第7勝 王神顕現 イストステラ -Rebirth of genesis-

Prologue 黒と金 -The overall and selfishness-

「吉野ユウト」


 黒は紡ぐ。


宗像冬馬むなかたとうま


 黒は微笑む。


「そして、祝伊紗那ほうりいさな


 黒は盤上の全てを見通す。


「欠けていたピースはこれで揃えた。さぁ、存分に足掻き、迷い、選び、そして魅せてくれ……君たちが理想とする私の姿みらいを」

「いやぁ、楽しそうですね」


 ふと、背後から黒に呼びかける声があった。


我欲がよくか。よくを見つけたな」

「ハハ、意外と簡単ですよ。あなたはどこにも存在しない。つまりどこにでも存在し得るということだ。であれば、わざわざ苦労して探す必要なんてない」

「フッ、言い得て妙だな」


 黄金の叡智――神凪我欲かんなぎがよくは跪き、黒にこうべを垂れる。


「新しい姿もとてもお似合いだ。それで、今回は何とお呼びすれば?」


 黒いスーツに黒マント。

 男とも女とも取れる不気味な白い仮面で素顔を隠した長身の男。

 何よりその声は前回のしわがれた老人とは打って変わって、今は30代くらいの落ち着いた男性の声へと様変わりしていた。

 魑魅魍魎、変幻自在、千変万化。

 神凪かんなぎを統べる彼は時代に応じてその姿を最適な形に変えてきた。それは今を生きる人の総意であり、無意識に抱く理想ねがいの形。


「アートマン。此度はそう名乗っている」

「おや、神凪かんなぎを名乗らないのですか?」

「あくまで『神凪かんなぎ』は一つの記号でしかない。今は多様性の時代。これも我らのあり方だよ」


 望む望まないにかかわらず、外なる叡智と接続した者は皆等しく神凪かんなぎを名乗るようになる。

 鍵とも呼べるある種の記号が意識に刻み込まれ、それが人間の持つ『名前』という概念を上書きしてしまうためだ。簡単な話、元の名前を捨てたわけでも、忘れたわけでもない。人間は常に複数の自分を内包していて、相手によってそれを使い分ける生き物。その優先順位が変わるというだけだ。

 つまり神凪かんなぎとしての自分。己の命題を追究する自分に。


「僕は好きですけどね。ファミリーネームを揃える考え方。何より家族としての結束を感じるので」


 つい先日、その家族の一人を見限った者とは思えない発言だった。


「で、私に何の用かね?」

「あーそうそう。いえね、そろそろ僕も本格的に動くので、そのご報告をと思いまして」

「好きにするといい。君が神凪かんなぎであり続ける限り、私はとやかく言うつもりはないよ」

「フフ、いいんですか? あなたのお気に入り、僕が全部喰らってしまうかもしれませんよ?」


 その言葉にアートマンは静かに振り返る。しかし白面のせいで表情は全く読めない。そもそも仮面の下に表情と呼べるものがあるのかどうかも怪しいが……。


「――吉野ユウト」


 まるでオーケストラの指揮者のように大袈裟に、あるいは得意げに、両手を広げ、我欲がよくはこの世界で唯一の蒼眼の魔道士ワーロックの名を口にする。

 そして――


「彼の力も、彼自身さえも、元々僕のモノですから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る