第189話 神定 -Deus Ruler-
・1・
「同じ、父親……だと……」
あまりに信じ難い
「私と君は母親違いの兄弟。いわゆる異母兄弟にあたる」
「何を根拠に……?」
「フッ、信じてもらわなくて結構だ。いつも通り敵の戯言だと切り捨てればいい」
「……ッ」
なら今は彼の言葉が事実だと仮定して、可能な限りの情報を引き出すのが得策だろう。
「テメェの話が事実なら、俺たちの腕は父親の遺伝ってことか?」
「厳密には違う。そもそも
「我々の腕は、ある男に後天的に植え付けられたものだ」
「……何?」
この右腕が自分のものではない。
そんなこと考えたこともなかった。何せ物心付いた頃からこの腕はカインと共にあったのだから。彼の人生を『普通』から大きく遠ざけた最大のファクター。右腕の強大な力と引き換えに、良くも悪くも彼の運命は大きく狂わされた。
その過去をようやく受け入れ始めていたのに、それが何者かによる作為だったと言われて誰が納得できるものか。
「何でそんな……いや、今はそんなことどうだっていい。その男ってのはどこのどいつだ!?」
無意識にカインは『父親』という言葉を使わなかった。自分を捨てた人間を今更父親だと思えるほどお人好しではない。
「答える義理はないな。少なくとも今の君には」
「あーそうかよ!」
銃剣の切先で弧を描くカイン。するとその軌道上に
「なら力づくで吐かせてやるよ!!」
「フッ、やってみるといい」
次の瞬間、二人の姿が掻き消えた。
僅かに遅れて足場が破裂したかと思うと、空中で幾度となく衝突の火花が乱れ咲く。
「ッ!!」
メインの銃剣に加え、周囲に滞空する幻影武装を駆使してカインは
『Messiah ...... Decoding Break』
「そいつはもう見慣れた!」
解き放たれる破邪の熱線。しかしもとはと言えばカインの
彼は十を超えるトリムルトを円形に重ねて大盾を形成し、熱線を受け止める。さらに灼熱に燃え盛る幻影刃をすかさず手裏剣の形に再構成して、
「器用だな」
紅蓮を纏う刃の塊が高速回転しながら
「次はこちらの番だ」
「!?」
砕かれた幻影刃をまとめて吹き飛ばすように、今度は
「クソ……ッ!」
『Injection ...... Locking Down』
槍の機能――
しかし、
『Extend Grendel ......』
「何!?」
それよりも前にカインの姿が変わっていた。
「どうやらその槍でこいつは封印できねぇみてぇだな!!」
直前で真魔装を解き、カインはエクスメモリー・グレンデルのみを纏った状態に切り替えたのだ。
この一瞬に生じた隙を彼が見逃すはずはない。右腕でガッシリ掴んだ槍をカインは強引に奪い取り、さらに流れるような回し蹴りで
「はぁ、はぁ……どうやら、上手くいったみてぇだな」
その際、彼女はグレンデルが元の
(つまりあの槍が封印できるのは、混じってない純粋な
だから無数の
「……強いな。この短期間で
「まぁ、今ので終わるわけないよな」
瓦礫をどけ、
さらに左腕がカインと同じように発光し始めたかと思うと、彼の受けた傷が瞬く間に癒えていった。
(チッ、何なんだあの腕は? 俺の右腕とはそもそも役割が違うとか何とか言ってやがったが)
一つ確かなことは、自分には同じ芸当はできないということ。力を喰らって奪うものではない。
「神喰らい――君の右腕はこの世界における
「
「ッ!?」
本来なら形のない炎を掴むなんてできはしない。だが彼はそれをいとも簡単にやってのけた。
「……面白れぇ手品だ」
「種も仕掛けもない。私の世界ではこれがまかり通るというだけだよ」
「まさか……」
神殺しと対をなす力。そして左腕が冠する
ありえないを成立させてしまうその力の正体は――
「
「正確には理を生み出す神そのものだ。まだいくつかの縛りがあるがね」
名も無き神を創造し、新たな理を生み出す。
彼の左腕に宿るのは、そんなふざけた能力だった。
・2・
地下空洞内での戦いは続いていた。
