第218話 交わらぬ師弟 -Unforgivable love-
・1・
次の日――
ユウト達は再び会議室に集った。
メンバーは前回の会議に引き続きユウト、
「というわけで、
「目的は
「
「うーん、
独自に体系化された魔術を扱う『滅魔士』と呼ばれる者達。彼らは人に仇なす魔を狩り、世界に安寧をもたらすことを天命としていると聞く。
「私も概ねその理解です。もっとも今は2年前と違い魔獣の発生件数は世界的に見ても減少傾向にあります。旅先で何度か彼らを見かけましたが、今の仕事はもっぱら博愛主義を説きながら行うボランティア活動でした。あとは――」
「
アリサの言葉に
「言うまでもないことだけど、僕とユウト君は彼らの監視対象だ。だからそれぞれに
リュゼ・アークトゥルスとジーザス・フォーマルハウト。
「まぁ監視とは言っても、基本的に二人とも
「そうだね。前回あちらさんが動いたのも、私たちがユウト君の所在を見失ったからってリュゼは言ってたし」
「ねぇ、ユウト」
「ん?」
「リュゼと寝たってどういうこと?」
「ブッ!?」
突然の糾弾に狼狽えるユウト。瞬時に彼は
「そうですね。聞けば彼女と五分の眷属契約まで結んでいたとか……私たちを差し置いて」
さらにアリサまでジト目で追撃する始末。
「い、いや……それは俺もこの前まで全く知らなかったっていうか……」
「実は告白までされてたんだよねぇ。この前はキスもしてたし」
「あれは……って、姉さん、頼むから火に油を注がないでくれ!」
「ベー、だ」
しまいには舌を出してそっぽを向く
「ハハ、いい機会だ。この際ここでユウト君の口から彼女との関係を聞いてみるかい?」
それを面白そうに見守っていた
「いや、それは本題とは――」
「「「……ッ」」」
眷属三人の視線がユウトに突き刺さる。
「……はい」
時すでに遅し。
もはやYes以外の選択肢はなかった。
・2・
「先に断っておくけど、眷属の件に関しては本当に知らなかったんだ」
「まぁそうだろうね。ましてや五分契約は特別だ。安直な考えでユウト君がそれをするとは思えない」
「……補足どうも」
「ハハ、どういたしまして」
同じ
完全に対等な関係。もはや眷属というより分け身に近い。
自分の力の半分を相手に委ねる行為に他ならないからだ。
「リュゼとは師弟の関係だと思ってる。2年前の俺は
当時のユウトにとって一番の課題。
それは他を圧倒する魔力を持っていても、それを十全に使いこなす技量がなかったことだった。確かにユウトの魔法――
力任せが通じないことはもう海上都市で嫌というほど味わった。だからこそユウトに必要だったのは勝つためのプロの視点だった。
「言うまでもなく向こうは
ユウトの説明に
技術の習得とあらぬ疑いの払拭。この二つを同時に解決できるまさに一石二鳥の提案。とはいえ彼の交渉力がなければこの話は実現しなかっただろう。
「で、その……告白の件だけど、確かにそういうことは……あった」
「「「ッ!?」」」
戦術指南を受けるにあたり、ユウトはリュゼと教会が管理する無人島で生活をすることになった。
期間は3か月。その間にユウトは彼女から魔術に関する基礎知識全般。加えて魔法に頼らない戦い方を徹底的に学んだ。そんなふうに毎日リュゼの手ほどきを受け、寝食を共にする中で、自然と彼女との距離は近くなっていった。
そして最終日も近いある日、彼女に呼び出されたのだ。
「な、何て言われたの……?」
「さすがにそれはプライベートなことだから俺の口からは言えない。けど、まぁ……告白はされた」
当時の事を思い出したのか、少し照れ臭そうに語るユウト。
「けど、きっぱり断ったんだよね?」
本人の口からそう聞いた
「正直意外だったんだよね。てっきり相手を傷つけないようにやんわりはぐらかすと思ってたもん」
「
「孤児院?」
アリサは小さく首を傾げる。
「話を聞いただけだけど、リュゼは小さな孤児院を経営してるんだ」
滅魔士の仕事には必ずと言っていいほどに『死』が付きまとう。
突如現れた魔獣に。あるいは魔術に魅入られた愚か者に。弱者が命を奪われることは少なくない。リュゼはそうした大切な人を奪われ、残された者たちに分け隔てなく手を差し伸べていたそうだ。
「大抵は安全に住める場所を斡旋したり、どこか信頼のおける養護施設に預けるみたいだけど、中には特殊な事情で受け入れが困難な子がいるらしい。そういう子たちはリュゼが直接引き取っているらしい」
「あの
どうやら
彼女たちが知るリュゼは『神はそんな細かいことまで見はしない』とか都合のいいことを言って全てを拳で解決する横暴なイメージが圧倒的に強いらしい。
「彼女の事情は理解しましたが、それがどうして告白を断る一番の理由になるんですか?」
アリサはユウトの説明を噛み砕いた上で、そう質問した。
「
「そうだね。私たちがいた孤児院も
そこで初めて
「リュゼが孤児院を維持できるのは彼女が
「けどもしそのリュゼがユウト君に篭絡されたと教会が判断すれば……」
「あいつの立場が危うくなる」
ポツリと呟いた
「ふむ。実際、その疑いはあったと思うよ。真実か否かはさておいてね。なんせ大きな組織だ。彼女を蹴落としてその座に着きたいと企む人間がいても何らおかしくない。だからこそ彼女はユウト君の力の半分を奪い、封印するという分かりやすい絵でその嫌疑を捻じ伏せた、とか」
あくまで僕の想像だけど、と付け加えて
「ちょっと待ってください! それが本当なら今の彼女は……ッ」
思わず椅子から立ち上がり、前のめりになるアリサ。
仮に
「事と次第によっては相当マズい立場になっているだろうね」
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