第168話 切られたカード -Jack & Queen-
・1・
アメリカ中西部ミシガン州――デトロイト。
急速な成長を続ける黄金樹は、わずか半月たらずで合衆国領土の約6割を呑み込んでいた。ここデトロイトも魔樹に呑み込まれた都市の一つ。
『ハハハ、奪え奪えッ!』
『邪魔するヤツは皆殺しだ!!』
伏魔殿と化した大都市の至る所で下卑た声が響き渡る。
ショゴス――かつては騎士のような姿でありながら、山羊の悪魔のような歪に曲がった角を持つ黒き先兵だったもの。黄金樹顕現よりも少し前、謎のテロリスト集団『B-Rabbit』が一般人に向けて配布した量産型
以前は全身漆黒の鎧姿だったはずの彼らは今、それぞれ異なる異形へとその姿を変貌させていた。共通しているのはところどころに白い部分が垣間見える点。まるで患部のように白が不気味に体を侵食している。
これは大掃除と称して投入された
『あぁ……楽しすぎて狂っちまいそうだ!! この力があれば何だって俺の思うがままに――』
「おい、でくのぼう」
『あぁ? ……何だただのガキじゃねぇか』
全長30mを超える巨躯の悪魔に進化したショゴスは、突然話しかけてきた銀髪の青年に視線を向けると見下すように嘲笑する。
「ただのガキで悪かったな。そういうお前こそたまたま力を拾ってイキってるド三下に見えるぜ?」
『ヴァァァァァァァァァァッ!!』
怒号が炸裂し、ショゴスの剛腕がカイン・ストラーダに襲い掛かった。しかし彼はそれをいとも簡単に躱すと、破壊の衝撃を利用して隣の建物の屋上に飛び移った。
「怒るなよ。本当の事だからって」
『調子に乗るなよガキが! 俺はこの力で全てを支配する王になるんだよ!』
「王? お前が? おいおいここはアメリカだぜ? なるなら大統領とかだろ? 腕力よりも先におつむの方を鍛えないとな」
『いいだろう、思い知らせてやる。この俺の絶対的な力を!!』
巨躯のショゴスは両腕を広げると、全身にマグマのような赤いオーラを迸らせた。
・2・
巨大な腕が鞭のように縦横無尽にのたうち回る。
「よっと」
カインは持ち前の機敏さをいかんなく発揮し、破壊の嵐を難なく潜り抜けていく。
『なかなかやる……ッ』
「そっちは大したことねぇな」
『調子に乗るなクソガキが!!』
その巨体に違わぬ確かな破壊力。だがスピードは並以下だ。この程度であればカインの敵ではない。
「ちょうどいい。もう一回試してみるか」
彼は展開済みの
「……」
だが新型
(チッ、やっぱり壊れてんじゃねぇのか、これ?)
これで起動失敗は二度目。この新型は半月前に
『どうした? 今更怖気付いたのか?』
「逆だ。テメェ程度に武器はもったいねぇと思っただけさ」
『減らず口を……ブッ殺してやるッ!!』
動かないものは仕方ない。原因は後で探ればいい。
そうやってキッパリ割り切ったカインは右腕の包帯を解き、異形の腕を露わにした。
『ッ!?』
巨躯のショゴスの体に衝撃が走る。絶対の自信を持っていた自らの拳が、ただの人間一人の右腕に止められたからだ。
『何だ……その右腕は……』
「ギャーギャーうるせぇな。見りゃ分かんだろ? テメェと同じバケモンの腕だよ」
直後、カインの右腕——
『ぐ、ああああああああああああああああッ!?』
神魔を問わず喰らい尽くす異形の右腕。
その名の通り、カインの右腕が敵の巨腕を喰い千切ったのだ。
「んだよ、思ったよりスカスカじゃねぇか。張りぼての体でよくもまぁあんなにイキれたもんだ。逆に尊敬するぜ」
『このガキがぁぁぁぁぁぁぁッ!!』
「こいつでトドメだ!」
こちらに向かって猛突進してくるショゴスに対し、カインは喰らって得た魔力を使って大気中に巨腕を投影する。そして自らの右腕と連動したそれで思いっきり敵を殴り飛ばす。
頭部を容赦なく潰され、声すら出せず巨躯のショゴスはその場で崩れ落ちた。
「あぁ、クソ……ばっちいな」
カインは飛び散った体液をその場で払うと、塵となって消えていくショゴスを背にその場を立ち去ろうとした。
しかしその時——
「ッ!?」
彼を狙って空から無数の光の矢が降り注いだ。
咄嗟に回避したカインは即座にシャムロックを構え、射撃方向に銃口を向ける。
(……どこだ?)
敵の姿が見えない。だが光矢はなおも襲ってくる。360度あらゆる方向から。
「チッ」
まるでカインの一歩先を読もうとするような精密射撃。しかし彼はその中を何とか紙一重で掻い潜り、壁や障害物を駆けながら瓦礫の山の裏に隠れた。
「わぁお! お兄さんなかなかやるねぇ。トレイの射撃を全部避けるなんてさ」
「……別に外してない。追い込んだだけだよ、ケイト」
上の方。おそらくまだ倒壊していない建物の屋上から。
その声は聞こえてきた。
「何モンだ、テメェら?」
「俺たちに名前はない。あるのは
「ていうか、こんな戦場のど真ん中で名乗る必要なんてある?」
かすかに見える少女と少年の影。
彼女たちは見覚えのある黒い腕輪に何かを差し込んだ。
『
『
直後、暗い閃光が弾けた。
まるで光を吸収するかのごとく、急速に空から色が抜け落ちていく。
『どうせあんたはここで私らに殺されちゃうんだからさぁ!!』
そしてそれは二人の天使へと収束していく。
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