第6話マルギリット=セドナ
「おい。なんだったんだ今のは…」
フェイプルは唖然とした声色で俺に尋ねる。
「おれにもわからん…」
いつの間に衛兵達が現れたと思うとすぐさまガラの悪い連中を連れていなくなっていた…。詫びとか感謝の一つもなかった。それにさっきまで俺たちを囲んでいた人垣もいつの間にか消えていた。ちょっと冷たすぎるんじゃないのかこの世界の人達は…。
そんなことを思案していたら後ろから強烈な視線を感じる。
俺はその視線が気になり後ろを振り向いた。そこには黒の甲冑姿のさきほどの竜人の娘がいた。どうやら俺に対してではなくフェイプルに対してのようだ。
「妖精が何でここにいるんだぜ…?」
「妖精がこんなところにいるのが珍しいのか?」
「ああ珍しいぜ。人里から離れた深い森で暮らしているはずなんだぜ。だけども…」
俺は思わずフェイプルのほうを見る。いつも以上にフェイプルはふんぞり返っていた。
「ふっふ~ん~。このフェイプル様は格が違う。ほかのどんな妖精より高位に位置し、謂わば妖精の女王だ。だから人がたくさんいるところでも普通に存在できる。まあ…妖精の宿命で人間には見ることはできないけどな」
俺はフェイプルの話を聞いて違和感が生まれた。その違和感を解消させるべく尋ねる。
「じゃあ俺は何でフェイプルを認識できるんだ?」
「それは……晴之が特別だからだ」
特別ねぇ………。ありえるな…! とは思いつつもどうせ聖剣や妖精、フェイプルの力のお陰だろうと推し量った。
竜人の娘は脱線しかけている話を切り替えるためか一つ咳払いする。
「あの…。コホンッ…。ところでさっきは助かったぜ…!」
俺は竜人の娘の謝辞に得意げになったり喜ばしくなったりするところか逆に陰鬱な気分になる。
「いや、全然だめだったよ…。あの不良に絡まれて殴られそうになった時、内心ドキッとして恐怖したし結局あの親衛隊の人が事態を収拾してくれたからで俺は全然だめだった……」
事実だ。あの時はカッとなっていたけど今思い返してみれば心臓が高鳴って本当は怖かったし結果的に自分では助けられなくて己が無力だと痛感した。
「いや、それでもありがとうな…。お前みたいな竜人のことをここまで助けてくれる奴初めて会ったぜ。感謝はしている! だがよ、えーーと、なんだ、その…お前が着ているその丈が短いおへそ丸出しの鎧は多分それ女性用だと思うぜ…。あまり男性が人前で着てこれるものではないぜ……」
え? これ女性用の鎧なの? すかさずフェイプルの方を見る。我関せず焉といった感じでそっぽを向いている。絶対お前か聖剣のせいだろと物理を伴った突っ込みをしたかったが怖いからやめておく。もしかして誰も声かけてこなかったり、目線が逸らされたのはこれが原因だったりしてな……。
「ハハッ……」
思わず乾いた笑いが出る。ホラーだな。口が引きつって唇をピクピクしてしまうほどホラーだ。絶対認めたくない。否、認めれないことだ。俺はそんな嫌な考えを振り切るようにおどけて答えて見せる。
「心配ご無用だ。これはファッションだ」
「でもこれ……」
「今、若者の中で絶賛広がっているノッリノッリのファッションだ! ブームだ!」
「……」
自分で言ってて虚しくなってきた…。こうなったら自棄だ。
「ワイルドさ満載だ。イカしているだろ! 興奮のあまり思わず踊りたくなるぜ!」
「……。いや…まあひとによっては自由だからな! 俺はそうゆうの気にしないぜ!」
まあ……いいさ。奇異な目で見ようと優しくされようと…。俺は墓までずっと断固言い続けさ……。
そんな茶番はさて置き、俺はこれまで聞けなかった名前を伺うことにした。
「それで君の名前は?」
「マルギリット=セドナだ。セドナと呼んでくれ。えっとお前は確か……」
「十六夜晴之だ。晴之でいいぞ」
「忘れてないぜ。ちょっとここらではあまり聞かない、耳馴れない名前だったので思い出すのが遅かっただけだ。それでえっと……」
俺はフェイプルを見る。フェイプルはやれやれといった感じで答える。
「俺様はフェ……」
「フェイプルだろ。覚えやすく可愛い名前だな! よろしくな!」
セドナはフェイプルに握手を求めた。ところがどっこいフェイプルは何を思ったのかセドナの差し出した手を自分の小さな掌でパチンと甲高い音を立てて払いのけた。
「気安く我の名前を呼ぶな小娘。だがまぁフェイプル様後生だから後生だからお願いします〜〜〜と地に伏し顔面を涙や鼻水でぐしゃぐしゃにし哀愁感を漂せれば特別に俺様の名前を申すことを許可してやる」
「何だとぉぉおお!!」
「殺るか~~~!!」
