陶しいほどに喜びを主張するジーザス。
顔にこそ出さないが、
「あの博士が気圧されてやがる。まぁ、分かりやすくウゼェから無理もねぇが」
「ちょっとカイン君! 言い方!」
そんな彼女をやや面白そうに観察するカインをレイナは小声で窘める。
「そして吉野ユウト様。あなたのご来訪もまた、我ら一同歓迎いたしましょう」
ジーザスは続けてユウトにも深々とお辞儀をする。
彼らとの関係は数年前に遡る。
当時、
そもそも
「リュゼは、来ていないのか?」
ユウトは先日再会した自分の監視役についてジーザスに尋ねる。彼は少し口をつぐむと、こう告げた。
「……彼女は現在謹慎中の身ゆえ、
(やっぱり……)
「ですがお会いになりたいのであれば、彼女の孤児院を尋ねるのがよいでしょう。よければ後ほど場所をお伝えしますが?」
「……」
ユウトはその提案に小さく頷いた。
どうやら島内にはいるらしい。
「ユウト君」
「?」
立ち話もそこそこに、皆を案内するためジーザスが振り返ったのを見計らって、
「さっき光ったクロノスの件だけど、今は黙っていよう」
そう提案し、彼女はこう続ける。
「君も察しているだろうけど十中八九、彼らも
ユウトを守っていた時のようにクロノス自体に魔力が残っていたわけではない。彼の魔力に呼応したわけでもない。となると考えられるのは――
「この
「何か……?」
「うん。そしてそれが何にせよ、クロノスを所持する事実が露見すれば、君が何者かに狙われる可能性は極めて高くなる。最悪の場合……」
「……わかった」
クロノスの反応の謎。まだ見ぬ何者かの正体。
誰が仲間で、誰が敵なのか?
今はまだ、何も分かっていない。
・2・
「このタイミングでよりにもよってこの場所にクロノスを持ち込んでくるとはねぇ。クク、やるなぁ!」
遠隔操作の式神から送られてくる念視――そこに写るユウト達の姿を眺めながら、魔人ドルジは手に持ったワインを弄ぶ。
「全く、人の気ぃ引くのが上手いなぁ。こうもブツが揃うと余計に試してみたくなるじゃねぇか」
そう言って魔人は足元に転がった銀のアタッシュケースを無造作に踏みつけた。
『そのけったいなケース、いったい何ですの?』
目の前に置かれたパソコン。『Voice only』の文字からは女性のものと思われる加工された音声が聞こえてくる。
「フッ、これか? こいつはどびっきりのオモチャさ」
世界各地に点在する
彼女の死後、その管理権限は
そんな彼が工房の機能を総動員して作り上げた秘蔵の品とも言うべきもの。それが今、足元に転がっているケースの中身だ。
「俺様の計画とは別モンだが、方法としては悪くない。利用できそうなんでかっぱらってきたわけなんだが……一番重要なパーツが足りなくて持て余してたんだよ」
『ほぉ~ん、それはそれは』
画面の向こう側の人物もそれを聞いて楽しそうに笑う。
「どうにかしてアレ、奪い取れねぇかなぁ」
偶然か、必然か。取ってくれと言わんばかりにお膳立てされたこの状況。乗らない手はない。
問題はアレを吉野ユウトが所持しているということ。
力を取り戻しただけに留まらず、吉野ユウトは己の魔法をさらに一段階先へ進化させた。少々厄介だ。その上、取り巻きや
『ほな、ウチのシマ使いましょか?』
「ほぉ、何か良い策でもあんの?」
『なぁに、リュゼたん使えば一発でおびき出せますやろ。あの子の身は今ウチの手の内や』
程なくして画面が切り替わり、策謀の草案が共有される。
『それにドルジはんは上客やさかい、サービスは当たり前です。お客様は神様、ってな』
「ククク、悪いシスターもいたもんだ」
ドルジはワインを一気に飲み干す。
暗い部屋の中で、淡い画面の光が不気味に吊り上げられた彼の口端をうっすら照らし出していた。
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