5.確かな想い-Ⅰ



「ふぁぁぁぁ~」


「キュァ~~」


 気の抜ける声をあげながら初めての野宿での朝を迎える。

 目覚めは思っていたほど悪くはなく、小動物も肩の上で伸びをしながらあくびをしている。


「というか、いつまでも小動物って呼び方じゃあなぁ……」


「キュ?」


 自分が勝手に頭のなかで呼んでいただけではあるのだが、やはり名前が無いと呼びにくいというのはある。


「おまえ、何か名前とかあるのか?」


「キュイ」


 何となく否定を示しているような気がした。

 というより――


「やっぱり言葉を理解してるよな……」


「キュ?」


「いや、おまえは賢いやつだな~ってな」


「キュキュキュウッ♪」


 どや顔が可愛かったので三分ほど撫で回して愛でた。


「…………ふぅ」


「…………キュウ」


 お互いに満足したところで、名前をつけてやることにしよう。

 何が良いだろうか。


「何か希望とかあるか?」


「キュウッ!」


「ふむ」


「キュウキュウッ!」


「なるほどなるほど」


「キュキュウキュウキュウッ!」


「よし、あいわかった! おまえの名前は今日から『キュウ』だ!」


 我ながら安直である。

 正直何言ってるのか全然わからなかった。

 ただ――


「キュウッ♪」


 お気に召したようだ。

 今もメチャクチャに顔を舐めてきている。


「はははっ! わかったわかった落ち着いてキュウ!」


「キュキュッ!」


 まだ舐め足りない様子だが、一先ず落ち着いてもらった。


「無事に帰れたら、キュウを飼うためにペットOKの場所に引っ越さないとな」


 そんなことを呟いたのは、まだ自分の元々いた場所へと帰れると信じていたから――いや、信じたかったからだろう。


 薄々勘づいていた。


 突然景色が変わったこと。異形の化け物。淡く光る動物。


 この三つだけでも十分過ぎるほどに現実離れしている。


 それでも、「自分の知らない世界があっただけかもしれない」とそう考える余地はまだあったから、そうやって自分に言い聞かせているのだ。


 ただ、そんなことを考えていると、思ってしまうのだ。


――「帰る必要は、あるのだろうか」と。


 あの場所で残した未練があるとすれば、叔父に返すべき恩が残っていることくらいだろうか。


 その叔父との関係も最近は希薄であった。

 年に一回会う程度であろうか。


 友人もいるが、そこまで深い関係を持ったわけではない。

 それならば――


(食料の問題さえ解決すれば、ここでキュウと一緒に過ごすのも悪くないのかも……)


 そこまで考えてあの化け物の事を思い出した。


(ダメだ……やっぱり安全な場所を探さないと……)


 そんな事を考えながら、ふと空を見上げる。

 そこで、決定的な物を見つけてしまった。

 今日は空気も澄んでいて深く青い空には太陽が輝いている。

 それは良いのだ。

 それよりも――


「月が……三つある……」


 今までにも、昼間に月を見た事はあった。

 しかし三つもあるのはどう考えてもおかしい。


「全く違う場所だとは思ってたけど……そもそも世界すら違ったか……」


 そういう類いのファンタジーな小説は読んだこともあるが、自分が体験するとなかなか感慨深いものがある。

 ここまで来るとなんだかもう吹っ切れていた。


「よしキュウ! 取り敢えず進むか! 何か食べられる物も探さないとだしな」


「キュウッ!」


 そう返事をするように鳴くと、キュウは空中を走り出した。


「いや、確かに吹っ切れたとは言ったけれども……」


「キュ?」


「いや、いいよ。じゃあ行こうかキュウ」


「キュウッ♪」


 こうして、昨日とは違う一人と一匹の冒険が始まった。


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