両者の視線のぶつかり目に稲妻が生じ、二人から逃げようと外側へ迸っている。たぶん名前を先に言われたこととこれが一番の原因だが可愛いと言われてしまったことで自分のプライドが傷つき機嫌が悪くなりそれで癇癪起こしたのだろう。セドナもセドナでフェイプルの挑発に乗って怒ってるし……。案外相性悪いのかなと思いながらも俺は仲裁に入るのだった。
それにしてもあの出来事。あの親衛隊の人が通りがったのはいいもの結局一般の人は誰も助けたりしなかったな……。
俺はその疑問を教えてもらうため当事者のセドナを待たせてフェイプルに話がセドナに漏れないよう注意してヒソヒソと訊いてみる。
「フェイプルちょっといいか?」
何かを察したのだろう。俺の声音に合わせて答える。
「なんだ」
「さっきの出来事で思ったんだがなぜあんなにも人間は竜人のことを嫌ってんだ」
ガラの悪そうな男とセドナの会話を聞いていたがいまいち全体像が把握できない。
「ああ。たぶんその原因は魔王だと思う。この異世界では昔突然魔王が現れた。具体的にはわからないが…」
「魔王……」
ロールプレイングゲームとかで登場するいかにも悪そうな最後に勇者と戦う悪の親玉のことだろう。アイリス戦記では魔王という概念がなかった。魔王を創ってしまうと、いかにも最後みたいでいつまでも遊べられるMMORPGとは相性が悪く、倒した満足感から上級者プレイヤーが次から次へと辞めていくのではないかと考えたようだったから運営は魔王っていう存在を導入しなかった。魔王と呼ぶにふさわしいくらいの力量を持ったモンスターはたくさんいるのだが…。たぶんその魔王級のモンスターのことをこの世界の人々は魔王と呼称しているのだろう…。
「で、その魔王はローランド大陸に元々住んでいた人間たちを鏖殺するつもりだったんだ。」
鏖殺…皆殺しってわけか……。胸糞悪い話だな…。でもローランド大陸……。たしか長い山脈の数々が大陸じゅうを走り、そこから豊富な鉱山資源が採れ緑豊かな場所という設定なはずだ。80以上の高レベルモンスター、高位種族の亜種、ファフニールやヒュドラなどの高ユニークモンスター達が生息するので高難易度で高レベルプレイヤー同士がパーティーを組んでやっとまともに戦うことができる世界だ。俺はレベルが51レベで上位の中級者って感じだったし、ギルドなど入っていなかったので野良パーティーではまともに戦うことができなく、一回もその地に訪れたことがなかった。上級者達の世界って感じで俺は憧れていた。
「人間たちは容赦ない魔王の魔の手から逃れようとこの大陸ローレムゼリアに渡航し逃げてきた。その時少数の人間は魔法や特技などのスキルに目覚めたそうだ」
「魔王側はしつこくおっかけてきて、人間側は大きな可能性を秘めたスキルについて何も知らず戦う物資も不足していた。絶体絶命のピンチだった。そこで人間たちはそのローレムゼリアに元々住んでいるドワーフ、エルフ、竜人、猫人の4つの種族に助けを乞うた。エルフ、ドワーフは直接的に助けたわけではなかったが、それでもエルフからは魔法の心得、自然魔法の伝授。ドワーフからは武具や防具の提供。消耗した武器、防具の修繕。やっとの思いで魔軍を追い払い、しかも魔王を討ち取ったそうだ。結果的に人間達は勝ったが竜人、猫人からの助勢がなかったからか、敵対的な感情が芽吹いたのだ。50年も昔の話だがそれでもまだ少しそれが残っているようだ」
なるほど……。そんなことがあったのか……。アイリス戦記で人間は大陸移動を迫まれたとか、魔王侵攻だとか、それで人間は竜人または猫人と仲が悪くなったとかそんな設定はなかったが…。
そうか……。それでもーーー
「正義か悪かなんて俺たちには決めれないはずさ。皆生きるために必死だったしべつにその判断はどれも間違っているわけでもないよ…。」
人間を援護すること。人間と一切関わらないことで部外者でいること。ただ、先の魔王との戦いが決して楽ではなかったはずだ。自分たち種族の未来がかかっているといっても差し支えないくらい激しい争いだったとガラの悪いリーダー格の言葉からそう思う。そんな苦しい状況だからこそ応援してもらいたかった。助けてもらいたかったはずだ。そんなささやかな願い、望みを足蹴にされたんだ。人間達は良い思いなんかしないだろう…。それでも時間が解決してくれると俺は思う…。
現にあの時敵対心を見せるのではなく複雑な、自分の心のうちで善と悪が戦っているようなどうするのがいいかわからない表情だった…。早くこんな憎しみの関係を解決して仲良くなってあのような出来事がもう二度と一切起こらないことを俺はその時望んだ。
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