第186話 神樹の護り手 -The all eater for oneness-
・1・
「
映像越しにジョーカーの交戦を見ていた
「クソがッ! 何であのクソ眼鏡は私の邪魔をしやがる!? お互い命題への干渉はご法度だろうがよ!! あぁ!?」
「ハハハ、まぁまぁ落ち着きたまえ。この程度で私たちの計画は揺らがない。そうだろう?」
「ッ――」
一瞬、凄まじい殺気が夫であるギルバートに向けられた。まるで無数の刃で全身を撫でられるようなそんな感覚。しかしそれを全く歯牙にもかけない夫の姿に毒気を抜かれたのか、彼女は冷静さを取り戻し大きく溜息を吐く。
「それもそうね……あなたの言う通りよ、ギルバート」
「構わないよ、アヤメ」
「チッ……考えてみれば私とアイツが相容れないのは今に始まったことじゃなかったわね」
全ての
それは人類が迎えるべき次のステージ。それをこの星で体現すること。
有史以来、人間の遺伝子に深く刻まれた果て無き闘争。その業を突き詰めた果てに人類の進化を見る
人類から『文明』という火を消し去り、闘争そのものを根絶やしにしようとする
そもそも二人の真理は真っ向から対立している。
だからこその相互不干渉。だが、それも今をもって破られた。
「フフ……いいわ。もともと
「美しい。それでこそ君だ。さぁ、人類のブレイクスルーを見せてくれ!」
ギルバートは両手を広げ、夢を語る。
「全人類統一構想ビゲストアップル――開演だ」
・2・
その時、カインは自分の背筋が凍り付くのをハッキリと感じた。
彼だけではない。レイナ。そしてジョーカーや
「な、に……この、プレッシャー……」
何かされたわけでもないのに、気付けばレイナの膝は震えていた。
「ようやくお目覚めか。随分待ったぜ全く」
「……ッ」
最初にその存在に気付いたのは
天を覆う黄金樹。その枝葉から何かが降りてくる。
「……」
それは黄金の魔力を放つ
「メアリーちゃん!?」
「いや、違う……」
今の彼女はメアリーという
彼女が本来持ち合わせ、跡形もなく壊れてしまった
碧眼の
「フンッ!!」
最初に動いたのは
彼は大槍に破邪に光を集め、それをアリスに放つ。熱線は幾重にも分裂し、冷たい空気を切り裂いた。だが――
「ッ……!?」
メサイアの煌めきは一つとして彼女に当たることはなかった。それどころか目の前で制止し、その矛先を
「避けろ!!」
カインが叫んだ。その直後、光の雨が瓦礫の山を穿つ。
「ぐ……生きてるよな、レイナ?」
「な、何とか。痛……ッ」
致命傷とはいかないまでも、先程の破壊に巻き込まれた影響でレイナは額から血を流していた。
「大丈夫! まだ全然行け――」
その時だった。
彼女の足場が急に崩壊する。
「え……」
突如地面に開いた大きな穴。
その深淵から何か巨大な頭部のようなものが急に現れ、レイナを丸呑みにしてしまった。
「なッ……レイナ!!」
カインはすぐさま幻影の刃を召喚するが、それよりも早く謎の頭部は深淵の中に引っ込んでしまった。
「この……ッ!?」
後を追おうと穴の中を目指したその矢先、カインは背後に気配を感じた。まだ十分距離を保っていたはずだが、いつの間にかアリスが目と鼻の先にいたのだ。
「……」
だが彼女は何もしてこない。ただカインの前に立っているだけだ。
「何で……攻撃してこねぇ?」
「……」
だんまり。剣を握る手は緩めず、カインはアリスを見つめた。
「何をボサッとしている!」
そう言ったのは
『Injection ...... Locking Down』
魔封じの槍。本来は
(さぁどうなる?)
眩い閃光を放ち、膨大な魔力が彼の槍へと収束を始めた。しかし次の瞬間、槍に流れるはずの魔力が
「ぐ……ッ!?」
常識の範疇をいとも簡単に飛び超える膨大すぎる魔力は体を崩壊させる。次の瞬間にその身に降りかかる危険を瞬時に察知した
「……なるほど。君の魔力に僅かでも触れたものは問答無用で支配下に置かれるのか」
投げ捨てた槍はメアリーの魔力に侵され、歪に折れ曲がっていた。彼女の支配下に置かれたことで文字通り形を捻じ曲げられたのだろう。
先程のメサイアの熱線も同じ理屈だ。常にアリスが纏う超高濃度の魔力オーラ。それに触れた途端、制御権を奪われたのだ。
「フッ、やはりここに現れたか。神樹の護り手よ」
その時、天より極大の光が落ちてきた。
「「!?」」
塵芥も残さず全てを崩壊させる原初の熱――インドラの光。
その使い手はゆっくりと瓦礫の山に降り立った。
「やっぱり……いやがったか」
この国に魔人タウルがいる時点で当然予想はしていた。
「妙な
ユウト不在の現状、カイン達にとって最も厄介な敵。
「そいつは私の獲物だ。失せろ」
魔人の首魁――ザリクの存在を。
・3・
「ん……ここ、は……」
暗い暗い穴の底。レイナは瓦礫にまみれたその場所で目を覚ました。
「地下道……?」
半ば崩壊していて分かりにくいが、よく見ると通路の形になっている。元々は地下街、あるいは地下鉄が通っていたのだろう。
「ッ……それより私! な、何かに食べられて……え、死んだ!?」
レイナはとりあえず自分の体をまさぐるが、特にこれといった異常はなかった。当たり前だがちゃんと実体もある。
「ふぅ……」
「……レイナ」
「ひゃい……ッ!?」
急に名前を呼ばれたレイナは思わず飛び上がった。
「だ、誰……?」
声は暗闇の中から。よくよく耳を澄ますと、キーコーキーコーと車輪が回るような音も聞こえてくる。
「……」
声の主はゆっくりと、闇の中から姿を現した。
「エ、エトワールさん!?」
「うん……レイナ、久しぶり」
レイナは覚えていた。彼女が夢の中で出会った車椅子の女性、その人だと。
「え、何でこんな場所、に……? ていうかここは危ないですよ! 今すぐ――」
「また勉強……する?」
「……ほえ?」
その発想はなかった。
そんなツッコミさえ忘れてしまうほど、何やら妙な沈黙が流れた。
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