第101話 すれ違う願い -Never come true-
・1・
――刹那達の
「ホッホッホ、そろそろ終いですかな?」
「グ……ッ」
「実際、よくやったものだよ。聞く所によると貴殿は我等との戦いで負った傷のせいで魔装が使えないという。にもかかわらずここまで『今の私』に食い下がるとは……さすがは
「へへ……上から目線の物言いにはイラッとくるが、この体たらくじゃ言い返せねぇな」
そう言いながらも
「願わくば全盛期の君と剣を交えたかったが、流石にそれは望みが過ぎるというものか」
「何勝った気でいやがる。こちとら未来の客人がいるんだ。カッコ悪いところは見せられねぇんだよ!」
地を蹴り、一直線に飛び込む
再び大剣同士の打ち合いとは到底思えない速すぎる剣戟の応酬が続く。
しかし、状況は依然シャルバが優勢だ。
「ッ!!」
その中で彼の終始穏やかだった目つきが瞬時に鋭くなった。
(しまっ——)
本人でさ気付くのに一瞬遅れたその隙をシャルバは見逃さなかったのだ。
ガキンッ!!
空に舞う
「ほぅ……」
その間に強引に割って入った者がいた。
「……じょ、嬢ちゃん」
「アンタが強いのはよくわかったわ。けど、いい加減こっちも反撃させてもらうわよ!」
もう一本の
・2・
「
本物の
「都合のいい嘘だけを信じろ、とはよく言ったものね……姉さん!!」
「アイアイサー!」
刹那が叫ぶ。その直後、
「……ッ!」
資格を持たない者が触れたことで、
「「はあああああッ!!」」
刹那と燕儀は同時にそれぞれの剣を振り、シャルバを押し退ける。
「ッ……これは、驚いた」
ほんの一瞬とはいえ、シャルバの予想を超えた二人は揃って
「えーっと、つまりどういうこった? 特にそっちの嬢ちゃんは俺の剣を持って平気なのか?」
「いやー、正直すぐにでも手放したいかな……この剣、
「もう一振りの
「例え嘘でも、この世界では現実に成り得る。私がそれを真実だと思えばね」
要はイメージの強さが重要という話。
この手に
燕儀にも同じことが言える。彼女が
「全く、無茶が過ぎますよ」
「
刹那の隣に並び立った
「
「……違いねぇ」
彼女の言葉に触発され立ち上がった
「ホッホッホ、今度は四人で来るかね? ならば私も全力でお応えしよう」
嬉々としてシャルバが魔剣を振るった瞬間、彼の姿が四人に増えた。
「もう何が来ても驚かないよ」
「そうね。そういうものだと納得するしかないわ」
敵は100万を超える権能と最強の剣技を併せ持つ化け物。
今更それはどうやっても覆せない。未だ勝算は無きに等しいが、それでも二人の心に諦めるという文字はなかった。
しかしそんな最中、事態は急に終わりを告げる。
「ッ!? 刹ちゃん、空が……」
その変化に最初に気づいたのは燕儀だった。空だけではない。刹那もすぐに周囲の変化に気が付いた。
「
隣にいる
「……無粋な。どうやらこの世界はそろそろ限界と見える。所詮、夢は夢か」
「ってあちらさんは言ってるけど、だとしたらここに留まるのはマズいんじゃない?」
「……ッ」
だがもう遅い。
次の瞬間、静止した
・3・
Lost Lucifer
それは
理由はわからない。だが事実、ガイは左腕に取り付けたネビロスリングにそれを装填して降霊武装を身に纏っている。
「ガイ……」
当時の配色と若干差異はあるものの、それは間違いなく魔法を宿した機械仕掛けの鎧。その強さは身を以て知っている。
「正直、また会えるとは思ってなかったよ。その、ミズキは……元気?」
タカオの前で立ち止まったガイはふとそんなことを口にした。
「……あぁ。あの後あいつといろんな場所を巡ったよ。最近はガキもできた。まだ生まれてねぇけど」
「ッ……そうか。幸せそうで良かった。本当に」
「良いわけないだろ!!」
思わず、タカオは叫んでいた。
「お前がいないのに……どの面下げて喜べって言うんだよ!! 俺はお前を、助けに来たのに……ッ」
タカオの目的はこのやり直しの世界で彼を救い出す事にあった。
しかしどんなに望んでもそれは叶わない。ここはそもそもやり直しの世界などではなかった。
災厄の権化であるガイが人として終われる唯一の場所。優しい棺桶だ。
初めから可能性はゼロだった。1%でも、0.1%でもなく。
「タカオ……」
「シンジがワーロックになったあの時、俺はお前に助けてくれなんて頼んでねぇ。ましてや俺らのために犠牲になって欲しいなんて思うはずないだろ!」
言っても仕方がない事はタカオ自身よく分かっている。誰が悪いとかそんな話ではない。それでも彼はこの感情を口に出さずにはいられない。
あの時、本当に他の選択肢はなかったのかと。
「だがあの時はああするしか――」
「だがもへったくれもあるか!!」
「……ッ」
ガイはそれ以上反論できなかった。しようと思えばいくらでも言葉は取り繕える。だがきっとどれもタカオには届かない。それが分かってしまうから。
彼は静かに右手を開く。するとそこに炎の剣が生み出された。
「ッ!?」
「ここでタカオを斬れば、目覚めた時には現実に戻ってるはずだ。今の俺にはそれくらいの権限はある」
「ガイ、お前……」
「ミズキと結ばれたのを聞いて、最後の憂いが消えたよ……おめでとう」
これ以上は蛇足だ。
思い出は思い出のまま、綺麗であって欲しい。
(悔いは、ない)
「ガイ!!」
ガイが炎の剣を振り下ろそうとしたその時――
『Overflow』
二人の横にあったビルの壁を突き破り、漆黒の衣を纏った何者かがガイの首を鷲掴みにした。
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