行間3-2 -常闇の最奥にて君を待つ-
ここは夢の
つまりはそう、
神のみぞ夢見る世界――名を
「あら、お客さん。何日……いえ、何年ぶりになるのかしら?」
永遠を生きる神に時間の概念など存在しない。故にここでの1秒は1分にも1年にも成り得る。詰まるところどうでもいいのだ。だが神ではない彼女の声は僅かばかり弾んでいた。まるで面白い映画を見つけ、期待に胸を膨らませるように。
「1、2、3……フフ、また新しいお客さん。千客万来ね」
最後に自分の手を認識したのはいつだっただろうか?
一人数えるごとに虚ろな靄にすぎなかった白い指先がはっきりと見えてくる。
この世界に溶けて沈んだ『自分』という概念を取り戻す。
そして徐々に自身が腰かけるアンティーク調の椅子とテーブル。その上に置かれた紅茶と、彼女の世界はごく僅かな範囲ではあるが色を取り戻し始めた。
「あぁ……彼も戻ってきたのね」
ふと、数える指が止まった。そしてゆっくりと開いた手を閉じる。
「悠久を生きる私にとってここは存外悪くない場所だったけれど、あなたにとっては違うでしょうね?」
鮮血を浴びたような赤い着物姿の吸血鬼――カーミラはクスリと微笑む。
「あなた、まだ彼の事を覚えているの?」
彼女は対面に座る『何者か』にそう問いかけた。だが返答はない。
名を失い、形を失い、無意味と成り果てた。それでもそこに在り続ける『誰か』。自分と比べれば矮小極まりないその存在をカーミラは愛おしく想う。
「大丈夫。きっと今度も見つけてくれる。あなたの英雄は……きっと」
この誰もいない暗闇の奥底で、その時が来るのを切に願わずにはいられないほどに。
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