行間6-3 -帰参-

 最速でアメリカを目指すにあたり、夜白やしろが手配を進めている音速ジェット機に搭乗する必要がある。そのためユウトたちはフランと魔神たちを引き連れ、まずはエクスピア東京支部まで帰還した。


「ユウト!!」


 職員に案内された部屋の扉を開けるやいなや、検査着に身を包んだ刹那せつながユウトの胸に飛び込んできた。


「わ……っ、せ、刹那せつな!?」

「この大馬鹿ッ! いったいどこほっつき歩いてたのよ!?」


 刹那せつなはユウトの胸に顔を埋め、ドンドンと彼の肩を力無く叩く。普段の彼女からは考えられないそのか弱さに、本気の心配と心からの安堵が窺えた。


「ごめん……心配かけた」

「いい……ちゃんと生きてるから」


 刹那せつなはそう言うと、ユウトの首にそっと腕を回し——


「パパーッ! 腹が減ったのだ!」

「ッ!?」


 最悪のタイミングでユウトの背中に夜禍ヤカが飛びついてきた。


「や、夜禍ヤカ!? 何でここに。みんなに説明するから大人しくしてろって言っただろ?」

「ニヒヒ、われは言うことを聞くとは言ってないのだ」

「いやいや、そういうわけには——」


 その時、ユウトの肩がガシッと強く掴まれた。痛いほどに指が食い込んでいる。


「ユウト〜、ってどういうこと?」

「せ、刹那せつな……まず話を」


 ユウトの肩を掴み、強引に引き寄せる刹那せつなの顔は笑顔だが、目が全く笑っていなかった。気のせいか壁に立てかけられた伊弉諾いざなぎからも殺気けはいを感じる。


「え、子供? つまり、そういう? いやいやいくら何でも……ハッ、まさか隠し子!?」

「落ち着け! そんなわけないだろ!」

「そうだぞ〜刹那せつな。こんなのまだ序の口だから」


 いつの間にか飛角ひかくが部屋の入り口で壁を背にして立っていた。彼女も刹那せつなと同じくこの施設に入院している身のため検査着姿だ。


「よっ、元気そうだねユウト。よかったよかった」

「あぁ、燕儀えんぎ姉さんと真紀那まきなが探してくれたおかげだよ」

「フッ、まぁ積もる話とか言いたい事とか色々あるけど……今は一刻も早く向こうに行かないとね。出発は40分後だってさ」

「……あぁ」


 ユウトは小さく頷いた。


「私と飛角ひかくも一緒に行くわよ」

「でも体は……大丈夫なのか?」


 飛角ひかくも、そして刹那せつなも。伊弉冉いざなみの夢が創り上げた虚構の海上都市で無理をしてここに入院していたはずだ。特に刹那せつなはあの夜式やじきカグラ——魔人ドルジとの一戦でかなりの深手を負わされたと聞いている。


「私たちを誰だと思ってるの? もう十分すぎるくらい休んだわよ。アンタの足手まといになんてならないわ」


 刹那せつなは力強くそう断言して、自分の胸にそっと手を乗せる。弱々しかった姿はもうそこにはなく、いつも通りの凛々しい彼女が立っていた。


「そもそも御影みかげの護衛が私の仕事。一時的に離れていたとはいえこのままじゃ格好が付かない。せめて帳尻合わせはしないとね」


 覚悟を決めているのは飛角ひかくも同じだ。飄々として顔にこそ出さないが、御影みかげの身を一番案じていたのはきっと彼女だ。


「……」


 二人の想いは受け取った。

 ならあとはユウトがどれだけ二人を信用できるか。それに尽きる。


「分かった。俺たちで御影みかげを連れ戻そう」


 ユウトの言葉に、眷属の二人は強く頷く。


「ところで飛角ひかく。アンタさっき序の口がどうのって言ってたけど、どういうこと?」

「あー、ん〜、まぁ……説明するより見た方が早いねこれは」


 そう言うと彼女は額に手を当て、諦めたように扉の方を指差した。


「……なっ……!?」


 そこには最初に現れた夜禍ヤカという不思議な少女だけではない。さらに4人の愉快な仲間たちが顔を覗かせていた。

 道化師に踊り子、メイド、さらには忍者まで。

 いったいどこから集めてきたのか? しかも漏れなく全員可愛い女の子ときた。


「エヘヘ……こ、こんにちは〜!」


 中でも新たにユウトの眷属となったフランは先輩である刹那せつなの前まで来ると、緊張した面持ちでペコペコとお辞儀を繰り返していた。


「……ホントにアンタどこほっつき歩いてたのよ?」


 その後しばらく、刹那せつなの冷たい視線がユウトの背中に刺さり続けたのは言うまでもない。

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