第8話アイテム屋
「ここは…」
俺たちが着いた場所はアイテム屋とは言い難いほどのデカさを持った建物だった。伯爵以上の立場の人間が使いそうな大きな屋敷には鷲のエンブレムがその屋敷の真ん中より上側の壁に掛けるように鎮座していた。
本当にここがアイテム屋だろうか…?。
「この娘! 俺様たちを騙したな!」
いきなり食ってかかろうとするフェイプルをまぁまぁと抑える。セドナはそんなフェイプルの態度に若干眉をひそめながらも答えてくれた。
「あんた達知らないのか…? 武器、防具を売ったりボロボロになったそれらを修繕もする鍛冶屋、傷ついた体、
アイリス戦記では冒険者ギルドはクエストを依頼する場でその他には冒険者同士がギルドを組む場としての役割しかなかった。鍛冶屋などはなく武器屋と防具屋に分けられ町中で店を開いていた。それにそもそも武器防具の耐久力という概念はなかった。治療施設は自分の部屋または宿で寝れば回復するのでシステム的に必要なかった。
「もちろん知っているに決まっていろうが!」
フェイプルは負け惜しみみたいな言葉を吐く。嘘つくなよ…。思いっきり疑ってたじゃないか! まぁここは正直に言ったほうがいい気がする。
「実は…俺この世界出身じゃないんだ。だからあまりこの世界のことに疎くて」
「……ワケありって感じだな。せっかく冒険者ギルドの前に来てるんだし飯食いながらゆっくりと話そうぜ」
「そうだな。うん。じゃあ行くか」
俺たちは冒険者ギルドの中に入っていった。
中は様々な服装の冒険者がたくさんいてごった返していた。一階ホールは飲食兼休憩などのためか椅子と机がずらりと並べられている。奥には行列が出来ていて、美味しそうな匂いを運ぶ料理を今か今かと待ち焦がれている冒険者達の姿を俺たちに見せる。ランチ時だからこんなにも賑わっているのだろうか。
俺たちはその光景を尻目にアイテムを換金するためアイテム屋へと目指す。
道中、いろいろな施設があったので歩くスピードをなるべく落とさずして俺は流し見る。
最初に目に入ったのは……鍛冶屋みたいだな。背の小さい人間、ドワーフだろう、3人のドワーフが剣になる前のマグマのような赤々とした直方体のものをまず一人が抑え、そして残り二人が交互に大鎚で叩いて、火花を散らしながらそれを引き伸ばしていく。騒がしいであろう音は全く聞こえてこない。疑問を思うと周りに薄白のバリアが覆われておりたぶんそれが防音対策として役割を果たしているのだろう。
こちらは……科学実験室みたいだな。火にかけた大鍋の中に緑色の液体が入っており女性の人がその自分の体より何倍も大きいそれを全身を使うかにして中身をかき混ぜていく。ポーションとかの回復アイテムだろうか…。匂いはクンクン…。ハーブにみたいな爽やかな感じだな。
そんな社会科見学に来た子供のように辺りをせわしなく見回していると前を進んでいたセドナが止まる。着いたようだ。
「ここがアイテム屋だ」
棚にはわけのわからない液体が入った小瓶が陳列されており、アイテムを調合したりするための元の素材が四角い木箱にそれぞれ入っていて、カウンターの後ろの壁には多種多彩で大きさが異なる真珠が商品として飾られている。他には魔法を所得するための魔導書。魔法が使用できなくても唱えられるよう魔方陣が描かれた使用回数制限の羊皮紙などがあった。俺はひとつひとつ隅々まで舐め回すようにして見とれていた。
ものすごく興味深い。前の世界でいうとあまり人が寄せつけない怪しい店の商品って感じだ。そんな子供のような言動にセドナは笑みがこぼれつつも暖かく見守る。
「本当に晴之はこの世界の人間じゃないんだな。今の晴之…。初めて人間たちが住む街に訪れた時の俺みたいだぜ」
目を細めてセドナはホームシックに浸る。
「ああそうだ。まだまだ観光気分が抜けてないな。頑張ってもらわなければ…。」
フェイプルはセドナと違い
あたりを調べていると突然前方から声がした。
「なにかお探しでも…」
俺の目の前にはサンタクロースみたいに白い顎髭をもわんもわんさせた80ぐらいの爺さんが立っていた。
「いや、特に何も…。そうだ!この素材を売りたいのですが…」
