第166話 強さと弱さ -Both make you ...-
・1・
「覚悟はいいか、ユウト!」
「……あぁ」
ユウトは新たに手に入れた力――エリュシオンを
一方、
それはまるで――
「……ッ、悪神化!?」
「たわけッ! ちゃんと制御しているのだ!」
その言葉通り、以前とは違い彼女はちゃんと自我を保っていた。
(あの黒翼……)
ユウトの蒼い瞳には四つの異なる魔力が二対の黒翼を起点に規則的な循環をしている様が映っていた。暴走していた頃とはまるで性質が違う。激流のような魔力はそのままに、それぞれが織物のように精密に重なり、より強い力を紡ぎ出している。枷が付けられているとはとても思えないほどに強く。
「
次の瞬間、
「ッ!?
咄嗟にユウトは
「フッ」
しかし
次いでギチィっと、金属が朽ちる音がした。
「……ッ、狙いはそっちか!?」
彼女を縛る封魔の枷が朽ちて消えていく。
今の一撃。狙いはユウトではない。暴食の濁流は単なる余波でしかなかったのだ。真の捕食対象は
「フン、この程度で
決してリュゼの封印術が機能していなかったわけではない。並の人間なら指一本動かせなくなるほどの拘束力が約束された魔術だ。
「うぐ……ああああああああああああああッ!!」
封印が解かれ、本来の彼女の力が解放される。
溢れ出る黒い魔力は空をいびつに歪め、
「ねぇ、これ冗談じゃ済まなくない!?」
「……ッ」
「
その姿は
端的に言えば、有限でありながら
『お前をボコボコにして、みんなを取り返すのだ!』
「別に俺は君から彼女たちを奪うつもりは——」
『うるさいうるさいうるさい! うるさいのだ!!』
黒龍が叫ぶと歪み切った空が一層騒めき、視界を埋め尽くすほどの赤雷が一斉にユウトに襲い掛かった。
「ぐ、おおおおおおおおおおおおおお!!」
ユウトは
刀身は炎を吹き上げ、赤雷は轟音を轟かせた。
激突する双方の魔力は互いを喰らい尽くさんと牙を立て合い、大気を甲高く軋ませる。その数秒後、彼の背後にあった海が文字通り裂けた。
(ッ、危なかった……今のは今まで俺が持ってたどの魔法でも防げなかった)
この手に握る
だからユウトは目を伏せて静かに呼吸を整えた。自分の中にある恐れや不安を排し、僅かな可能性を見落とさないために。
(間違えるな。俺がここでやるべきことは
頭の中をリセットする。もう、今までのやり方ではダメだから。
フランの言っていた
(捻じ伏せるだけじゃダメなんだ)
例え際限なく強さを得たとしても、そこに答えはない。
必要なのは『強さ』ではなく、奥底に眠る『弱さ』。深淵を覗く覚悟。
『――――――――――――――――――――――――ッ!!』
黒龍の尾が海を叩く。天を突き刺すほどの水柱が
「ッ!!」
ユウトはただ一点を攻撃することでその全てを受け流した。
『ッ……!? まぐれなのだ!!』
「いや、まぐれじゃない」
その宣言通り、今度は続く雷撃を彼は発動前に打ち消してみせる。
『何、なのだ……お前は……ッ』
しかしユウトは違う。彼は理解し始めていた。
――理想を体現する魔法。
その本来の意味を。
・2・
『
龍の顎が開かれ、怒涛のような黒炎が噴き出す。ユウトは臆することなくそれを
『な……ッ!?』
先程は相殺するだけで手一杯だったにも関わらず、今回は一切の抵抗なく斬られた。このあまりの変わりように
『ま、まだなのだッ!!』
今度は広範囲に渡る暴食の魔力の乱れ撃ち。僅かでも触れればたちまち対象を喰らい尽くす可視化された死をユウトは難なく躱していく。
(相手が思い描く理想。そこから次の一手が見える)
それによって先読みはもちろん、触れることで思いのままに干渉することができる。
(それだけじゃない。
追い風のようにユウトの背中を押してくれる。
(そうか……そうだったのか)
他者の『強さ』を形にする
その『強さ』を一つにした
今まで自分の中にある『弱さ』がその『強さ』を眩しいくらいに輝かせていた。それはきっと憧れに近い感覚。
だけど今のユウトに宿るのは理想を体現する力。どんな『弱さ』も受け入れて『強さ』へと変える魔法だ。そんな彼だからこそ、こうして相対することで
『Get ready for innovation!!』
エリュシオンに
「集え! 影に潜みし万物の霊長――
星が落ちる。その閃光によって生じた影が一点に収束し、蛇の尾を持つ有翼の黒豹へと変貌を遂げた。
黒豹は唸り声を上げると共に自身の体を溶かし、体を形成していた金属のような無形の物質は幾万の魔棘へとその形を変える。
まるで意思を持ったかのように縦横無尽に飛び交う魔棘は黒龍の顎を粉砕し、その胴体に次々と大小様々な風穴を開けていった。
『――――――――ッ!!』
だが魔棘に貫かれてもなお、黒龍が放つ魔力が衰えることはない。おそらく本体には当たっていないからだ。
しかしさすがに形を維持できなくなったのかのたうつ巨体は爆散し、中から表情を無くした角の少女が姿を現す。
「……」
虚勢の仮面は剥がれた。これでようやく二人は同じ土俵で話をすることができる。ユウトはもう一度深呼吸をして、ゆっくりと
「教えてくれ、
ユウトが感じ取った彼女も知らない『弱さ』。その根源――
「何をそんなに怖がってるんだ?」
それを今この場で全て吐き出させるために。
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