第2話異世界転移
「ここは……」
俺は信じられない思いで目の前の光景を見ていた。混乱で呆然となっている俺はいつもの冷静さを取り戻すため状況を整理しようと努める。たしか俺は光りに包まれそれから…。そこから何も思い出せない。記憶が途切れているわけではないが……。
そして幾度となく思考を重ねた結果、一つの結論にたどり着いた。
「異世界に来てしまったのか…」
思わず声が出るほど驚愕する。まさか異世界に来るなんて、しかもこの景色...。青々と茂った草が周囲一体を包んでいる。その先には中世ヨーロッパの天辺がとんがっている塔郡などで特徴づけられた、ファンタジックな感じの城ではなく大きな屋敷といった感じの城郭が佇んでいた。その周りを数々石造りの家、農耕地が囲んでいる。見覚えがある景色だった。たしかパラディム平野と言われていたアイリス戦記の地形だったはず。ゲーム内で俯瞰して見たものだがそれが俺の視界に移っているなんて。俺は2度びっくりしていた。
一つは異世界転移してしまったこと。2つ目はそこがアイリス戦記の舞台であること。いや、まだアイリス戦記の舞台と仮定してはいけない。俺は興奮で思考が正常に回ってない脳に強く厳命する。まだアイリス戦記だと裏打ちする根拠、情報が足りない。情報不足で出口のない思索を区切っていたら、仄明るい光が中空で発せられていることに気づく。俺はその光源に顔を向ける。剣だ…。突然頭上から神々しい輝きを放つ剣が降ってきた。いかにも聖なるといった感じのオーラを身に纏いながら俺の目前にやんわりと剣先を下に舞い降りてきた。
「なんだ、このすごそうな剣は…」
それは、鞘に収められていて持ち手の部分には豪華な装飾が見える。俺は恐る恐る鞘ごと剣を持つ。
赤を基調とした鞘で、中央のところにはなにか白い花のエンブレムが施されている。そっと鞘から剣を抜くと、独特の溝が走っている刀身があった。切先から鍔まで直線が切れることなく走っていて、個性的な印象を受ける。
鍔(つば)…刀剣の柄(持ち手)と刀身との境目に挟み,柄を握る手を保護する板。ーー+- の|の部分。
切先(きっさき)…刀などの刃物の先端部。刃先。
俺はその剣をジロジロと眺めているとどこからともなく声が聞こえてきた。
「やっと来たか。待ちくたびれたぞ」
聖剣から声がしたかと思ったので思わず驚きの瞳を向けてしまう。
「おい、どこを見ている。こっちだ!」
聖剣からいや聖剣の頭上、俺からだとギリギリ視界外のところに薄緑色の小人が宙に浮かんでいた。いや、妖精だ! アイリス戦記最後の日にもらったフェアリーとおなじ特徴をした妖精は偉そうに腕を組んで見下ろしていた。蝶のような流麗な羽が生え、肩が出たヒラヒラな膝までの長さを持ったワンピースを着ていて、全体的にライトグリーン色で、それらの要素からいかにも女性の妖精といった印象を受ける。偉そうな口ぶりはマイナスだが…。
(うぉぉおおおおお!!)
俺は生の妖精を見てまたもや柄になく興奮してしまった。そんな俺の姿に冷めた目つきで軽蔑ともつかない眼光をくれる。怖い! 口調といい、態度といい、この子は本当に妖精なんだろうか...。妖精といういうイメージがどんどん壊れていくのに同調するように興奮が次第に冷めていき、それと比例するようにがっかり感が増していく。妖精という存在を夢見てた時期があったのに...。
俺の心の内など露知らず妖精は言葉を切り出していく。
「お主は我が仕える聖剣スターライトディオによって転移してきたのだ」
妖精の宣言に俺は一瞬の時間を要し、そして思い至る。ああ、あのことか…。転移前時にアイリス戦記がサービス終了した際突然現れた文字が聖剣の声や意思というわけでその聖剣のおかげで俺は転移してきたのか…。この妖精とは違い厳かな感じで、横柄な感じを繕ってない、生まれてきてから純粋な傲慢といった印象だった。俺はそんな聖剣に感謝の気持ちを伝えるべく話しかける。
「ありがとうな…。スターライトディオ…」
「………」
「本当に感謝してる…」
「………」
「だからさ…一言でもいいから喋ってくれよ~。このままだとやばい人に間違えられるからさ…」
「………」
それでも何も喋らないスターライトディオ。俺はたまらずフェイプルに視線を向ける。
「何故に喋らないんですか!」
「実はさっき十六夜晴之を転移させる時自分の魂を犠牲にしたためだ」
「嘘だろ…」
驚愕の事実に俺はその言葉を呟かずにはいられなかった。俺のためにそこまでしてくれて……。俺は聖剣を抱きかかえるようにして愛しの人が不慮の死で亡くなった時のように名前を叫んだ。
「スターライトディオ……!!」
「冗談だ」
俺は渾身の睨みをくれる。
「あくまで聖剣の力を俺様が使っただけのことだ。それ以上でもそれ以下でもない」
まぁ聖剣やフェイプルに対して感謝の思いで胸中いっぱいだが頭の隅で違和感が矮小に占めていた。
聖剣…。俺が知っているアイリス戦記ではそもそもそんな聖剣の名前は無かったはずだが…。俺は少し違和感を感じつつもそれよりもっと興味がある質問をしてみた。
「あの質問の意図は、この異世界を救ってくれだよな」
「ああそうだ」
妖精は大きくうなずく。
「じゃあ、俺の望んだ世界、居場所を手に入れられるのか…?」
俺はあの悲惨たる日常が嫌でたまらなかった。死を思わず考えたほどだった。居場所がなく、只々生きている人生が……。俺の人生がかかっている質問に妖精は容易に答える。
「それはお前次第だ。十六夜晴之!」
やっぱりそんな答えか……。期待していなかったわけではないが、こんな奇跡と呼ぶにふさわしい現象が起こったから思わず希望を勝手に持ってしまっただけのこと…。 この世界でもそんな易々と手に入らないのか…。俺は物凄く落胆していると妖精は付け足すように言った。
「お前にはその力があるではないか」
力……? 何のことかわからないでいたら妖精は丁寧に説明をした。
「その聖剣だ。聖剣だぞ……!! 誰しも持っているようなものではないぞ!」
「でもだからって……」
「確かにお前は人と関わるのが苦手で生きてる価値のない無力な社会のゴミで、しかも……」
「………」
聞かなかったことにしよう。
「でも、お前にはそれを補ういやそれ以上の要素、力がある。俺様が保証してやる。魔物を次々と薙ぎ倒しそして世界を救い、英雄になれる。国中がお前を歓迎するぞ! 更には世界中の美女たちに持て囃されるぞ!」
美女の件はともかく、俺は今までにないってくらい思考が擦り切れるくらいフル回転して思い描く
「………いい!…」
この世の人間には到底味わえない素晴らしい経験だろう。思わず涎がだらだらと出てしまう。
「多分困難な道かもしれない…。だけども力がある! 努力すれば夢が叶うのなら、俺頑張ってみるよ!」
少々安易な気もするが俺は心に誓い、妖精は満足そうであった。
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