第4話初戦闘
「クァァアアアア!!」
ジャイアントモーアは先ほどまでの穏やかな様子と打って変わって猛獣化し、勢いよく雄叫びを上げて俺に突進してきた。
その猛々しい気迫に負けない強い意志で俺は挑む。
俺は初めて剣を握ったのにもかかわらず、まるで手だれた戦士のように慣れた手付きで横に跳び退きかわす。
自分でもとっさの動きに動揺を隠せなかった。一回も剣を握って戦ったことはないのに体が慣れている。聖剣のおかげか?疑問ではあるが今考えている状況ではない! 俺はすぐさま戦闘状態に切り替える。
「ああぁぁあああ!!」
剣を高々とあげジャイアントモーアの側面に向かって、垂直に体ごと切り降ろす!
「グァァァァアアアア!!」
ジャイアントモーアの体には縦に深い刀傷ができ、切られた部分からさっきまで体内を巡っていたであろう血を噴き出していた。思わず口を手で抑えるほど生々しく痛々しい光景だが、ジャイアントモーアは残っていた気力で地面を踏ん張り倒れそうになる自分の図体を支える。そのまま間髪入れず俺の方へ自分の巨体ごと放つ。
「何ッ!?」
必殺とはいかないがそれでも動けなくなるほどの傷を負っているはずなのに最後の最後の抗いとばかりに俺に瀕死の体で体当りする。
「うッ!」
100kg以上重さがある体重にプラス突進時の勢い。相当な衝撃のはずだ。
俺はその体当りを直に受け、一瞬呼吸ができず後方に転がるようにして倒れる。痛い。攻撃を受けた際、しっかりとした強い痛覚を伴っていた。それがここは現実だと知らしめる。体当たりを受けた腹部、倒れた際に受け身を取らなかったので衝撃を分散できず体の全身を擦ったようで激しい熱を持っていた。背中がズキズキして痛い。戦いたくない…。不満、恐怖、緊張が俺を襲う。それでも俺は果敢に立ち上がる。生きるために……!
だが、ジャイアントモーアは体当たり時に最後の気力を振り絞ったんだろう、今はもうピクリとも動かなかった。
「ハァハァハァ……」
初めての戦闘に疲れ、俺は肩で呼吸をしていた。勝負に勝った満足感があまりにもなく、逆に不快感がだけ沸き起こる。
必死だった。相手も同じだ。生きるためにそこで戦いが繰り広げられていた。今ここに生きている命を俺が奪ったんだ。なんとも言えない罪悪感が俺を強く蝕む。そんな俺に対しフェイプルはよくやったといった感じの顔を向け俺の頭を撫でる。今の俺にはフェイプルのその行為はうざかった。生物を殺して、褒められるなんて……。たとえ魔物でも俺は命を奪うことに抵抗を感じていた…。
俺の気分がだいぶ落ち着いた頃、フェイプルは俺に指示を出す。
「さあ奴の屍に剣をかざしてみろ」
フェイプルの命令に従い倒れているジャイアントモーアに聖剣を当てる。するとジャイアントモーアの体は青白い光りに包まれ解体され、アイテムの数々に豹変した。その光は聖剣に吸収されて仄かに薄く燐光の如く光を剣が持った。思わず見入ってしまうほど神秘的な光景だった。
「おお!」
わざと大きな声を出して気持ちを切り替える。すごい。
「これって魔法のたぐいなのか?」
素朴な疑問にフェイプルは縦に首を振る。
「ああ、そうだ。この聖剣に常時かかっているアイテム化の魔法だ。魔物は魔素からできているけど生き物でもある。マナに還ることはなくその生物を構成している部位が残ることがもちろんあり、その種類ごとに分けられてアイテムとして顕現させる便利の代物だ」
俺はフェイプルの説明を聞きながらアイテム化したものを手に取っていく。
血が一切付いていない大量の羽、肉、綺麗な皮。アイリス戦記時代の同じ種類のドロップだがあれだけの巨体に対してこれだけかと疑問に思いフェイプルを見る。俺の意図を察知したのかフェイプルは答える。
「他の部位はアイテム化できるほどの魔素率は低くなかったようだな。魔素率が高いものを手に入っても、例えば肉だと形、色が悪かったして味がしない、栄養がまったくなかったりする。いわば肉としての役割をしっかり担えない不完全なものとなる。それだとたとえ手に入れても使い道がないし、ほっとくと自動的にマナに還るからな。魔素率が高い部分はこのアイテム化の魔法でマナに還る寸法ってやつだ」
肉や他の部位の数がなかったり少なかったりするのはこの原因なのか。この世界が俺達の世界の常識とかけ離れていて俺は興味深く感じた。
「それにしても……。」
俺は肉を持ちフェイプルに見せる。
「これはなんとかならないのか?」
手にした肉にはアイテム化の際地上に落ちてその落下部分には砂や土がついていた。
「洗えば食えるだろ」
なんてワイルドなの! と感じてしまうほどイカした返答だった。まあ死なないから大丈夫か…。
とりあえずアイテム化した素材を持ち合わせのバックなどの、アイテムを収納するものがなかったため一旦防具と中の服を脱ぎ、羽の方はインナーシャツでばらばらにならないよう縛り、自分のパジャマの上半身のほうでそれ以外の素材をくるまって、くるんで大きく丸くなった部分を垂らすように手で持つ。今俺は上半身裸の上に皮の防具を身にまとっている姿になっている。ヘソ周辺が出ているところはよりワイルドさを引き立てていた。
あっ! そうだ! 忘れていた…! 俺はさっきの戦闘で感じたことをフェイプルに話す。
「なあ、フェイプル…。ちょっといいか?」
「何だ」
「俺初めて剣を握ったはずなのに、体が覚えていたっていうか何というか…、とにかく普段の俺からでは考えられないほどの尋常じゃない動きをしていたんだよ。あれって何だ?」
「うーんそうだな」
フェイプルはこれでもかってぐらい眉間にシワを寄せて考える。可愛いなと顔に出さずに密かに思っう。
「この聖剣の力だろうな。それ以上はフェイプル様でも知らん!」
「うむ。そうか……。」
すっかり慣れてしまったフェイプルの偉そうな態度を気にせず思案に浸かる。聖剣に仕えているフェイプルでもわからないとたぶん、一生わかる時は来ないなと俺は結論付ける。それにしてもこの聖剣には謎が多いな…。
俺を呼んで異世界に招いたり、俺の戦闘能力を高めたり…。聖剣というものにここまでの力があるものなのか…? 異様ではあったが疑問を感じるほどのものではなかった。それよりいろいろあって忘れていたけど俺、まだ晩飯食べていなかったんだ…。緊張感がなくなったからか腹の虫が鳴いていた。
「じゃ、そろそろ行きますか」
「どこに行くのだ」
俺は首を動かし指し示す。
「ああわかった!」
俺たちは今でも見えるはじまりの街ビギニールに向かって歩を進める。自分でも今の格好になんてワイルドなの!と感じつつ、恥ずかしくもあるがせっかく手に入れたものを放置するわけにもいかないので持っていくことにしアイテムやギルドなどで売ればいいかなどと考えていた。 異世界に来た高揚感と先ほどの戦闘で自分自身がおかしくなった気がしてやまない自分だった。
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