第5話竜人の娘との出会い

 「ここがビギニールか!」

 数十分ほど歩いた俺達は、始まり街ビギニールの地に着いた。グラがこれでもかってぐらいに底上げしたみたいに変貌していて、想像してた街の姿、美しさ、質感はだいぶ違うがほぼ同じ風景だった。鼠色の道の地面、石材を1階、木材を2階にそれぞれ使った灰色と赤茶色のコントラストが美しい家の数々。大通りにはたくさんの店が道に沿って連なっていてそれぞれ商人が日用品や衣料品、食料品などを騒がしく売っていた。結構人通りがあり賑わっている雰囲気が感じられる。

 (すごい…)

 子供の頃にしか行ったことはなかったけど前居た世界の夏祭りの露店前の雰囲気みたいで一列に並んでいる店々はその日限りの屋台と同じ感じだ。皆口々に笑みを湛えて歩いていた。アイリス戦記時代のビギニールの光景と全く同じだ。またこれらのことからこの世界はアイリス戦記の世界だと明言している。その事実は喜ばしいことだが、この世界はアイリス戦記の世界だとまたしても謎が呼び起される。なぜMMORPGのアイリス戦記と同じ世界なんだ…? ゲームのアイリス戦記は誰かがこの世界を模倣して作ったのか? それともここはサービス終了したはずのアイリス戦記のゲーム内とでもいうのか? 

 考えても考えても埒が明かなかったのでフェイプルに聞こうとすると思索していて気づかなかったが何やら俺らの前で人がかりできていた。

 「どうしたんだ…?」

 「さぁ…わからん。とりあえず見てくる」

 「おいっ!」

 フェイプルは黒山の上を飛ぶようにして前方に進んでいく。俺も人垣を縫うようにして前に出た。そこにはとても人間とは呼べない種族のものがガラの悪そうな男3人組に絡まれていた。とんがった硬質な耳に赤目。八重歯を出しそれ以外は人間的特徴をしている。人間であって人間ではない姿をした女性。だが俺にはその姿形に見覚えが合った。もちろんアイリス戦記で。

 「おい! 竜人が俺たちの街に何のようだ!!」

 「別に何でもいいだろ!」

 「なあお前たち竜人が先の戦いで俺たち人間を助けなかったよなぁああ!! 結果的に勝ったはいいものお前たち竜人が俺たち人間と一緒に魔王軍と戦っていていれば余計な死人も出なかったはずだ!」

 リーダー格の人間の言葉に二人の下々もそうだそうだとガヤを入れてくる。俺にはことの事情は詳しく知らないが男たちが竜人の娘に言いがかりをつけているだけだと感じた。対して竜人の娘は腹が立ってきたのか声が荒くなっていく。

 「それはお前たち人間が魔王を自分たちで呼び起こした自業自得の結果だろ! お前たちが意図的にか過失かは知らないがそれでも自分たちが起こした出来事を自分たちで尻拭いするのが道理だぜ。俺たちに押し付けるなってんだ。至極迷惑だぜ」

 竜人の娘の答えにリーダーはご立腹だった。

 「何よおおおおおお! おいやってしまえ!」

 リーダーの激昂に満ちた指示に従い下っ端二人が竜人の娘と対峙する。

 最初に仕掛けたのは男たちのほうだった。人数の優位性からなる未熟と言える攻撃の数々はうまい具合に互いのすきを埋め、竜人の娘を追い詰めていく。娘は持ち前の運動神経で次々と交わしていく。 

 余裕を感じられる避けっぷりだが防戦一方で全く攻撃をしない。何をしているだ? 早くあんな奴等コテンパンに倒してしまえばいいのに……。時々竜人の娘はあたりをチラチラ見て周りを気にしている…。

 よそ見していて気づかなかったのか、前を向いた頃には、娘の目前にはもう力を伴った拳があった。

 「うっ!?」

 その並以上のパンチを顔面に受け俺の方向に倒れる。俺はすかさず竜人の体ごと受け止めた。

  この娘、今の攻撃わざと受けてないか…? 俺はそんな疑問が浮かんだが今は心のうちにしまって声を掛ける。

 「おい! 大丈夫か!」

 俺の呼びかけに竜人の娘は顔を向ける。

 「大丈夫だ…」

 娘は顔面に受けてもなお、ゆっくり立ち上がる。竜人の娘はその小さな体には想像できないほどの力強い意志があった。パンチを受けてか頬が赤くなっている。おかしい…。俺の頭は全然微塵も納得しない。なんでこんなにも俺より少し年下の若い女性に暴力が振るわれているのだ…。絶対に間違っている…!!

 俺は自分の考えに同意してくれる人を探すようにこの始終を見ている野次馬達の顔を見回す。皆一様に俺の視線から顔を背けていく。竜人に対してあからさまな敵対心を見せるものはいないがどこか複雑な面持ちを一様にしていた。おかしい。こんなことあっていいはずがない。夢に見た異世界でこんなことが……!!

 怒りで我を忘れて俺はたまらず竜人の娘を背中でかばうようにして前に出る。

 「おい! お前たち何をしてるんだ! お前たちがやったことはわかっているのか!!」

 「何だお前は」

 俺は堂々と答える。

 「十六夜晴之。さすらいの勇者だ。」

 俺の答えに男たちは鼻で笑うかのように嘲笑する。

 「お前みたいなものが勇者だって! 笑わせるな!! 本当の勇者はなぁアイリス様みたいに誰にでも優しく気高く才知に長けたお方なんだよぉおお! 度々頭にきた!!」

 「ヤソップ、セピルスやってしまえ! 勇者を騙る愚かなものに鉄槌を振り下ろすのだ…!!」

 リーダーの命に従い下っ端は一斉に俺たちに向かって襲ってくる! ヤバイと思った刹那、

 「おい!お前たち何をしている!!」

 人の波を割って誰かがこちらに向かって来る。二人とも軽武装をしていて胴と膝にあまり厚くないプレートの防具を。そして左腰のところにレイピアを下げている。白い髭を生やした中年の男の腕には腕章をつけており、純白の花が腕章の中心に描かれていた。あの白い花の紋章………。

俺は自分の聖剣が収まっている鞘を見る。やっぱりそこには白髭を生やした男性の腕章と同じ紋様がそこにあった。鞘のことはわからないがたぶんその腕章は隣の人間より偉い立場を意味するものだろうと俺は思った。

二人組の男は俺たちを威圧するような目でじろっと見た。ガラの悪い男たちのリーダーは情けない声で答える。

 「はい! これはこれは親衛隊の御一人のローゼル卿ではありませんか…。何も教えに背くような悪いことはしていません。私達が信奉しているアイリス教の教えを説いているだけで……」

 嘘つけ。竜人の子にいきなり突っかかってきて攻撃した挙げ句、俺にとびっちりが食らったぞ!! 俺は顔に出して憤る。

 そんな俺をよそにローゼル卿と呼ばれた男は竜人の娘の顔を見て事の事情がわかったような難しい顔をする。そこに増援というべきか甲冑姿の人間が3人ほど集まっていた。白い髭を持つ中年の男の隣にいた騎士がいつの間にか呼んでいたのだろう。

 「おい! こいつらを連れて行くぞ! 話は兵舎にて聞くとする。わかったか!」

 がらの悪そうな男たちは力なく縦に首を振るうと手錠をはめられ哀愁な雰囲気ををただよせて行ってしまった。俺はその光景をスッキリした気持ちで眺めている。さきほどまでの体の奥底から溢れてくる怒気はいつのまにか治まっていた。

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