第9話昼食

 「いや~面白いものが見えたわ」

 お爺さんはすっかり満足そうにして聖剣を鞘にしまう。

 「そうですか。俺もこの剣について知れてよかったです」

 俺はお爺さんの前に手をかざして聖剣を受け取ろうとしたのだが…一向に聖剣が返ってこない。不思議に思いお爺さんの方を見ると鞘を見て固まっている。何やらブツブツ言っている。

 「あの…」

 「もしやと思うがこの剣の鞘を協会の司教レベルの立場の人に見せるが良い。骨折り損になったら申し訳ないがの」

 お爺さんは真剣の顔つきで俺を見ていた。どこか優しい雰囲気をただよせるお爺さんをそこまでさせるものがこの鞘にあるのか…。聖剣を受け取り刀身を包んでいる鞘を改めてまじまじと見る。

 多分お爺さんが言っていることは鞘の中央に描かれているこの紋章のことだろう。たしか親衛隊の一人も同じものを身に着けていたが…。

 思考を重ねているとなにか忘れているような気がしてくる。

 あ、そうだ素材を売ることを忘れていた。素材を売って金にしなきゃ食べ物どころか寝る場所にも困る。今はそういう世界なのだ。

 「はい。分かりました。それとあの…忘れていたのですけど素材を売りたいんですが…」

 俺は包みの封を解いてお爺さんに見せる。

 「うむ。ジャイアントモーアの素材か。本来なら銅貨7枚の値段だが面白いことを見聞きしたしついさっきこの世界に来たのなら歓迎の意を込めて金貨一枚と銀貨一枚にサービスするのじゃ」

 俺の心は遠慮したいのだがそうは言ってられない状態だしせっかくの厚意を無駄にしたくない。

 「ありがとうございます!」

 「今更ながらだが…私たちの世界とビギニールへようこそ」

 お爺さんは俺に腕を差し出す。俺はその求めに従って握手をした。

 

 アイテムを売却した俺はパジャマの上着やシャツを中にしっかり着て、おじさんの恩による決して低くないお金を握りしめながら一階ホールに向かう。先ほどまでの喧騒は少しおさまっていた。昼時を過ぎたのだろう。椅子に座ってぼーとしたり、話に花を咲かせていたり、遅めの食事を取っている冒険者などが目に映る。

 俺たちは先般行列で見えなかった学食のおばちゃん的ポジションの人がいるであろう販売口に向かった。ちょっとばっかり列ができていたので並ぶ。カウンターの上には料理のメニューが書かれているであろう長方形の短い木の板群が掲示されていた。奇妙な文字、正に異世界語でまったくと言ってもいいほどわからなかった。

 「あそこって何が書かれているのだ…? セドナ」

 「えーとそうだな…」

 「ウバミンクのムニエル、ピエレーアイベックスのポワレ、ドドーのコンフィなどだな…」

 「うーん…どれも美味しそうだな」

まったくわからんが名前だけで美味しそうだ。

 「そうだろう! どれも美味しそうだろ! でも高いんだぜ最低でも金貨一枚するんだぜ。一回食べてみたいな……」

 「願望を並べてどうする」

 フェイプルの冷静のツッコミが入る。

 「それもそうだぜ。虚しくなるばかりだぜ。最低だといつも食べている、ジャイアントモーアの唐揚げとかメガネウの照り焼きなどだぜ!」

 特に気になったジャイアントモーアの唐揚げを想像してみる。ジャイアントモーアの唐揚げ……。現実の世界と同じ唐揚げの味だろうか…。それとももっととけるようにやわらかったりそれとも、ものすっごく固く歯ごたえがあるだろうか…。どちらにしても楽しみだ。楽しみで涎が出そうだ。危ない。危ない。

 「セドナは何にするんだ?」

 「俺か、そうだな…。ジャイアントモーアの唐揚げに飽きてきたしメガネウの照り焼きにするぜ」

 「そっちも美味しそうだな」

 「だろ! 思わずよだれが…」

 「フェイプルはご飯食べなくてもいいのか?」

 「俺様は飯を食べなくても生きられる体だから必要ない。食べても味覚がないから。それよりも魔素補給水がほしい」

 へー妖精って人間とは体質が根本的に違うんだな…。魔素を糧としているから魔法生物って感じだな。

 「どれくらいの頻度で欲しいのだ?」

 「あまり魔素を使用しないで3日に最低クラスの魔素補給水一本くらいだ」

 ハイブリットだな。一日3本とかだったら手持ちの金で足りるかどうかだったが…。

 アイリス戦記でも魔素補給水とかの魔素マナを回復するアイテムはポーションより高価で最低のものだと普通のポーション3つ分、ハイポーションだと一つ分に相当する。まあアイリス戦記とこの異世界は違うから魔素補給水が安かったらいいが…。

