第130話 完全な魔装 -To be the next level-
・1・
「ったく、何で私がこんなとこまで……」
ブツブツと文句を言いながら、エクスピアから派遣された
「あはは……すみません」
あまりにもうんざりとした秤の表情に気圧され、レイナはついつい謝ってしまう。もはや周知の事実だが、彼女は
「そんなに嫌ならこの国で活動してる九条に任せればよかったじゃねぇか」
「はぁ……あんた馬鹿?」
カインのその言葉に秤は溜息を吐く。
「錬金術は私しか使えないのよ? 構造すらまともに理解できない素人に何ができるってのよ?」
元々
しかしだからと言って秤の錬金術が万能というわけではない。
「錬金術は失われた叡智。いくら私がその技術を復活させたとはいえ、まだまだ未開の部分が多い代物なの。だからこうして経過観察をするのも必要な事なのよ」
私の仕事に限ってミスはないけど、と付け加え、彼女は自分の仕事に戻る。しかしふと思い出したように、振り返らずこう告げた。
「あー、そういえばあんたたちがバベルハイズから送ってきた
ピクッとカインの肩が震えた。
件の
「何か、分かったのか?」
「全然ダメ」
「……は?」
予想外の返答にカインは思わず素っ頓狂な声を漏らした。
「し、仕方ないじゃない……サンプルが少ないってのもあるけど、現存するどの技術体系にも当てはまらなかった。魔術にもよ!? どうやって動いてるのかこっちが聞きたいレベルよ!」
「……」
理屈は分からない。だが何故か動いている。
そんな初心者みたいなセリフを彼女に言わせる時点で、事の重大さは見て取れる。
「引き続き
「……ッ、どこだ!?」
「
昨晩、
「仕組みはともかく、使われてる素材の中にリングー社系列の特許品がいくつか見つかってるみたいよ。私は専門外だからこれ以上の事は
そう言うと、
「レイナの槍は問題ないわ」
「ありがとうございます!」
「けどあんたのは問題大ありよ」
秤はビシッとカインに人差し指を向ける。
「あ?」
「まぁ十中八九原因は報告にあった魔装ね。かなり武器がへたってる」
と言われても、カインとレイナにはちんぷんかんぷんだ。それを察した秤は親指で外を差した。
「ちょっと、表に出なさい」
・2・
ホテルの部屋を出たカイン達は秤に誘われるまま、郊外の広場に到着した。彼女は人払いの魔術を展開すると、カイン達に向き直る。
「魔装してみて。今ここで」
「は? 何で?」
突然の要求にカインは首を傾げる。
「いいからいいから。さっさとやる」
「……はぁ、了解」
彼は渋々それを了承すると、
魔装・
戦いの中でカインが編み出した彼だけの魔装。禍々しい死神の鎧に身を包んだ彼を秤はまっすぐ見つめていた。黄金の瞳――千里眼で。
「ふーん。なるほど……そうなってるのね。あ、もういいわよ」
約1分間、ただジロジロ見られ続けたカインは何か言いたげだったが、その場では言葉にすることはなく黙って魔装を解除する。
「で、何がなるほどなんだ?」
「別に。よくできた魔装だと思って感心しただけよ。ま、刹那様の神々しさには比ぶべくもないけど」
「……」
秤は何故か自分の事のように胸を張る。そしてこう続けた。
「分かってると思うけど、あんたの魔装は普通じゃないわ。まぁ魔装に関してはそもそも『普通』の定義が曖昧なんだけど。とにかく他と決定的に違うのは
「確かに……今まで魔装を使ってた人たちの中にカイン君みたいな人は一人もいなかったよね」
レイナはうんうんと頷く。
「その右腕のことは私の千里眼でも全く分からないわ。けど喰らったものを自分の力にできることは分かってる。
「あぁ、結局まだ俺一人じゃ
正確にはその資格はある。夢の世界で
問題はその
人生を共にしてきたカインですら分からないことが多いこの腕から
「力を行使することはできる。けどそれはあくまでこの右腕が変換した力だ。不純物が混じった力で魔装はできねぇ」
文字通り、魔装とは神という完成された力を鎧とする行為。例えどれだけ性質が似ていようが、コンバートされた力でそれは叶わない。そこに完全性は成立しないからだ。だからこそカインは
「けどあんたが魔装を使う度、
問題は二つ。
一つはカインの
もう一つは
「要は完全にスペック不足ってことよ。今のままじゃこれはあんたの右腕にも
「んー? あっ! じゃあもし
気付いたレイナに秤は小さく頷いた。
つまりこういうことだ。
「えぇ、それが可能になった時あんたは正真正銘、完全な魔装を手にできる」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます