第118話 夢の終わり -The end of the fate-
・1・
「もう、いいんだな?」
「うん」
ただ一言、カインがそう問うとガイは小さく頷いた。
カインは右腕の包帯を解き、
この限りなく現実に近い
その権能は
「タカオ、今度こそお別れだ」
「あぁ」
タカオとガイ。二人の視線が交わる。
もう、言葉は必要なかった。最後に交えたお互いの拳が想いの全てを伝えてくれたから。
「やってくれ」
カインもそれをどこか感じ取ったようで、何も言わずに頷き返す。そして彼は右手に持った
直後、青い空に光の亀裂が走った。砕け散った空の欠片がキラリと眩い光を反射しながら雪のように彼らの頭上に降り注ぐ。
「綺麗……」
深手を負った刹那に肩を貸していた
「……ッ、ユウ、トは?」
「心配ない。あっちも片が付いたみたいだ。レイナも向かってる」
この場にいないユウトの身を案じた刹那の言葉にカインがそう答えた。今の彼には
「全員自分の心配をしてろ。道を開くぞ」
そう言ってカインはガイの胸に突き刺した刀を鍵穴に差した鍵のようにゆっくりと右に回した。
次の瞬間、光が溢れた。昔と変わらない笑顔を取り戻したガイの体は光に包まれ、徐々に消えていく。その光景をタカオは最後まで目に焼き付ける。
「みんな、ありがとう」
最後にそう言い残して、ガイは世界から完全に消失した。
「……ッ」
誰一人、口を開かない。
仲間の死を前に、内に秘めた言葉をグッと抑えている。みんな理解しているのだ。まだ『その時』ではないと。そして変化はすぐに訪れた。
ガシャーン!! と大きな音を立て、ひび割れていた空が崩壊する。この世界の核だったガイの死は、この世界そのものの終わりを意味していた。
「ッ!? 体が!」
声を上げた飛角を始め、この場にいる全員にもその影響は生じた。空の崩壊と同時にまるで重力の概念がなくなったかのように体が浮き始めたのだ。
「そのままあの割れ目に飛び込め! それで外に出られる!」
カインの言葉に頷き、
「私らも」
「うん。刹ちゃんちょっと我慢してね」
飛角、
「何してる? アンタもさっさと行け」
「あぁ、分かってる」
タカオだけは崩壊する世界をどこか悲しそうに見渡していた。
「住めば都とはよく言ったもんだ……」
現実には存在すらしないこんな場所でも、間違いなくあの時――タカオを始めとした多くの者たちがここで生きていた。もちろん良いことばかりではなかった。むしろ何度も窮地に立たされたくらいだ。それでも己の信念を胸に最後まで戦い、抗いぬいた。それは決して嘘でも夢でもない。誰が何と言おうと紛れもない
ここには自分たちが刻んだ確かな歴史がある。
だから――
「……あばよ!!」
だからタカオは全ての仲間たちを代表して、
最大の敬意を持って、
ありったけの声でそう叫んだ。
・2・
「ッ!? 空が……ッ、みんなやったんだな」
世界が崩壊を始めている。おそらくタカオたちが全てに決着をつけたからだ。
「……俺の、負けだ」
目の前で倒れている虚像のユウトがそう言った。
「俺は、お前のはずだったのに……お前はもう、俺じゃない」
「みんなが俺を強くしてくれた。お前だって、本当は分かってるんだろ?」
そもそも
「……」
虚像のユウトは答えてくれなかった。だがきっとユウトの言葉の真意を理解している。でなければ今この瞬間倒れていたのはユウトの方だったはずだから。勝負を決した最後の一瞬、虚像のユウトに大きな隙ができた。
あれはきっと、彼の迷いそのものだ。
「……何してる? 早く
「あぁ、分かってる」
ユウトが近くで眠っている
「隊長ー----ッ!!」
頭上から自分の名前を呼ぶ声がした。
「レイナ!?」
「え!? 隊長が……二人?」
レイナは交互にユウトを見て頭の上に『?』マークを浮かべている。しかしすぐに虚像のユウトの瞳が蒼いことに気付き、もう一人のそうでないユウトが本物だと理解した。
「行きましょう! カイン君たちが出口を作ってくれました!」
「あぁ!」
レイナの伸ばした手をユウトが掴もうとしたその瞬間、ついに
「うわ……ッ!?」
ユウトの足元に亀裂が走り、一瞬にして彼の全身を浮遊感が襲った。
「隊長!!」
スレイプニールのおかげで自由に空を飛べるレイナだが、この時ばかりは違った。世界崩壊の影響か、自分の体が空の裂け目に強い力で引き寄せられている。そのせいであとちょっとで掴めそうなユウトの手にどうしても届かない。
「く……ッ、とど……けぇッ!!」
「……ッ!!」
対してユウトの方にはその引力が全く作用していなかった。
(もしかしてクロノスの影響か!?)
使う度に体を蝕む
「このままじゃ……ッ」
焦燥感がレイナを駆り立てる。ユウトも必死に手を伸ばすが、やはり距離は縮まらない。
「……ッ、レイナ!
そんな時、ユウトはずっと大切に抱きかかえていた
「え!? ちょ……ッ!!」
レイナは反射的に彼女の腕を掴んだ。そしてそのせいで強すぎる引力に体を本格的に掴まれ、レイナとユウトの距離が一気に開いてしまった。
「隊長!!」
「俺のことは心配ない!」
「で、でも!」
しかしもうレイナ一人ではどうしようもない状況だ。際限なく、かつ加速度的に力を増す引力はすでにスレイプニールの推進力さえも上回っていた。
「絶対に戻るから! だから今は
「隊長ー----------------!!」
レイナは
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