第32話 神速の戦乙女 -Reginleif-
・1・
「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
堕天ラクシャーサの全身から、自身を構成する土や水でできた
「無駄です!」
パンドラに内包されている飛行ユニット――デューカリオン。
それを操るアリサの左目にホログラムスコープが現れ、彼女は迫りくる魔手全てに照準を定めていく。
次の瞬間、デューカリオンに搭載された全ての砲門が光を放った。
「GAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
迸る閃光は魔手だけでなく、貫通して堕天ラクシャーサの全身すらもハチの巣にした。重力に負け、ボトボトと本体から千切れ落ちた大地の欠片が、眼下の竹林を押し潰していく。
だが、それでも彼女を止められない。
穿たれた穴はすぐに塞がり、欠けたパーツは大地を吸い上げ瞬く間に補完されていく。
「……なるほど。これは厄介ですね」
アリサの力をもってしても、堕天ラクシャーサを一撃で削り切ることは不可能だった。ほんのわずかでも体が残れば、今のように一瞬で再生してしまう。
まるで大自然そのものと戦っている気分になる。
絶えず流動的に波打つ体表面はまるで土色の大海のようで、その場に存在するだけで破壊を撒き散らす様は嵐そのものだ。
とうに人間が太刀打ちできる域を超えていた。
「どうすれば織江さんを……」
「レイナ。これを」
「え、わわ……ッ!?」
呼び止められたレイナは、アリサが放った物を両手で受け取った。
「これって……」
「あなた専用の
ランス型神機——レギンレイヴ。
レイナの魔具、スレイプニールの戦闘データを元に開発された、彼女の新しい力。スレイプニールの速度に、一点突破力を付与することをコンセプトとした大槍だ。
「でも、これ……」
「相手を完全に倒す必要はありません。あれは神そのものではない。どんなに強大でも、それは依代がいて初めて成立する。なら、狙うべきは核です」
「……ッ、そっか!」
一度で「100」を削れないのなら、その基盤となっている最初の「1」を奪えばいい。
あの巨体の何処かに、必ず堕天ラクシャーサが現界するために必要な依代となっている神無月織江がいる。
核である彼女を失えば、その存在は瓦解するはずだ。
「もう少し耐えて。私が彼女の位置を特定します。レイナは
「わかり――」
『ちょーっと待ったぁぁぁ!!』
急に話に割り込んできたのは、式神通信から聞こえてくる九条秤の声だった。
「秤さん!?」
「ッ……紙切れ?」
『そういうことなら私に任せなさい。日々、刹那様の尊いお姿を記録……ではなく、見守ってる私の目なら一瞬よ』
「アハハ……(記録までしてるんだ……)」
苦笑いするレイナ。だが、この申し出はありがたかった。
秤の魔眼は遠視。だが厳密には違う。それはあくまで一側面でしかないらしい。その本質は対象の構造・構成要素を瞬時に読み取る力。彼女がカインの剣を修復するために、工房で見せたものだ。
それに離れていても、秤はこうしてレイナたちを正確に認識できている。例えこの場にいなくても、その力が弱まることはないだろう。
『見つけた! 胸の中央。心臓の位置!』
「レイナ!!」
アリサは魔装を解除し、真下の大木の枝に着地すると、メモリー形態となったパンドラをレイナに向かって投げた。
「はいッ!!」
レイナはそれを掴み取ると、いつもカインがやっているように、
『Pandora ... Loading』
「行きます!!」
レイナはスレイプニールの脚翼を全開にして、大きく旋回。
そして――
「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
堕神の攻撃を全て跳ね除け、
『Rising charge!! Pandora ... Spiral Sting!!』
ロストメモリーの力を許容範囲ギリギリまで引き出し、
「はああああああああああああああああああああああああッ!!」
途方もない絶望に溺れる、たった一人の
「GaaaaAAAaAaaaaaaaaaAaaaaAaaaaaaaaaa!!」
――その核を貫いた。
・2・
「……り……」
声が聞こえた。
(……)
だがすぐに、まるで沼に沈むような……ある意味心地よいその感覚に引き込まれていった。
「……り……りえ……!」
(……うるさい)
声はどんどん大きくなる。近くに寄ってくる。
その煩わしさに手を掴まれ、彼女は強引に泥沼から引き上げられていく。
「織江!!」
「……ッ!!」
自分の名を呼ぶその声に、ついに少女は目を覚ました。
視界一杯に広がる九条秤の顔。織江はキョトンとした顔で彼女を見ていた。
「はか……り……ちゃん……?」
「……そうよ! ……この馬鹿……ッ!! 心配ばっかかけて……」
親友が泣いている。
それを見た織江も、自然と涙が溢れて止まらなくなった。
「ううっ……うっ……私……ッ」
言葉が出てこない。
言うべきことはたくさんある。けど何から口にすればいいか、迷う。
違う……怖いのだ。
糾弾されても仕方がない。
二度と言葉を交わせなくなっても仕方がない。
それどころか、この里にもう自分の居場所はないかもしれない。
それだけの事をしてしまった。理由はどうあれ、皆を裏切った事実は消えない。
そんな彼女の額に、秤は自分の額を押し当てた。
「こういう時は、ただ『ありがと』って言えばいいのよ」
優しいその声に、織江ははっと息を呑む。そして、
「……私を……子供たちを助けてくれて……ありがとう……」
そう言って、織江は秤の胸に顔を埋めた。
秤は何も言わず、ただ泣きじゃくる子供を宥めるように、そっと織江の髪を撫でる。
「グスッ……よかった……」
レイナはそんな彼女たちを見て、ポロっと一筋の嬉し涙を流した。
・3・
レイナたちが織江を宥めている最中、遠見アリサは付近を捜索していた。
彼女はパンドラを魔力感知レーダーに変形させ、あるものを探している。
「……ッ、反応」
程なくして、微弱な反応を検知したポイントに到着するアリサ。
彼女はパンドラを元のキューブ状に戻し、辺りを見渡した。
しばらくして、
「あった……」
アリサは茂みに手を入れ、壊れた腕輪のようなものを拾い上げた。
(これが彼女の魔具を暴走させていた元凶……)
見たところ、レイナの一撃を受け、腕輪はその大部分が破損していた。もう機能はしていないだろう。しかし――
「……似てる」
ネビロスリングに。
3年前、海上都市で
アリサはその技術に詳しいわけではないが、それでも何となく雰囲気が似ているくらいのことは分かる。
「アリサさーん!」
遠方でレイナがアリサを呼ぶ声が聞こえてきた。
どうやら向こうも一段落ついたようだ。
「今行きます!」
アリサはそう答えると、破壊された
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます