第180話 貫き通す、たとえ過ちだとしても -Even fault gets to true-
・1・
天を裂く黄金樹のお膝元――ニューヨーク。
ここはリングー社本社ビルから数km離れた研究所。
「ほら、エシュちゃん特製神紅茶だ。ありがたーく召し上がりな」
「チッ、何で可愛い可愛いエシュちゃんがこんな根暗女どもの相手しなきゃいけないんですかね。こういうのはアルラの手合いでしょ」
「クヒヒ……相変わらず、辛辣」
「……」
「ねぇ、け、眷属になって……何か、ち、力を……発現した?」
ふと、
眷属化。つまり
「……何か言いましたか?」
「あうぅ……聞こえてすら、いない……だと……」
「お嬢……まずは人に慣れるところからだな。今のあんたじゃ会話は絶望的だ」
「おいワニ! 今ジョーカーから連絡がきた。ヤツが仕立てた眷属二人、おっちんだってよ。エクスピアのヤツらこっちに来るぞ」
アグレアスはニッコリと笑っているのか、鋭い牙を剥きだしにする。
「へー、あの兄ちゃんなかなかやるなぁ」
「カ、カイン様なら楽勝……ッ」
自陣の負け星だというのに、
「ったく変人共が………………あぁ、でもテメェは違うよなぁ?」
「……ッ」
「裏切り者。テメェにしてみりゃあ今更元お仲間になんて会えねぇよなぁ。キャハハハ!」
「……」
ユウトを……仲間を裏切る気なんてなかった。
だが事実、絶槍ベルヴェルークは奪われ、エクスピアが保有していた
全部自分のせいだ。非力な自分を呪わずにはいられない。
「ま、心配しなくても元お仲間はこっちで丁重に処理してやるよ。テメェは精々吉野ユウトが来るのに備えてろ」
「ユウトさん……」
その真意は分からない。きっと良くないことが起こる。確実で致命的な何かが。そしてその時は着実に近づいていた。
「……けて」
けれど分かっていても願ってしまう。どうしようもないほどに求めてしまうのだ。
(……助けて、ユウト)
もう一度、あの暖かな手に触れたいと。
・2・
『やぁ、僕は生きていると信じていたよ。ユウト君』
「おぉ! 凄いのだパパ、このちっちゃい箱。中の小人がいきなり喋り始めたのだ!」
ユウトの隣にいた
『……パパ?』
「落ち着いたらちゃんと説明するから、今は何も聞かないでくれ……」
『フフ、アリサ君を裏切るような真似をしない限りは僕から言う事はないよ』
ニコニコ笑っているが、彼女の言葉からは全然冗談ではないのがヒシヒシと伝わってくる。
『まぁ積もる話は後でするとして、早速本題に入ろうか。君がいない間にこっちはもうめちゃくちゃだ』
「
『心配しなくても彼女が故意に僕らを裏切るなんてことはないよ。十中八九、アヤメ・リーゲルフェルト――いや、
最後に
挙句、そのままろくに言葉も交わせずに別れてしまった。
「……ッ」
『自分を責めるのはお門違いだよ。今回はただ、良くないことが重なりすぎただけさ』
立て続けに起こった重要ミッションによる戦力の疲弊と分散。
一時的に記憶や思考が
そして吉野ユウトという最重要戦力の喪失。
がら空きになった急所を見事に抉られた結果がこれだ。
「みんなはアメリカにいるのか?」
『カイン君たちはね。ただ安否は不明。アメリカ大陸に突如現れた黄金の大樹のせいか、全ての通信機器が遮断されているようだ。あっちの状況は入ってみないと知りようがないね』
「分かった。なら俺たちもアメリカに向かうよ」
そう言ってユウトは一緒にいる
『ハハ、君ならそう言うと思っていたよ。けどいいのかい? 君の新しい魔法についてはさっき君自身の言葉で聞いたけど、覚醒したばかりの力は諸刃の剣だ』
未だ新しい
『君は、
「……そう、かもしれない」
ユウトはギュッと拳を握る。
分かっている。この決断は再び彼女を傷つけるかもしれないと。
「でも俺は
それくらいできなければ彼女の言う通り、この覚悟は過ちだ。
『まぁ、僕にはそもそも止める理由がない。それにこの状況をひっくり返せるのはやはり君を置いて他にないだろう。最善手は打って然るべきだ』
「大丈夫! ユウトには僕が付いてるもん。ムフフ~♪」
横から唐突にフランが現れ、ユウトに密着する。
「今度こそ、主をお守りします」
「お姉ちゃんにドーンとお任せってね」
「
ユウトの決意を聞きつけた魔神たちも強引に画面に入ってきた。
『ハハ、戦力は十分のようだ。OK、足はこちらで用意しよう』
「ありがとう」
これ以上の確認は野暮だと
だが心しなければならない。
これから自分たちが挑むのは、魔境と化したかの国――茫漠とした暗黒の中で、たった一人を救い出すなんていう分の悪すぎる勝負だという事を。
「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます