第85話 救出作戦 -What I left behind-
・1・
海上都市跡地。
現在、そこにかつての科学都市の面影はない。あれはあくまで
「よっ、久しぶり」
「……こりゃびっくり」
バベルハイズから30分も経たないうちに現地に到着した飛角、カイン、そしてレイナの3人。超高速ジェットから降りる彼女達を赤髪の青年が手を振って出迎えた。
「タカオ、何でお前がここに?」
「フフン、面白そうな話を耳にしたからな。はるばるニューヨークからひとっ跳びしてきたってわけだ」
彼の言葉に一瞬キョトンとした表情を見せる飛角。しかしすぐに納得した。
「ハハ、お互い考えることは同じってところかね」
「そゆこと。まぁ、確証なんてないけどな。けど乗らねぇ手はねぇだろ?」
互いの目的を察した二人は拳を突き合わせた。
「あの~この方は……?」
「うわっ!? どうした嬢ちゃん? すっげー顔色悪ぃけど!?」
飛角の背後からレイナがひどく青ざめた顔をひょっこり出した。まるで恐ろしい体験をした直後のような生気のない表情にタカオは思わず一歩後ずさる。
「エヘヘ……お構いなく。ちょっと、空が怖くなっただけです……」
「いやそれ全然大丈夫そうに聞こえねぇんだけど!?」
「まぁまぁ。レイナ、こいつは
まだ化け物スピードに酔ってふらつくレイナの頭に手を置き、飛角はタカオを紹介した。
「かい……じょう? どこかで聞いた事があるような……」
「ん? あーそういえばレイナも海上都市出身なんだっけ?」
「お、そうなのか?」
「アハハ……はい、まぁ。私はお二人のように魔獣と戦えなかったし、ずっと逃げてばっかりだったんですけど……」
実際、本当に何もできなかった。当時の事をレイナは今でも鮮明に覚えている。
襲い来る魔獣の大群。それに対抗するため大量に用意された『ルーンの腕輪』という装着者を魔法使いに変える
あの時、望めば誰しもが抗う力を手に入れることができた。それこそただの一般人であってもだ。
にもかかわらずレイナは力を拒絶した。
恐ろしい魔獣と戦うのが怖かったのももちろんある。しかしそれ以上に、力そのものが怖かった。力を手にして豹変していく人たちを彼女は誰よりも近くで、誰よりもたくさん見てきた。だからそれを掴んだ瞬間、もう後戻りはできなくなる。そんな予感がレイナを躊躇わせたのだ。
それが今でも彼女の胸の中で小さなしこりになっている。何もできなかった後悔――いや、何もしなかった罪悪感として。
そんなレイナに対し、タカオはおもむろに右手を差し出した。
「ま、いいんじゃねぇの?」
「……え?」
「戦いは誰かに強要されるもんじゃない。自分で決めてやるもんだ。だから『戦わない事を選択した』レイナちゃんを責める権利は誰にもねぇよ」
タカオはニッと笑ってみせる。さすがというべきか、彼はレイナのたった一言だけで彼女の胸中を察したようだ。その清々しいまでに芯の通った言葉はレイナの胸を少しだけ熱くさせた。
「それに今ここにいるってことは、もう覚悟はできてるんだろ?」
「は、はい! もちろんです!!」
思わず右手を伸ばすレイナ。しかし一瞬、躊躇してその動きを止める。そんな彼女の手をタカオが掴んだ。
「んじゃ、よろしくってことで。あ、ちなみに俺の事はタカオでいいよ」
「……はいっ!!」
迷いながらも交わした握手には、いつの間にか自然と力がこもっていた。
・2・
「これで全員揃ったわね」
海上に浮かぶ巨大プレートに建てられた仮設コンテナ。その中に今回の任務に携わる一同が集結した。
「えっと、飛角さんに刹那さん、燕儀さん、タカオさん。あと私とカイン君。はい、全員います」
「うん、ありがと」
レイナに礼を言い、
「本当はユウトも一緒だとよかったけど、贅沢は言ってられないわ」
「フフ、そう言って刹ちゃんが一緒にいたいだけでしょ?」
「ばっ……そ、そんなわけないでしょ!?」
「フーン♪」
「とにかく! 今動ける私達だけでやり遂げるわよ!」
刹那の言葉に全員が頷いた。
今回の目的はずばり、未だ
対象はあの日から現実で眠り続けている
「ガイと」
「ロシャードもね」
タカオと飛角がそれぞれ付け加えた。
「分かってる。あんたたちがこの作戦に参加する一番の理由だものね」
ガイ――その正体である邪龍ワイアーム。彼は
ロシャードもまた、数多の偶然が折り重なり心を宿すに至ったロボット。こちらも非常に稀有な存在だ。
どちらにも共通するのは、
現実に存在し、夢幻に飲み込まれた大勢とは前提からして違う。それはつまり例え現実に移動できたとしても、魂が帰還する肉体がない事を意味する。
「ただ実際、簡単じゃないよね」
「ロシャードは
どうやって救い出せばいいか見当もつかないというのが全員の抱くところだった。
「あいつの事は俺に任せてくれ」
「お、何か考えがあるの?」
燕儀は期待半分といった顔でタカオに尋ねた。しかし、彼は素直に首を横に振る。
「ない」
「あらら……」
「けど何とかするさ。あいつには色々話したいことがあるからな」
タカオはそう言って、右の拳を強く握りしめた。
・3・
「……見つけた」
ポツリと呟かれたその一言は海の音に消える。
ここは刹那達がいる海上都市跡地から数km離れた陸地。特定の人物を視認することなどほぼ不可能な遠い場所にも関わらず、少女は小さく微笑んでいた。
足が悪いのか車椅子に座り、虚ろな表情で地平線を眺めるその姿は良く言えば儚げ、悪く言えばひどく病弱な印象を受ける。どちらにせよ触れれば瞬く間に壊れてしまいそうだ。
「教授……喜んでくれるかな?」
誰に聞くでもなく、彼女は問いかける。
「うん……大丈夫。きっと喜んでくれる……だって教授は私に優しいから」
車椅子の少女は自分で自分の行動を肯定し、やはり小さく微笑んだ。
「待ってて。私、頑張るから……」
言葉に抑揚はなく、しかしそれでいて綺麗で透き通っていた。それだけで『教授』なる人物を彼女がどれだけ愛しているかありありと伝わってくる。
しかしその暗い瞳に一体何を映しているのか、当の本人以外知る由もなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます