第38話 新チーム発足 -New Order-
・1・
「というわけで真紀那の加入を以て、俺たちヴィジランテ第3部隊は正式稼働を開始する。みんな、改めてよろしく」
御影の健診を無事に終え、チームに割り当てられた会議室でユウトがそう宣言すると、レイナが「やったー!」と大声を上げた。だが、すぐにはしゃいでいるのが自分だけだと気付いて彼女は縮こまってしまった。
「で? これからどうする?」
カインはユウトに問う。
ヴィジランテの主な仕事は、
地道な情報収集から始まり、真名の特定とその能力の把握。所有者と直接交渉することで平和的に事を済ませる場合もある。あるいは真紀那のような寄生型持ちならば、その保護も業務に含まれる。
やることが多岐に渡るからこそ、何を
「あぁ。実は早速冬馬から一つ
「がんばります!」
任務という言葉にやる気十分のレイナが喰いつくが、ユウトは資料を持つ手を上げて、彼女を制した。
「任務の内容を伝える前に、もう一度模擬戦をしようと思ってる」
「模擬戦……ですか?」
真紀那はユウトを見る。しかし、ユウトは首を横に振った。
「あぁ。でも今回の相手は俺じゃない。まぁ相手は後で紹介するとして、レイナとカインは御巫の里でそれぞれ成長しただろうし、真紀那もうちに入ったばかりだ。スムーズに連携できるように、お互いの今の実力を確認してほしい。それに――」
ユウトは人差し指を上に向け、こう続けた。
「君たちの中で誰が一番チームのまとめ役に相応しいのか? それも見極めたいと思ってる」
これから部隊として動く中で、必ずしもユウトが一緒にいるとは限らない。そうなった時、ユウトの代わりに的確な状況判断をしてメンバーを仕切る役割が必要になる。
つまりは、チームの『ナンバー2』を決めるということだ。
「ハッ、面白ぇじゃねぇか」
「ま、負けないもん!」
「……ご命令なら」
三人はぞれぞれ向かい合う。各々この模擬戦に挑む動機は違うのだろうが、それでも交差する視線はすでに激しい火花を散らしていた。
「おーい。連携だぞ? れ・ん・け・い」
ユウトは若干不安を覚えつつも、成り行きを見守ることにした。
・2・
「模擬戦の相手って誰なんだろう?」
実戦訓練用のアリーナへ向かう前に、レイナとカインは各々調整のために預けていた
「さぁな。まぁ、誰だろうと関係ねぇよ」
「そうだね。隊長に私たちの成長をバッチリ見せつけよう!」
認証キーをかざし、神機開発室の扉を開けると、そこにはエクスピア総合技術顧問の
「ん? やぁ、二人とも。京都では大活躍だったそうだね」
「こんにちは博士。私の神機、ありがとうございました!」
レイナは夜白にお辞儀をして、感謝の言葉を述べる。
「ハハッ。役に立ったみたいだね」
「はいッ!」
満面の笑みで答えるレイナ。
「こんなところで何してる?」
「一応ここも僕の管轄なんだよ。今君たちの神機の最終調整を行っていたところさ。いやはや、彼女の技術は中々興味深い」
「何でもいいが今から入用なんだ。さっさと終わらせてくれ」
カインはそう言うと、近くの椅子に腰を下ろした。すると、反対側の座席から声が聞こえてきた。
「黙って待ってなさい。急いでもいい事なんて何もないわよ」
聞き覚えのあるその声に、カインは思わず振り返る。
「……ッ、お前!?」
「秤さん!?」
彼の背後に座っていたのは、御巫の里で出会った凄腕の錬金鍛冶師――
***
「自己紹介は不要よね? これから
九条秤は素っ気なく挨拶を済ませると、何事もなかったかのように読んでいた雑誌に視線を戻した。
「いやいやいや! ちょっと待ってください!? 何で秤さんがロンドンにいるんですか!?」
あまりに唐突すぎて突っ込まずにはいられなかったレイナ。しかし彼女の疑問に、秤は当たり前のようにこう返す。
「刹那様がいるところ。それが私の居場所よ」
「あー……」
納得。
