行間6-2 -羅刹と剣豪-
「アニキ! 酒をお注ぎします」
「あ? いらねぇよ。つーか、いい加減鬱陶しいぞテメェら」
ここはとある街の地下カジノ。そこに併設されたディスコだ。
(ったく、どうしてこうなった……)
階下ではガラの悪い若者たちが大勢たむろしている。みな思い思いに酒を飲み、踊り、賭け事に狂っていた。そんな彼らは全員ほんの数日前まで
「それではアニキ、何かあれば遠慮なくお呼びください! 酒でも女でも何でもすぐに持ってきますんで!」
「……」
「鬱陶しいなら何で殺さない? あんたなら簡単にできるだろ?」
ふと、向かい側の壁に背を預けている少年が呟いた。彼の名はトレイ。一昨日、
「……俺に指図すんな」
自分と彼らの間に信頼なんて大層なものはない。あるのは強者と弱者の関係――支配だけだ。だからどこで何人死のうが
生きるために殺す――少し前の自分では考えもしなかったことだ。
「大変ですアニキ!!」
そんな中、勢いよくドアを開けて先程の元ヘッドが慌てた声でやって来た。
「妙なジジイが――ッ!?」
大男の言葉はそこで止まる。
「「!?」」
その巨体が真っ二つに切り裂かれたのだ。音もなく、息を吞むほど鮮やかに。
「ホッホッホ、どうやら当たりを引いたようだ。有象無象もそろそろ打ち止めというところですかな」
「何だテメェ? 人間……じゃねぇ、な」
小奇麗な燕尾服を着込んだ初老の男性。しかしその肌は灰色に褪せ、今まで感じたことのない――
「ッッ……!?」
考えるよりも先に
(何だ、コイツ……ッ)
これも
「ふむ、勘も悪くない。それにその並々ならぬ闘気……実に心地良い。だが妙ですな……それだけの力を持ちながら中身が追い付いていないようにも見える。なかなかどうして面白い若者だ」
「ハッ、随分と知った風な口を利く爺さんだ。テメェもこのふざけたゲームの参加者かよ?」
「ホッホッホ、滅相もない。私などただの露払いですよ。少々この状況に年甲斐もなくはしゃいではいますがね」
こんな災害級のバケモノが露払い? 冗談なら笑えない。
発する言葉はひどく穏やかだが、こうして対峙するだけで彼以外の音が全て消えた。まるで体中の全神経がこの老人から目を逸らすことを拒否しているみたいだった。
「場所を変えましょう。ここは死合うには狭すぎる」
魔人はそう言って元ヘッドを両断した禍々しい魔剣――
「「ッ!?」」
否、
「ここは……街はずれの採掘場」
クレーターのように穿たれた大穴。斜面は階段状に整備され、放射状に横穴が掘られている。彼らがいるのはその中心、最深部だ。
「自己紹介がまだでしたな。私の名はシャルバ。これも我が主の命……ほんの一時、この老いぼれと戯れていただこう」
「テメェも
死の瘴気を纏い、青年は羅刹と化す。
対するは神剣を魔剣に染めし剣豪。
牙と刃が交差する。それを合図に新たな死闘がここに始まった。
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