第194話 魔人 vs 魔神 -The over the supreme-
・1・
「ようやく剣を交える時が来ましたな、
魔人シャルバはとても楽しそうに口を開いた。
「そう言えば里でのお礼がまだだったわね。あの時は助けてくれて感謝するわ」
「ホッホッホ、とんでもない。君は己の手で
「それ……私を
シャルバが求めているのは常に強者だけ。そしておそらく彼にとってその枠に当てはまるのは1000年前を生きた稀代の天才退魔士――
「これは失礼。ついつい過去に想いを馳せてしまう……年寄りの悪い癖だ」
「一応私もいるの忘れないでね」
「
「ッ……この爺さん、人が気にしていることを……」
「うっさいわね。武器で勝負が決まるんなら、そもそも姉さんは戦力外よ」
「シクシク……地味に刹ちゃんも私を虐めてくるよ……」
「いいから集中しなさいって!」
戦闘態勢の二人を前にして、シャルバはそれでも構える様子はなかった。しかしだからと言って隙は無い。一つだって見当たらない。いつでも斬りかかれるのに、
「
「えぇ……正直、こんなに相手にビビるのは初めてよ」
一歩……前へ踏み出せば、次の瞬間死体になった自分が地面に転がっている。
そのイメージが鮮明に脳裏をよぎる。達人同士の攻防戦は既に始まっていた。
「ホッホッホ、立っているだけでは私は倒せんよ?」
次の瞬間、二人の背筋がゾワッと震えた。
「「ッ!!」」
考える暇はない。だから体は勘で動いていた。
お互いに刃を叩きつけ、二人はその反動で左右に飛ぶ。
直後、大地が裂けた。
それが
(動かされた……ッ)
歯を食いしばる
彼女は雷撃の槍を放ち、それに乗じて一気にシャルバとの距離を詰める。側面から
「「!?」」
シャルバの姿が忽然と消えた。
「ぐ、ぁ……ッ」
気付いた時にはどういう訳か
「姉さん!?」
「よそ見をしている場合かね?」
「こん、の……ッ!」
振り下ろされる大剣をギリギリの所で受け止める
(重、い……ッ)
ただの一振りに全身の筋肉が一斉に悲鳴を上げる。
潰される。そう思った時には剣の軌道をいなし、
そのまま執拗に距離を詰めてくるシャルバに向かって彼女は大量の雷撃を放つが、華麗に身を翻して避けられてしまう。
「ホッホッホ、そんな逃げ腰で何ができるというのだね?」
シャルバは
「ぐ、う……ッ!」
「フン……ん?」
「炎舞――飛燕弐式!!」
鳥を模した無数の焔槍がシャルバに襲い掛かる。弐式は追尾性能が格段に上昇した改良版だ。にもかかわらず、彼はそれすらも容易く掻い潜ってみせた。しかも咄嗟に彼女が零式・村正にロストメモリーを装填しようとした瞬間にその刀身ごと叩き折ってしまう。
「ッ!? ほう、こんなものまで使えるのか」
「捕まえた!」
だがここまでは想定内。
武器を犠牲に
「刹ちゃん、今!!」
「えぇ!!」
動きを封じたシャルバに向かって
しかしその直前で
「「なっ!?」」
さらに周囲に次々と光球が現れ、二人が逃げられない状況下でそれは連鎖的に起爆した。
「う、ぐ……」
「がは……ッ」
力なく地面に叩きつけられる二人。咄嗟に
「何、で……」
「ホッホッホ、何、かつて『魔術喰らい』と呼ばれる魔獣がいましてな。これがなかなか便利な能力なのだよ」
シャルバの声に反応した
「
斬った対象の能力を奪い、無限に成長する魔剣。
その能力は彼が件の魔術喰らいから奪ったものだ。
「無茶苦茶が、すぎる……」
「まだ……よ……!」
「良い調子だ。次は魔装を使うといい。限界を超えてこそ
だが、ここで事態は急変する。
「「「……ッ」」」
急に周囲がありえないほど明るくなったのだ。同時にその場の誰もが上空から凄まじい重圧を感じた。
「ッ、何よ……あれ……」
空を見上げる
・2・
「消えろ小娘が!!」
ザリクの両手から迸るインドラの光。
大質量のレーザーは瓦礫の山を溶かし、次々と戦場を真っ赤に染め上げていく。
「
対する
「ッ!?」
目くらましの黒炎カーテンごとぶった切り、激流の刃が襲い掛かる。ザリクは瞬時に左右の
「無駄なのだぁぁぁぁぁ!!」
それは剣の形に鍛えた破壊そのもの。その刃の前ではあらゆる防御は無意味と化す。物理的にではなく、概念的に。
「チィ……ッ!!」
故に彼女の言葉通り、水刃は問答無用で
だがその程度で動じるザリクではない。死に愛された彼女は激痛に顔を歪めることもなく、切断された腕は瞬時に修復が始まった。
「ムム……なかなかの再生能力なのだ」
「……無駄だ、貴様では私を殺すことはできん」
もはや心地よいまである痛みは、逆にザリクの思考をクリアにした。
彼女は改めて
現状分かっているのは、彼女という存在があまりにもデタラメすぎるということ。
一言で言えば、自然災害そのもの。まるで抗うことを許されないこの世の理不尽を相手にしている気分だ。底が見えない。
「魔神、と言ったか……ふざけた存在もいたものだ」
「何言ってるのだ? お前もマジン? なのだ」
「獣風情が……一緒にするな」
ザリクは再びインドラの光を放つ。
「チッ……」
「フフーン」
だが先と違うのは、限界吸収量を超えても彼女に全く問題がないこと。吸収した余剰分は悪神化で彼女の背に生えた黒翼から青白い光として放出されているからだ。
(真に警戒すべきはあの適応力か……)
悪神化――おそらく魔装に近いそれの真価は異常なまでの最適化。
戦えば戦うほど強くなる。それも常軌を逸した早さかつ、目の前の敵に特化する形で。実際、時間が経つほどザリクの手はどんどん潰されていった。
(一撃で仕留める……その手はある……)
ザリクは自身の体に巻き付くヴリドラの鎖に触れた。
死の
ひとたび鎖を解放すれば、ザリクは絶対不可避の死を周囲に撒き散らすことができる。だが当然代償もある。
死の逆流。この力で死した者の記憶や感情全てがザリクに収束する呪いだ。それは頭の中に他人が土足で割って入ってくるようなもの。一瞬の間に永遠とも思える苦痛に苛まれ続け、自我は徹底的に凌辱される。
すでに痛みを痛みとして感じられなくなった彼女が発狂してしまうほど、その苦しみは想像を絶している。
「……」
要するに彼女は躊躇っているのだ。
考えるだけで全身が強張ってしまうほどの恐怖を前に。
「ん? どうした? もう諦めたのか?」
「……諦める? 違うな」
だからこそこの窮地において魔人の頭領が選ぶのは、残されたもう一つの選択肢だった。
「最も単純かつ残忍な手を使うまでだ」
「ッ……!?」
空気が変わった。
背中を刺されるような冷たい感覚に
ザリクの周囲を漂う小惑星――圧縮された莫大なエネルギーの塊が空の闇へと吸い込まれていく。
「この国も……黄金樹も……」
「おいおい……」
次の瞬間、夜闇が搔き消され、北半球に朝が訪れた。
「冗談も大概にするのだ……ッ!!」
「全て等しく焼き尽くす!!」
空が燃えている。
全てを消し去る――小さな太陽が落ちてくる。
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