俺は素材が入っているパジャマで出来たちょっとした物入れを開けカウンターの上に置いた。お爺さんはパジャマ製物入れを不思議そうな顔で見た。
「酔狂なやつよの、このご時世にマジックポーチを使わないなんて」
マジックポーチ…? なんだろうか…? 思わず顔に出る。
「マジックポーチを知らないのか!?」
お爺さんはこの世が終わってしまうことを知ったような信じられない表情で俺を見る。俺はこれ以上ややこしくならないよう真実を告げる。
「さっきこの世界に転移してきたばかりでこの世界のことについて疎くて」
「転移って…別の世界から来たのか…誠か?」
お爺さんの目が極限にまで細められる。疑っているのだと感じた。俺はその疑いをはねっ返すように堂々と答える。
「はい、そうです。ここではない別世界から来ました」
俺の回答に嘘が垣間見えなかったのかお爺さんの顔が驚愕にゆがむ。
「転移魔法の存在は未だ確証が掴めておらぬ。よもや異世界転移なんて到底信じられぬ話だ」
「正確には僕の力ではなくこの聖剣スターライトディオの力によってこの世界に転移しました」
「誠か?」
「はい」
「本当に本当に誠か?」
しつこいくらい俺に聞いてくる。俺もこれまで通りはっきりと答える。
「本当に本当に本当です」
「そうか…。ならその聖剣とやらを見せてくれはないか?」
「ああ。どうぞ」
俺は聖剣を白の顎髭が特徴的なお爺さんに渡す。お爺さんは鞘から剣を抜き調べ始めた。いろいろの角度から眺め、刀身に走っている溝の部分を沿うように手でなぞる。お爺さんは不思議そうに頭を悩ませていた。
「刃が欠けるかもしれないがこの聖剣を傷つけてもよいか…?」
俺一人では決めることができなくてフェイプルの顔を伺う。フェイプルは別にいいぞと興味なさそうな表情だった。まるで答えがわかっているかのようだった…。
「大丈夫です」
お爺さんはカウンターの裏からなにやらツールボックスを取り出し中を開け鞘が入ったナイフを手に持ち、そして鞘からナイフを抜いた。そのナイフはほの白いベールを見に纏っていて何らかな魔法が付与されているのだろうと思った。そのナイフでお爺さんは聖剣を思いっきり叩きつけるように切る!
思わず動揺した。優しくやるのかと思ったがまさかここまで強くやるなんて……。
「カーン!」
周囲に轟く金切り音と共に火花が飛ぶ。俺は驚愕していた。てっきり聖剣のほうが傷つくのかと思ったが傷一つつかず逆にその薄く白光するナイフの刃が欠けていた。お爺さんは難しそうな顔をしていた。
次にお爺さんはツールボックスから片眼鏡を取り出し身につける。その片眼鏡は特殊で何が特殊かというと赤、青、緑、茶色、黒、白の6色のレンズが一直線に前方に連なっていて片眼鏡と呼ぶには異様であった。お爺さんは時折色のついた上げ下げするレンズを動かしそれぞれの色で聖剣を見る。魔法の属性にそれぞれ対応しているのだろうか…。数分たちその行為が終わると
「うーむ…わからん」
と、お爺さんは言った。
「なんにもわからなかったのですか?」
「何らかの魔法がかかっているのが分かるが魔法の構成スペルがこの世界の魔法の規格と異なりわからない。他はこの聖剣の材質はこの世界にはない何らかの金属などで出来ていると思われる。それに気になったのじゃがその刀身に走っている溝だが、本来刀身に刻まれている溝は重さを軽減するものであってこの聖剣の刀身の溝はそれとは違う役割があるのではないかと思うのじゃ。一本の糸というより何本の糸が絡み合ってできた一本、この聖剣自体が有機体みたいな関係を内部に持っているのだと私は思うのじゃ。あくまで憶測ではあるが…」
「このことからこの聖剣はこの世界の産物ではないと思われるのじゃ。魔法技術が高度でなければこんなものは作れない。もしかすると転移魔法も使用者がいればこの聖剣によって行使できるかもな」
お爺さんは興味深そうな顔をしていて聖剣を眺めている。なるほどつまりこの聖剣は魔法技術が大いに進んだ違う異世界の生まれということか…。俺は思わず聖剣を見る。今一度普通とは異なる武器だと俺は感じた。
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