 

 俺たちはその後も食事の話に花を咲かせる。話をしているうちに俺たちの中で一番前に並んでいるセドナに番が回った。

 「何にする…?」

 中高年のおばさんが接客のようだ。言葉の端々から優しさが伝わってくる。

 「おばちゃんメガネウの照り焼き一つに普通のパン一つだぜ」

 「銀貨一枚に銅貨二枚ね。セドナちゃん肉ばっかり食べないで野菜も食べるんだよ!」

 「わかってるぜ」


 俺たちはその後も食事の話に花を咲かせる。話をしているうちに俺たちの中で一番前に並んでいるセドナに番が回った。

 「何にする…?」

 中高年のおばさんが接客のようだ。言葉の端々から優しさが伝わってくる。

 「おばちゃんメガネウの照り焼き一つに普通のパン一つだぜ」

 「銀貨一枚に銅貨二枚ね。セドナちゃん肉ばっかり食べないで野菜も食べるんだよ!」

 「わかってるぜ」

 アイリスはポーチから財布をというよりお金が全部まとまてはいった皮袋を取り出しそこから銀貨一枚、銅貨二枚を出して渡す。

 「銀貨一枚に銅貨二枚ね。たしかに受け取ったよ! はい整理券」

 アイリスは何やら文字が書かれている券を受け取り隣の列に並ぶ。俺は気さくなおばさんに何を言われるか緊張したまま対面する。

 「何にする…?」

 ジャイアントモーアの唐揚げだけじゃ寂しい気もするが何時お金が尽きるかわからないからここは節約しておこう。

 「えーーーと、ジャイアントモーアの唐揚げを一つください」

 「銀貨一枚ね」

 俺はポケットからお金を全部手に取り出し銀貨の方をおばあちゃんに渡す」

 「銀貨一枚、確かに受け取ったよ。そういやあんたここいらでは見かけない顔だね」

 おばちゃんに体をジロジロと見られる。でも圧迫感はなく嫌な感じがしない。

「アマチュア冒険者さんだね! 頑張ってね! はい整理券。この券を持って隣の列に並ぶといいよ。その後お姉さんに渡せば大丈夫だよ!!」

 おばさんの母性あふれる優しいスマイルに迎えられ思わず顔が緩む。そのまま俺はセドナの後ろに並んだ。

 「おばちゃんいい人だ…」

 「だろッ! 本当のお母さんみたいだぜ…。隔たりなく接してくる優しい人がおばちゃんが初めてだったぜ。もうその時は物凄く嬉しかったぜ!」

 そんなおばちゃんの偉大さを語っているとセドナの番が回ってきた。セドナはその整理券をカウンター奥にいるお姉さんに渡す。さきほどのおばちゃんの娘だろうかあの優しい雰囲気がどこか面影がある。肩までの髪を左右に分け少しおでこを出して元気系でいかにも若大将って感じだ。

 「お~いセドナ! お母さんから言われているけど野菜食べなきゃいけないぞ! ふんだんにサービスしておくね。好き嫌いなく残さず食べるんだよ!」

 「は~~い」

 セドナは不満そうに答え、列に並んでいる人達の邪魔にならないよう席の方へ向かった。あのお姉さんはおばちゃんと同じくらいお節介な方だ。血は争えないなと感じた。あっ! そんな事を考えている状況ではなかった。次はおれの番だ。

 「えーーとお願いします…」

 俺は手にした整理券をお姉さんに渡す。

 「そんなに畏まらなくてもいいよ! えーと35番、35番っと。はいどうぞ。見習い冒険者くんだっけ」

 「はい。そうです」

 「当店からのサービス! パンだよ! 唐揚げだけじゃ味気ないでしょ。このパンに唐揚げを挟み、この甘ダレを中に入れると美味しいから!」

 アイテム屋のお爺さんといいここの食堂の親子といい、親切な人に巡り会えて嬉しく感じる。

 「はい! ありがとうございます」

 「最初のうちは色々と冒険者は大変だろうけどいつでも来な! アイリス庵は歓迎するよ!」

 お姉さんの満面の笑みに迎えられ俺はセドナがいる席に料理と共に向かう。必然と足取りが軽かった。温かい気持ちからか、料理の美味しそうな匂いからか。いや、どっちもだろうと俺は思った。

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