023 病院

エリナさんには途中の駅のところで止めてもらった。これから、蒔絵のお見舞いに行くのだ。おそらく、おじさんがいるだろうがあの人は、当時ほぼ一日中蒔絵のそばにいたからか、いつでもお見舞いにきていいと言われている。といっても、本来は6時には面会時間終了になるため、あまり時間がない。(まあ、これも理由の一つにして、学校のクラブには入っていないのだが)

「はあ」

また、蒔絵がやせ細って行く姿を見ると思うと、ため息が出てしまう。とりあえず、受付を済ませよ。

一様紹介しておくと、蒔絵が入院しているこの病院は「亨壮とおさか総合病院」という、都内でもゆびおりの病院で、診察の時間中は医師が交替しないとお昼が食べにいけないほどだ。しかも、日によっては7時半とか、そこまで残ってないと患者を捌き切れないなんてこともあるらしい。そんなことを言ってるうちに、目的の窓口についた。

「こんにちはー。面会したいのですが」

「あ、あら、ごめんなさいね。処理が溜まっちゃって、……よく見たら、直次君じゃない。少し見ない間に顔が大人びてきたわね」

ここの事務員の人は、当時から変わらず、お陰で顔を覚えれたのでほぼ顔パスも同然だ。ちなみに、ここの職員の方々には顔を覚えられている人が多く、(ていうか、今年入ってきた人以外全員知ってるんじゃないかな?)ほとんどの場所で顔パスでオッケーとなっている。

「お久しぶりです。えーっと、面会なんですけどー」

あらそうだったはね、と言いながらおきまりの説明が始まる。それでも、本当に重要なところとか、変わったところだけ説明して、

「あとは、いつもどうりよ」

と言って、あっけなく終わった。

エレベーターに乗って、蒔絵の病室まで行く。「今日の調子はどうかな」と思いつつ、ドアを開ける。やっぱり、蒔絵は意識が戻ってないようだ。

整理の行き届いた私物の少ない部屋で、無造作に置かれた椅子に座る。痩せてはいるが、なぜか容姿は昔と変わらず綺麗だった。もしかしたら、この窓から差し込んで来るこの夕日のせいかもしれない。蒔絵の近くまで来てまできてそっと手を握る。あったかいけど、力を入れたら壊れてしまいそうなこの手。その手を握りながら、最近起こったことを話す。口止めされているので、仕事については何も言わない。話すことがなくなると、なぜか目の当たりが熱くなってきた。こんなに感傷的になるのはおそらく、蒔絵と二人きりのときだけだろう。


とうに面会時間は過ぎているだろうが、事務員さんや、看護師さんは事情を知っているためかいつになっても来なかった。時計を見るともう7時30分になっていた。外はだいぶ暗くなっていた。帰ろうかと思ったけど、なぜか帰れなかった。どうすれば、この感覚から抜け出せるのかと考える自分と、この感覚から一生抜けださずにいたい自分がいた。

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