第41話 神殺しの遺物 -Deprived Thrones-
・1・
「はぁ……」
「ん? 珍しく元気がないですね?」
再び会議室に戻ってきたレイナは、らしくない溜息を吐いていた。それを見た真紀那が思わず首を傾げる。
「だってさっきの模擬戦……私だけ全然良いとこ無しだったんだもん」
言葉に出してさらに凹んだのか、彼女の顔に憂愁の影が差す。
そんなレイナを見かねた真紀那は、何か少しでも彼女が元気を取り戻せる言葉を探した。
「私も……翻弄されてばかりでした。ですが、得るものもたくさんあったと思います。
「うぅ……マキにゃん……」
たどたどしいが、自分を気遣ってくれているのはしっかり伝わってくる。
そう感じたレイナは少し涙ぐみながらも、両手をキュッと握る。
「そうだよね! これから頑張ればきっと大丈夫!」
「まぁ次はあっさり
「あーもう! ごめんなさいー! 私が未熟でしたぁぁっ!!」
せっかく気持ちが上へ向き始めたのに、痛い所をカインに突かれたレイナは、今度は頭を抱えてそのまま机に突っ伏してしまった。
「……(じー)」
「な、何だよ?」
「……いえ」
射殺すような視線をカインに向けていた真紀那は、そっぽを向く。
気まずい空気が流れ始めたそんな時、会議室の扉が開いた。
「おや? 何やら空気が重い?」
「たぶん、半分は姉さんが原因よ」
入ってきたのは先程まで3人と矛を交えていた
その後ろには吉野ユウトと神凪夜白も一緒だった。
・2・
「3人ともお疲れ様。そのまま楽にしててくれ」
ユウトはレイナ達に
「じゃあまず、このチームの
思わず、レイナたちは固唾を呑んだ。
視線が否応なくユウトへ集まっていく。
そしてゆっくりと、彼は口を開いた。
「レイナ。君に頼みたい」
「………………………え」
思いがけないユウトの指名に、レイナはポカンとした表情で固まっている。
「え、え? わ、私ですか!?」
無理もない。先の模擬戦であれだけ無様な負け方をした自分が選ばれるわけがない。彼女はそう考えていたのだから。
土壇場で仲間の窮地を救った真紀那。
実際に燕儀から一本取ったカイン。
そんな二人と違い、レイナは自分の価値を何一つ示せなかった。
それにもかかわらず、自分が指名されたことに戸惑うレイナ。
「で、でも私……さっきは全然……ッ、何かの間違いじゃ――」
「いいえ、レイナ。これは私も姉さんも同意の上での決定よ」
刹那の言葉に、ユウトと燕儀は揃って首を縦に振った。
「俺は君たちに『強さ』を示せとは言ってない。君たち個人の実力は、今回の判定基準にはならないよ」
「そうそう。私はレイナちゃん、リーダーの素質あると思うけどなー。もちろん、これからの努力次第だけど」
確かに燕儀が戦いの最中に指摘したように、制空権を容易に取れ、尚且つ戦場を高速で飛び回れるレイナは司令塔として十分以上のポテンシャルを持っている。
しかし、ここで言う彼女の『素質』とはそういうものではない。
「自分では気付いてないかもしれないけど、カインと真紀那……それに俺も含めて、君の何気ない気遣いや優しさにはいつも助けられてるんだ」
ユウトがその二人の方に目配せをすると、真紀那は素直にコクンと頷いた。隣のカインはというと明後日の方向へ視線を逸らしてはいるが、異を唱えるつもりはないようだ。
「……」
呆然とするレイナ。
打算や損得勘定ではない。自分が当たり前だと思ってやってきた事が、思いがけない評価を受けた事にただただ驚いていた。
しかし、皆から向けられる優しい視線に偽りはない。
「自信を持ちなさい。あなた達をチームたらしめているのは間違いなくレイナ、あなたよ。人と人とを繋げるのは狙ってできる事じゃないわ。それはもう立派な才能よ」
刹那の言葉に、周囲が頷いた。
「え、えっと……えと……」
急に恥ずかしくなったのか、頬が熱い。
今にも叫び出しそうなほど喉の奥底から湧き上がる高揚感。それをギュッと抑え込むので精一杯だ。
「頼める?」
もう一度、ユウトは彼女に問いかける。
レイナは一度ゆっくり深呼吸をすると、今度はちゃんと顔を上げ、ユウトと向き合った。
「はい! 私、頑張ります!!」
そして少女は、いつも通りの明るい声を取り戻す。
・3・
「さて、副官の人選も終えたところで、僕から君たちに情報共有をしたい」
神凪夜白が何故ユウト達に同行していたのか謎だったが、どうやらこれが彼女の目的だったらしい。
夜白は懐からかなり年季の入った手記を取り出した。
「これは先日、ユウト君が御巫の長から譲り受けたものだよ」
およそ1000年前の記録。
執筆者は未だ歴代最強と語り継がれる御巫の神童――
御巫の関係者である刹那や燕儀、それに真紀那は当然知っている。ユウトも里で何度かその名を耳にした。
彼女は刹那の前の
「彼女はこの世界に最初に生まれた
問うまでもなく、皆それは理解している。
夜白は続けた。
「トリスメギストスでこの手記の残留思念を解析してみたよ。読み取れる情報は断片的ではあったけど、いくつか新しい事がわかったんだ」
言い終わるや否や、彼女は壁に設置されたディスプレイに「1」から「100」までの数字の羅列を表示した。
いくつかの数字の下には名前が表記されている。それら全てが現在判明している魔具の名だとすぐに理解した。
「まず、僕たちが
ワーロックは殺した相手の魔力を根こそぎ奪う性質を有している。その相手は神であっても例外ではない。
魔力とはいわば存在の力。自分が自分である由縁。一個体である証明だ。神であればその権能を指す。
生前、アベルは古今東西数多の神々を殺し、その神格を身に宿していたそうだ。
「えっと、そもそも神様なんて本当にいるんですか?」
「残念ながらそれは僕にもわからない。そもそも観測の仕様が無いからね。でももしかすると、今がその結果なのかもしれない」
この世に神なんて存在しない。
信じる者はいても、その目で直に見た者は一人としていない。
誰でも知っていることだ。
しかし、もし本当に神代が実在していたとしたら。もしそれが長い年月を経て人々の記憶から消えてしまったのだとしたら。
今自分たちが生きるこの世界は、神殺しの魔道士が全ての神を滅ぼした結果ということになる。
「刹那君の伊弉諾はその答えを知っているはずだよ。果たして今の彼を僕たちが定義する『神』と呼べるかどうかはわからないけどね」
『——ほう、言ってくれるではないか』
突如、頭に直接響くような声が聞こえてきた。
刹那の伊弉諾がカタカタと震え始め、光の球体を放出される。その光は長机の中心で停止すると、
「やぁ。思った通り出てきてくれたね」
「……」
安い挑発だと彼も分かっていたはずだ。それでもこの場に出てきたということは——
「話してくれるかい? 君たち
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