第204話 神凪の役割 -The navigator to X day-
・1・
『ハッハー! どうした小娘共! 逃げてるだけか、あぁ!?』
「……そこだ!」
『クク!』
「く……硬っ……」
「
しかし現実は、彼女の拳が鎧の強度に悲鳴を上げていた。
鎧を構築する魔力結合を破壊できないからだ。
『バカがッ! テメェの魔法を私が把握してねぇわけねぇだろうが!!』
(ッ……まさか、
それしか思い当たるものがない。おそらく、女神の鎧の表面に魔力を分解する彼女の血液が巡っている。そのせいで
『フフ、不思議そうね』
『こいつはレペルブラッドっていってな。元々は医療器具のための特殊コーティングだが、何年か前に企業ごと買収したのよ。なんせちょっといじれば一生錆びない武器を作れる代物だもの。おまけにくっさい血で汚れることもないし』
つまり血液を始めとしたあらゆる体液を弾く特殊コーティング、ということ。その機能をあの女神の鎧はオンオフ自在に切り替えられるらしい。それ自体は脅威ではないが、この特殊な場においてはガラリと意味が変わってくる。
「なるほど……血を纏えばそれが最強の盾に。おまけに攻撃に使えばそれが致命にも繋がる」
「で、いらなくなったら流して綺麗にするわけだね」
しかもかなり緻密に弾く力をコントロールしている。ギリギリの状態を維持して、短時間でも血と鎧どちらの機能も共存できるように。
魔術と科学、そのどちらの智も掌握し、なおかつ実現できる力を持つ彼女だからこそ成し得る技だった。
『フフ、イカしてるだろ?』
「残念ながら、私の趣味じゃないね!」
彼女は一段階龍化のギアを上げ、両腕に鋼鉄をも凌ぐ龍鱗を纏わせた。魔力で活性化させた体組織の変化までは血の影響を受けないのは確認済みだ。
そしてもう一段。さらに強く、速く――
『なるほど、少しは楽しめそうね』
どこまでも高まる彼女の覇気に比例して、
『……ッ!?』
次の瞬間、音もなく
凄まじい衝撃に彼女の体はサッカーボールのように血海の上を跳ねて吹き飛ばされる。さらにフランは大口を開けた巨大ヒトガタの頭部を地面から呼び出し、彼女の体
をまるまる飲み込んだ。噛み砕き、喰らうために。
だが、
『クックックッ……』
『
ヒトガタの檻を砕き、彼女は妖しく舌なめずりをする。
「僕は、マスターとは違う! と、というか、痛いのはヤダよ!」
「美女に捕まるのは基本歓迎だけど、お前はノーサンキューだ」
二人は瞬時に肉体強化を走らせ、左右から挟撃する。
しかしそれでも
「「!?」」
『ツレねぇな。まぁテメェらの意思なんてどうでもいいさ。あっちの
「お前ッ!」
しかしその一瞬を付くように、上空から大量の兵士――
二人は咄嗟に動きを変え、その場で何体かは粉砕したが、如何せん数が多い。すぐに
彼らは一体一体が
『ズルいなんて言わないでね。元々1対2だったんだから。私、やられたら千倍返ししないと気が済まないの』
もはや数えるのも馬鹿らしい。
確実なことは、さっきユウトが大幅に削ったとはいえ、それでもまだまだ兵士の数には圧倒的な余裕があること。
「さぁ、嬲り殺しの時間だ!」
その号令と共に、心無き猟兵の群れが動く。
たった二人に狙いを定めて。
・2・
『いいのかい? あちらに加勢しなくて』
「信じて任せてるんだ。だから俺は
『ふむ……私が言うのも何だが、彼女は容赦がない。何に対しても平等にね』
常識、理性、あるいは良心。
そういった人間が備え持つブレーキ。それが
人でなし――そう呼ぶ者がこの世界ではほとんどだろう。
しかし裏を返せば、そんな彼女だからこそ『今』を手にしたとも言える。
「あいつは
『無論、承知しているよ』
「だったらどうして――」
『叶えたい願いがあるからさ』
ギルバートは当たり前のようにそう答えた。反論の余地を許さずに。
「……叶えたい、願い?」
『人は弱く、迷う生き物だ。だが彼女は迷わない。間違えない。そして顧みない。だからこの弱肉強食の極地で成功し続けた。まさしく私の理想とする人間の姿だ』
アメリカという世界最大規模の競争社会。
若いユウトには想像もつかないが、それでもそういった世界でのし上がるには綺麗事だけでは済まないのは想像に難くない。
故にどんな形であれ、尋常ではない人間は強い。
「だからパートナーに選んだのか?」
『フフ、実際は私が選んでもらったようなものだがね』
「そうまでして、いったいあなたは何がしたいんだ!?」
富や名声。約束された成功。
今更そんな言葉で終わるとは思えなかった。
『来るべきXデー。その前に人類という種を一つにすること……私はそれを願った』
「……来るべき、Xデー?」
ギルバートが呟いた言葉の意味をユウトは理解できなかった。それは彼も察しているようで、しかしそれでも言葉は続く。
『吉野ユウト君。君は強い人間だ。無論、
これまでユウトが歩んできた道をまるで賞賛するように、ギルバートは拍手を送る。不気味ではあるものの、邪念は一切感じられない。
『だが、それもこのままではいずれ無意味になる。個ではどうにもならない強大な全を目の当たりにした時、我々はあまりにも無力だ。私はその事実を彼女の叡智を通して知ってしまった』
「……
不思議とその名が頭に浮かんだ。
それは世界中、いついかなる時も、あらゆる場面において暗躍する者たちが持つ
『そう、彼女たちは我々がまだ認識することさえ叶わない未踏の世界――外宇宙と交信を許されたこの星の代表者だからね』
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