第197話 思わぬ抜け道 -Wild card-
・1・
「
「あぁ、さすがだよホント」
少し前までこの世の地獄と言わんばかりの業火で埋め尽くされていた夜空は、今はもう元の静けさを取り戻していた。
「エリュシオン、だっけ? その新しい魔法、ただの
雄々しき稲妻を纏う蒼虎にして、森羅万象を断ち切る猛々しき魔刃。
刹那の魔力を核とし、ユウトの魔法が錬成した新たな神装――新たに名を連ねる
「たぶん、誰でもってわけにはいかない。確かに俺の魔法だけど、召喚したあいつらには意思のようなものがある……気がする。だから
「ふーん。要するに二人の魔力でできた子供みたいなもんかね。そんでもってパパとママ以外には懐きませんってところか。ヒューヒュー」
「あのなぁ……」
ジーっと生暖かい視線をユウトに向ける
だが彼女の言葉はある意味では的を得ているかもしれない。前提として、
こうありたいという『独りよがり』ではなく、『二人で』織りなす新たな
だからなのかユウト自身、その表現にはかなりしっくりくるものがあった。
「んじゃ、次は私とだな。よーし、元気な子を産んでやるぞー」
「産むのは俺だけどな……でもまぁ、心強いよ。
「……」
「
「あ、ああ……いや、何でもない」
一瞬、キョトンとした顔を見せた
(え……何今の? いつもならもっと……)
自分がみんなを守る。
少なくともそんなニュアンスを含んだ言葉が返ってくるものだとばかり彼女は思っていた。
『最強の魔法使い』なんていう途方もない肩書きを持ってしまったがために、ユウトには無意識に何でも自分が先頭に立って解決しようとするクセがある。そう思っているのは
別に彼が他人に全く期待をしていないとかそういう意味ではない。むしろ仲間との協力はこれまでだって何度も経験してきた。
これはそう……きっと傍から見れば本当に些細な違いでしかない。
「一緒に、ね……フッ」
みんなの先頭ではなく、自分の隣に立ってくれる。
彼の口から自然に出てきた言葉から、そんな風に感じ取れた
(よくよく考えてみれば、こいつが自分の力を他人に預けるってのも今までだったらなかった話だよな)
眷属に魔力を分け与えるのとは訳が違う。そもそも無限に魔力があるのだから、その意味ではユウトに負担はない。だが
信頼と使命。
どちらも十分に持ち合わせていながら、しかし天秤の皿は僅かに、確実に、使命に傾いていた。
けど今はそうではない。
「ったく……これ以上カッコよくなって私をどうしたいんだよ」
思わず小声で呟き唇を尖らす
自他含め、今まで全ての期待を一身に背負っていた青年が少しだけ肩の荷を下ろすことを覚えた。そんな当たり前で、何てことのないことが
・2・
「ヤッホー! 開いたよ、ユウト!」
リングー社特別研究棟。
外がこんな状況にも関わらず、尚も厳重なセキュリティが生きる唯一の場所。
その扉が内側から勝手に開き、中からユウトの新しい眷属――フランが姿を現す。
「フラン!?」
「エヘヘ、入るんでしょ? 褒めて褒めて~♪」
「あ、ありがとう。けどどうやって忍び込んだんだ? これだけのセキュリティなら抜け道なんてそもそもなさそうだけど」
機械による完全制御。そして魔術による多重結界。
強引に正面から壊そうにもどんな罠が仕掛けられているかもわからない。ユウトの魔法と、直接魔力に触れれる
その問題がこうもあっさりと解決されてしまった。
「どうやって? 針の穴一つでも開いてたら僕は大抵のものに入り込めるよ」
「「……」」
失礼なのは重々分かっているが、一瞬、ユウトと
元々は
「いやいや、よしんば入れたとしてもだ。肝心のセキュリティはどうにもならんでしょうよ」
「ん? せきゅ、り……てー?」
建物内に入り込んでも、中のセキュリティは生きている。
反応を見る限りフランにその手の知識はない。となればここに来るまでにセンサーや魔術が無警戒の彼女を捕捉している可能性は極めて高いはずだ。
しかし、現実は何も起こっていない。
「もしかしたら……どうにかなるのかもしれない」
この事実にユウトの頭の中で一つの可能性が浮かび上がる。
「フラン、ちょっとそこの制御パネルの前に立ってくれ」
「ハイさ♪」
フランは軽やかなステップでユウトが指示した場所に立つと、姿勢を正して壁に設置された制御パネルに向かってニッコリと微笑んだ。すると――
『生体認証、スキャン開始…………
機械で合成された声は確かにそう告げた。
「マジか……」
「んん? 僕、マスターじゃないよ?」
繰り返しになるがフランは
「フラン、それに
「オッケー♪ というわけで壁の中のお姉さん、
フランがそう尋ねると、しばらくの沈黙の後、機械音声はこう答えた。
『
その時、ビル全体が激しく震撼した。
「ッ!?」
地震ではない。下で何かが爆発したような、そんな揺れだ。
だがそれすらも予兆。本当の異変はここからだった。
「ユウト!!」
最初に気付いた
彼女が今までいた場所――制御パネルを中心に、血管のような赤い線が無数に広がり始めたのだ。
「やっぱりトラップ……ッ」
「違う、これは……」
何かが下から這い上がろうとしているかのようなゾワゾワとした感覚。
だが、決してそれだけではない。
「いや、でもそんなはず……」
「ユウト?」
この感覚。正確には血脈のように蠢くそれから感じる魔力にユウトは覚えがあった。おそらくこの世で唯一、直接それに触れた彼だけが分かる感覚。
問題はその魔力がこうも強く脈動していること。それは本来ならありえないことだ。だって彼女は――
「これは……
何の力も持たない人間のはずなのだから。
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