行間2-3 -傲慢の外理-

 ――天使の完全同一個体生まれ変わり


 の地で生まれた美しき王女はそう呼ばれていた。

 何故か? 答えは簡単。彼女にはそれを証明する力があったからだ。


 あらゆる傷、病、そして呪いでさえ。

 彼女の体内を流れる血、その一滴を垂らせば立ち所に最善となる。



 ――そう、『最善』となるのだ。



 確かに他の者にはそれが『究極の癒し』に見えるだろう。

 だが、天使の聖血エンゼルブラッドの本質は別にある。

 そもそも彼女の力は『治す』ではなく、むしろ『直す』と呼ぶ方が正しい。

 初めてこの力を使ったあの日、彼女だけがそれに気付いていた。



 失われた因果を手繰り寄せ、選び直す。

 そしてその果てにある『最善』を掴み取る権能ちから



 ただの一度で理解した。

 この力が皆の言う天使の御力でも、ましてや神様の寵愛でもないことを。

 これはそう……言うなれば傲慢の権化だ。

 何せ自分にとっての『最善』、それを勝手に選んでくれるのだから。たった一滴、血を流す。ただそれだけで一切の過程を無視して、あらゆる物事に対して絶対の成功を得ることができる。


 だからこそ、他でもない彼女自身がこの力に恐怖した。


 誰かを助けたい。そう思える内はまだいい。エンゼルブラッドは必ず望んだ結果をもたらしてくれる。例え自分本位の我儘エゴを実現する力でも、それで人が救えるのなら誇らしい。惜しむべきではない。

 それが今日こんにちまでライラエル・クリシュラ・バベルハイズという王女が、皆から天使と称される由縁だ。


 問題は彼女が常にということ。

 ただ人を救う事だけを至上とする機械に。


 もし、一度でも心に黒い闇エラーを宿してしまったら。

 もし、胸の内に抑えきれない激情バグを覚えてしまったのなら。

 その時はきっと、この傲慢は――

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