場所の性質上、飛行範囲を縛られているというのもあるが、それ以上にレイナのスレイプニールの速度に追いつける双子の身体能力が異常だった。
「がは……ッ!」
「アハハ! ねぇ、お遊びはもうおしまいなの? お・ね・え・ちゃん♪」
「もう鬼ごっごは飽きたゾ~」
ルナとナナはレイナの前にしゃがみ込む。
「うっ……強い……」
もうこれで何度目になるか。
無様に地面に叩きつけられたレイナは双子を見上げた。
ルナは黒いドレスに身を包んで背中から蝙蝠のような黒翼を生やしており、ナナは全身を黒い毛皮で覆われて獣のような四肢を有している。
彼女たちの姿は人間のそれでありながら、どこか魔獣を連想させた。
「!!」
直後、レイナはまた背筋が凍り付く恐ろしい感覚に襲われた。
痛みも忘れてその場から飛んで逃げると、その数秒後にエトワールの背後から伸びる発光する触手のようなものが彼女のいた場所に群がった。
「ッ、通信機……!」
咄嗟に動いて落としてしまったようだ。レイナはさっきまで自分がいた場所に視線を移した。
「ッ……!?」
そして彼女は言葉を失う。
そこに落とした通信機の姿はなく、代わりに別の何かが蠢いていたから。
「レイナ、避けないで」
「何……を……」
エトワールは車椅子をこぎながら、生まれてしまったその不完全なものを優しく拾い上げた。
「ごめんなさい……こんな形で」
「ぐ、ぎいィィ」
見たままを言葉にするなら、それは浅黒い肌を持つ上半身だけの動物の赤ん坊。
触手に取り込まれた通信機が赤子に変貌したとしか思えない。
「無機物だと、ちゃんと産んであげられないの」
「……産む?」
彼女の言葉を裏付けるように、消え入りそうな産声を上げていた赤子はすぐに動かなくなった。そして彼女の腕の中でボロボロと崩れ去っていく。エトワールはその様子をひどく悲しそうな顔で見つめていた。
「ティアマトは産み直しの
「ッ!!」
一瞬でレイナの血の気が引いた。
エトワールがレイナにしようとしていることを理解してしまったからだ。
(お姉ちゃんって……ッ)
彼女が言う家族とは、つまり彼女がティアマトで『産み直した存在』を意味する。
あの光る触手に捕まったら最後。きっとレイナはレイナでなくなってしまう。
ずっとエトワールに対して感じていた恐怖のようなこの感情の正体はそれだ。
「ふ、ふざけないでください! そんなこと、許されるはず――」
「誰に許されればいいの?」
「……ッ」
「今の私を見て……教授は笑ってくれない。笑顔がとても素敵な人なのに……」
エトワールはルナたちの頭を優しく撫でながら、懺悔でもするかのようにそう語り始めた。
「私が失敗作だから……教授の求める私じゃないから。けど、私がこの力でもっと家族を増やしたらきっと……教授は笑ってくれる。フフ、きっと……」
「エトワールさん……ッ」
エトワールの背後にいる怪物。その全容が露になる。
ティアマトの正体は地下道を埋め尽くすほどの巨大な有角の蛇竜だった。どうやら彼女の背中――心臓の位置から伸びているようだ。光る触手はその蛇竜の全身から無数に伸びていた。
「だからレイナ……私の子供になって。教授のために幸せな家族を作るの」
「ッ……!!」
次の瞬間、旧地下鉄の細長い空洞をおびただしい数の触手が埋め尽くした。
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今年も一年お世話になりました!
よければ来年も引き続きワーロックをよろしくお願いします!
長く続く2部ですが、いよいよ来年は神凪や魔人たちとも決着がつき始めます!
果たして最初に欠けるのは誰か……?
あと来年はもう少しだけ更新頻度を上げたい!(願望)
それでは2023年最後の投稿。これを読んでくれている方々が来年良い年になることを祈って、筆を置きたいと思います。
良いお年を!!
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