そういえば彼女は、異常なまでに『御巫刹那LOVE』な人間だったことをレイナは思い出す。彼女の隠し部屋、まさに狂気と呼べるあの光景が脳裏にフラッシュバックした。
「僕が雇ったんだ。アポ無しでいきなり押しかけて来た時はさすがに驚いたけど、彼女の錬金術には非常に興味をそそられてね」
夜白は悪戯っぽい笑顔で事の経緯を説明した。
「え、でも織江さんは? 置いてきちゃったんですよね?」
「あなたね……今の時代、この地球上で距離なんて関係ないでしょ? スマホ一台あればどこにいても連絡くらい取れるわよ。それに……今私が織江の傍にいたら、あの子きっと変な気を使っちゃうから」
「あはは……なるほど」
「待て、確か九条の職人は世界中にいるんだよな?」
ふと、カインは里で聞いた話を思い出す。
各国に一人ずつ、九条家の人間はその土地に住み、独自の工房を建てるというお家の決まりがある。彼らはいずれも名匠という呼び名に相応しい者たちだ。
「ならイギリスにもいたんだろ? いいのかよ?」
弟子を取るならまだしも、同じく名匠の称号を持つ秤がこの国に住むとなると、話は違ってくる。それは縄張りを侵す事と同義のはずだ。なんせこの土地と共に積み重ねてきた独自の研究や技術が横取りされるのだから。
「あぁ……帰ってもらったわ」
「……へ?」
レイナは思わず首を傾げる。
「追い出……話し合いの末、丁重にお帰り頂いたのよ」
笑顔で恐ろしいことを口走る秤。
気付けばレイナとカインは、お互いに顔を合わせていた。
――これ以上この話を言及するのは止めよう。
必死に訴えかけてくるレイナのその眼差しに、カインは思わず溜息を吐いた。
・3・
そのまましばらく開発室で待機していると、作業完了を知らせるアラームと共に、作業場に繋がっているベルトコンベアが起動する。
程なくしてレイナたちの目の前に、三つの腕輪が流れてきた。
「……腕輪?」
「それ、あんたたちの
秤の言葉を理解できずに、目を白黒させるレイナ。
当の秤はというと、カインの前に立ち、呆れたようにその顔を見上げていた。
「聞けばあんた、この前日本に来た時は武器持ったままだったらしいじゃない。どうやって入国審査クリアするつもりだったのよ? バカなの?」
「……ッ、るせーな」
カインは秤の横を通って、左手で腕輪の一つを手に取った。
「あんたたちの魔力パターンを認証キーとして記憶させてるわ。触れてる状態で意識を集中してみなさい」
彼女の言う通り、カインは腕輪に意識を集中させる。
すると腕輪に格子状の光が走り、一瞬で銃型の神機――シャムロックに姿を変えた。
「おぉ……私もやってみよ」
鮮やかな変形に目を輝かせたレイナも腕輪を手渡されると、カインに倣って自分の神機を展開した。
「どうだい? 秤君の錬金術の思想を
「待機状態の時は身に付けやすい腕輪の形に。戦闘時はリビルドして元の武器形態へと変わるわ。もちろんそれだけじゃないわよ。起動する度に原子レベルで再構築しているから、神機は常に新品の状態を維持できるわ」
説明に熱が入る二人は、気付けば互いに笑みを浮かべながら実験の成功を祝い、握手を交わしていた。
「ありがとうございます! 早速使ってみますね!」
レイナはランス型神機――レギンレイブを腕輪状態に戻し、二人に感謝する。
「じゃあカイン君、そろそろ行こっか」
「あぁ」
「あ、ちょっと待ちなさい」
開発室を去ろうとしていた二人の背中を、秤が呼び止めた。
彼女は先程まで自分が座っていた椅子。その足元に置かれた横長のバックを持ち上げると、カインたちの前までやって来た。
「私も行く。真紀那に
「マキにゃんに? まぁそういうことなら一緒に行きましょうか」
「助かるわ」
そうして三人は、ユウト達の待つアリーナへ向かい始めた。
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