第3話魔物遭遇
さっそく世界を救いに行こうと言いたいところだが、とりあえず転移から感じていた今の身に包まれている違和感を確認する。
まず俺は自分の服装を見た。転移前と同じパジャマ着の上にアイリス戦記でプレイキャラを作った際に自動的に身につけられる頑丈そうとはいえない、へそ周辺まで丈が伸びていない錆色の革の鎧、ガントレット、膝当てなどの防具群に身に纏っていた。思っていたよりも動きやすさがある。自分の身を調べてそれぐらいしか何もなかった。まあ寝巻きでポケットなんてついてない物だし、例え、ついていてもろくなものを持っていないだろう…。何にもないのは仕方ないな。よく異世界転移型の小説で主人公が元の世界の持ち物を持っていて、高値で売ったりしてうまく立ち回っているシーンを思い出すがまあ、結構残念だけど大丈夫だろう。それより……。
(本当に魔物から守れるのか…?)
俺はそんな疑問を抱く。ファンタジック要素でうれしいのだが、いざ戦うとなると防御に心もとないと感じる。
魔物……。半信半疑ではあったが、そこであることに俺は気づいた。
「えーーと」
「名はフェアリープリンセスでいい。もちろん様付けで。いやそれとももっとかっこよさそうで強そうな二つ名付きの…そうだな、私の命が危機に瀕した時自分のマスター晴之さえも命の惜しさに盾にする。そんなところがチャーミングポイントの現役女子皇帝フェアリープリンセス(は~と)…でいいぞ」
「……」
「えーーと」
「名はフェアリープリンセスでいい。もちろん様付けで。いやそれとももっとかっこよさそうで強そうな二つ名付きの…そうだな、私の命が危機に瀕した時自分のマスター晴之さえも命の惜しさに盾にする。そんなところがチャーミングポイントの現役女子高生フェアリープリンセス(は~と)…でいいぞ」
「……」
「前半ただのゴミクズなんですが…、それに全然チャーミングじゃないし、最後の方なんて棒読みだし(は~と)に心が全く籠もってないんですが…。てかこれって単なる自分の鬼畜さをひけらかす自己紹介じゃ…。それにフェアリープリンセスでも名前としては少し長いし…」
まだ突っ込みどころがあるが今は置いておこう。ていうかこれでかっこいいとか強いなんてどういう感性をして………って危ない危ない。思わず突っ込みそうになった。
不満そうに見る妖精を無視し俺はいい名前を考えること数瞬、名案とばかりに思いつく。
「フェイプルでどうかな…! 可愛いし」
妖精は真面目に深く考える。
「ちっと威圧感がないがまあ、いいだろう…。妥協点と言って感じだな」
偉そうだなと思いつつも俺は聞きたかったことを話す。
「魔物ってこの世界にいるのか!?」
「もちろんいるぞ」
おお! まじかよ。やっぱり異世界だな。
「ちなみに今お前の後ろにいるぞ」
「え……」
恐る恐る振り返る。そこには自分の身長ぐらいの、ダチョウをもっとふさふささせたような灰色の巨大な鳥が俺の目前で様子を窺うかのようにじっと見ていた。
「うわぁぁああああ」
情けない声を出して思わず飛び退く。
「本当にいた! しかも…」
(この中型の鳥、アイリス戦記で見た初心者エリアで遭遇するジャイアントモーアではないか!)
地形。魔物。装備。これ以上ないってくらいの根拠が集まっているが、もっと確証なものにしたい。あとひとつの要素が必要だな。もしこの世界がアイリス戦記の世界ならさっき見えた街ははじまりの街、ビギニールなはずだ。後で確かめに行ってみるか…。魔物の遭遇によってまたもや論理を展開していく自分にフェイプルは容赦のない言葉を言い放つ。
「よし。まず初めに奴を殺せ。晴之」
え……。殺すだ…と…。俺はその聞き慣れない言葉を聞いて呆然としていた。現実世界では無意識的に蚊などを殺してきた自分だったが、それより大型の生き物、哺乳類に属するものを意識的に殺すことを躊躇ってしまう。いくら何でも意味なく生物を殺すなんて……。そんな自分にフェイプルは優しく諭す。
「こいつらは魔物だ。だから大丈夫だ。安心しろ」
俺はすぐさま抗議を入れようとするがその前にフェイプルは問いかける。
「なあ魔物がどう生まれてくるかわかるか?」
突然の質問に俺は元の世界の常識を当てはめて考え、答える。
「えっと番、つまりオスとメスが交尾をして生まれてくるのでは…」
「晴之の世界の常識ならそうかもしれない…。けど魔物と動物は違う。動物は晴之の言ったところを指すが、魔物は
魔素?ばんやりとわかる気もするまでもないが釈然としてこない。
「えーとつまりはじめから説明するとまずこの世界は目に見えない魔素に覆われている。魔素は人畜無害ではなく逆に生体に好影響を及ぼすことがある」
「好影響?」
「本来人間は魔法が使えない。それ故晴之達の世界になる。だけど魔素のおかげで人間は魔法などのスキルを行使できるようになる。例としてはこの世界だ」
俺は魔法を使えるのかとか、魔素はなんなんだとか疑問が増えていくが、今は話に耳を傾けよう。
「で、その魔素なんだが、人間にとっては必ず良い物でもない。その例が魔物だ。魔物は人間の暗い負の感情に魔素が反応し結びつくとそれは人魂と成る。そして自分の必要とする魔素の量に合った地に行き魔素を吸収し魔物が生まれるのだ。ちなみにその負の度合によって魔物の強さも異なっていくのだが」
「つまり魔物は動物と比べ生き物とは言いにくい。本質は人間の負の感情が具現化したようなもの。晴之の世界の妖怪に近いが。それに魔物は人間を襲う。これは創造主への反攻というより人間はスキルを使うためそれに体が耐りうるために、耐えられない強い力を負担する役割と、スキルを常時使用するために魔素を蓄える役割を担った心臓付近に存在している
「そして自分の魔素核を強化するために食べる。そんな人間の敵に容赦はいらない」
ってことは……!? 晴之に近づいてきたジャイアントモーアは大きな鋭い口を開けるとついばむようにつんのめてきた。とっさに横に跳び、攻撃を交わす。危ない危機一髪のところだった。たまらず冷や汗をかく。
「おい! 先に言えっての危うく食われるところだったぞ!!」
「鳥葬になるところだったな」
「そんな悠長なことを言ってるな! どうしたいい!」
「剣を握ったことはあるか」
「いや全然ない」
「じゃあ中段に構えろ。切先は奴の中心へ。右足を左足の前に出して両足共につま先立ちで攻守しろ! 普通に立っているときより動きやすく反応スピードが速いはずだ」
俺は、フェイプルの迅速かつ的確な指示に従う。本当に魔物が倒せるか心残りではあった……。
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