第97話 100 vs 1000000 -Beyond the past-
・1・
「よう、シャルバつったか? 随分とお早いお目覚めじゃねぇか」
「剣皇殿。貴殿と剣を交えるのもまた一興か!」
シャルバと
「
「もう何でもありだね」
急遽幕を開けた本来ありえないはずのミラーマッチ。
刹那と燕儀は思わず固唾を呑んだ。
「
シャルバの不意の一撃を受けた
「あらよっと!!」
「ハハッ! 豪快豪快!」
一進一退の攻防は止まらない。
全く同じ武器であっても、二人の戦い方はまるで違っていた。
先の戦いで見せた大剣を軽々と巧みに操るシャルバの剣技に対し、
「そらッ、喰らいやがれ!」
僅かに間合いが広がったその瞬間、
「む……ッ」
だがシャルバの一閃が何もない空間を切り開く。すると氷刃はどことも知れぬ異空間にまるごと飲み込まれて消えてしまった。さらにそれだけでは終わらない。
「チッ……相変わらず敵に回すと面倒な技だ」
無限に増殖する闇に向け、
「ホッホッホ、さすがですな。やはり
「ったりめーだ。そもそもこいつはアベルが俺用に拵えたモンなんだからな」
・2・
「
さきほどの大地をも一瞬で凍てつかせる氷。そして空間切断能力。
それだけではない。
刹那の考えを察したのか、
「あれは神殺しの剣。悪神百鬼を祓い、その力を喰らって己のものとする」
斬ったものを吸収し、その能力を簒奪する。
元々ワーロックが持つ殺した対象の魔力を奪う性質と、英雄から知恵者にいたるまで様々な一面を持つ
それが
「眷属としてアベル殿と共に旅をする中で、
「それって……つまり
話を聞いた燕儀は思わず声を上げていた。驚くのも無理はない。今まで彼女たちが目にしてきた
「しかしそれはあの魔人とて同じこと。
決め手に欠ける。彼女はそう言いたいのだろう。なにせ自分が使える力は相手も同様に使えるのだから。もしも勝機があるとすれば、それは相手が発動した能力の弱点を有した力で対抗するといったジャンケンゲームくらいだろう。
「
御巫の長い歴史の中で、後にも先にも
(私たち、あんな化け物を倒さないといけないの……)
いずれ挑まなければならない『最強の剣』と『最高の技』を併せ持つ剣士を前に刹那は息をすることも忘れ、見入っていた。
だってそうだろう?
ここはあくまで夢の世界。現実に戻ればもう、
・3・
(……チッ、埒が明かねぇな)
氷には炎。雷には土。闇には光を。
剣と技。総合的な実力はここまでほぼ互角と言ってもいい。だが
「テメェ、俺の知らない力を……」
「さすがに気付いたか。いかにも。80年前、斬姫の封印を破ったあの時から私は一日たりとも研鑽を怠ったことはない。詰まる所、今の私と当時の貴殿との差はそれだけだよ」
直後、剣を構えたシャルバが二人に分身した。
「ッ!?」
「知っているかね? 自分と瓜二つの人間が存在するという伝承を」
さらに一人、気配を消して
「ぐ……ッ!?」
「知っているかね? 死角より主に襲い掛かる哀れな人形の怪異譚を」
傷は浅い。だが背中に一太刀受けてしまった。
「ホッホッホ、知らないだろうさ。何せ後の世で人間が信じて止まぬ戯言なれば!」
「だが人間の持つ言霊は実に興味深い。単体では全く意味をなさないが、集まればそれなりに意味を持つ」
斬っても斬れないものを斬る力。数ある
斬れないもの。例えばそう、人々が本能的に怖れを抱くものなどがそれにあたる。実在しないと頭では理解していても、心の底ではその存在を信じて止まない。そんなある種の好奇心や欲求が長い時を経て受け継がれ、広がっていくと、そこには微弱な力が生じる。
「なるほどな。その概念をぶった斬って
一つ一つは取るに足らない小さな力。だがそんなものは使い手の力量でどうにでも化ける。事実、シャルバは『背後を取る』というただそれだけの能力で拮抗状態だった
「まぁそれだけではないがね。貴殿も知っての通り、魔獣は外の世界からやって来る。つまりそれは外にはまだ見ぬ
「!?」
この世界の神霊妖魔の類はアベルの手でほぼ死滅した。残ったものも時が経てばやがて朽ちて消えていくだろう。だが世界の外側はその限りではない。元より人智の及ばぬ領域だ。
それをこの80年、彼は休むことなく繰り返してきた。
「テメェ……いったいどれだけ斬ってきやがった?」
「そうさな。
シャルバが剣を薙ぐ。
するとそれに呼応するように、内包された幾万の怨嗟がドス黒い魔力となってその刀身を激しく燃え上がらせた。
その悍ましき『黒』は数多の
「こいつは……ッ!!」
もはや魔人の持つ『それ』は、
「ざっと100万といったところですかな」
完全に別物の神剣――いや、魔剣と成り果てていた。
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