第213話 命題の否定者 -The white wisdom-
・1・
「OK……まずは状況を整理しようか」
会議室の最奥に静かに腰かける
「そうだね、今回は有意義な議題が盛り沢山だ。君は相変わらず面白い問題を抱えて戻ってくるね」
「アハハ……」
今、会議室いるのは4人。
「まずはお前の新しい眷属についてだ。ユウト、率直に言うが本当に
そして
彼女の出自については既に皆に周知しているが、その是非については本人を交えたここにいるメンバーで話し合うこととなった。
「彼女が
二人が懸念するのはもっともだ。
実際、フランを知らない者からすれば、敵のスパイを受け入れるようなもの。むしろ警戒しない方がどうかしてる。それはユウトも十分に理解していた。その上で彼は新しい眷属を――フランを守らなければならない。
「確かにフランを作ったのは
「ふむ、体は同じでも心は別物。随分と感情的な意見だね」
言っていることは正しいのかもしれない。けれどこと議論の場において感情論はご法度だ。どこまで行っても己の主観でしかないそれを決定打にしてしまっては大局を見誤る。
「もちろん感情だけじゃない。俺はこの子に助けられた。力を失ってた俺を殺そうと思えばいつでもできたはずだ。それをしなかったのはこの子の中に
「……ユウト」
黙って俯いていたフラン。そんな彼女に
「君の意見を聞かせてくれるかい?」
「……アハハ、やっぱり僕なんかを信用しろって言っても無理だよね……」
少し自虐的笑みを浮かべるフラン。彼女もこの問題がどうやっても避けられないものだということは重々理解しているのだろう。
しかし相手の返答は意外なものだった。
「実際そうでもないんだよね。僕たちだって君の全てを疑いたいわけじゃない。現に君はユウト君の眷属になった。ユウト君の魔法の性質上、その時点で一定の信頼は勝ち得ていると言ってもいい」
「
「あ、それはないかも! ……です……」
「続けてくれ」
急に声のトーンが上がってしまい自重するフランに
「だいぶ前にマスターは僕のことを100万人に一体の『絶望的なハズレ個体』って言ってたんだ。肉体や能力は同じでも、マスターの思考ネットワークにアクセスできないからって。僕にはよくわからないけど……」
「仮に
自分なのに、自分ではない自分。
自分の完璧な複製を作るような人間の思考は理解できないが、少なくとも統率からはみ出しただけでなく、『ハズレ個体』と切り捨てたからには、
その上での『ハズレ』の烙印。
あの時、箱庭で彼女がフランに興味を示さなかったのも今なら頷ける。
「
ユウトは
「……はぁ、分かった分かった。
「うん」
「ん? 答え合わせ?」
ユウトとフランは揃って首を傾げた。
・2・
「結論から言うと、フラン君は信用しても問題ない。
「
フラン自身でさえ曖昧なことをどうして
「ま、今回はお前に運が味方したってことだ」
「運?」
「アメリカで君たちが追い詰めた
「
あの時、あともう一歩のところで逃がした
その衝撃的な情報はジョエル・ウォーカーからもたらされたものだった。
「彼の情報は正しい。僕自身が証明できたからね」
「前提として、僕が
冷静に
「もちろん僕自身、それは望まない。
「違う手段?」
「命題の逆。つまり他の命題を閲覧し、それを否定する」
それは自らの命題を示すことなく、半端者のまま外なる叡智に触れる方法。
「否定するには材料が必要だ。それが本人が死ぬことでプロテクトが緩くなった叡智にアクセスする
「つまり、
「そうそう。正確には彼女を否定するためにその座に僕が付いたってところかな。おかげで
無論、その中には
「それなら……僕は、ユウトと一緒にいてもいいってことだよね? やった、やったよユウト!」
両手の拳をギュッと握りしめ、フランはユウトに駆け寄った。グリグリと頭を擦りつけ、猫のように嬉しさを表現している。
そんな彼女たちを眺めながら、
「むしろ問題は
「俺?」
「君が接触した黒い神凪。彼について僕たちに話すべきことがあるんじゃないのかい?」
「ッ……!?」
「黒い、
その機微を彼女が見逃すはずがない。
だからこう続けた。
「ずっと眠り続けていた
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