第105話 ミリィ vs ロベリア(前半)
「おい、何言ってんだミリィ、真剣で戦うなんて危険すぎるだろうが」
私が提案した内容にアストリアが慌てた様子で止めに入る。
「大丈夫よ、別に殺し合いをするつもりじゃないんだし、お互い傷を癒せる方法もあるでしょ?」
「だからと言ってもなぁ、俺たちならまだしもお前は一国を背負う王女だろうが。もしもの事があったら取り返しがつかねぇじゃねぇか」
まぁ、アストリアの立場からすれば真っ先に止めにはいるわよね。
第二王女の私が一国を背負うなんて大それた言葉だが、国の象徴ともとれる王女が敵国の王女に殺されたとあれば騒ぎどころではない。
例えアリスが如何に万能でも、流石に即死の場合はどうすることもできないだろう。
「アストリアの言う通りですわ、貴女の身に何かあれば私たちは勿論アリスはどうするのですか? もう少しご自分をご自愛ください」
「そうだよ、ミリィちゃん。無茶はしないで。ね、アリスちゃんからも言ってあげてよ」
リコとルテアがアストリアを援護するよう止めに入る。しかも私が一番痛いところ突いてくるところなど、さすが長年の友人といったところか。
だけど、アリスはどこか浮かない顔をしながら小声で。
「……ねぇ、ミリィ。もしかしてミリィも感じたの?」
「えぇ、嫌な感じがしたわ」
「そっか……うん、だったら私はミリィの言う通りでいいかな」
「「えっ?」」
アリスの言葉にリコとルテアが驚いたように反応する。
二人にしてみれば、私への最終兵器であるアリスを持ち出して止めるつもりだったのだろうが、まさかここにきて否定されるとは思ってもいなかったのだろう。
私の身に何かが起こればアリスは力を暴走させるかもしれない。だからこそ最大の切り札なのだが、どうやら私が感じた嫌な雰囲気をアリスも感じてしまったようだ。
「アリス、本気で言ってるんですの?」
「うん、多分なんだけど、その方がいいような気がする」
「多分って……」
アリスの言葉に二人が顔を合わせながら思わず言葉を詰まらせる。
アリスのこういった勘ってバカにできないのよね。だからこそリコもルテアも大きく反論できないのだろう。
「もう一度言うけど大丈夫よ。それに私の身を案じているのなら真剣での勝負の方が安全なのよ」
そう、アリスも感じたのならばロベリアが何かを隠している事は確実。それがどの様なものかは知らないが、そんな相手に木剣一本で立ち向かう方が無謀であろう。
「……本当に、本当に大丈夫なんですよね?」
「えぇ、勝算のない戦いをするほど私は剣術バカじゃないわ」
私の剣は護るための剣。アリスを、みんなを、そして私自身を護るための剣。
よく物語などでは『自分を犠牲にして』というシーンが出てくるが、私の身に何かがあればアリスの心が闇に染まる。もしかするとセリカさんの時の様に力を暴走させてしまうかもしれない。
だから私は死ぬわけにはいかないのだ。
「……解りましたわ。アリスとミリィがそこまで言うのなら私も信じるしかありませんわ」
「う、うん。でも無茶はしないでよね」
まったく、二人には心配ばかりさせているわね。
「任せなさい。私は一人じゃないから」
そう言い残し、一人ロベリアが待つ中央へと歩み寄る。
「おいおい、俺の意見を聞く前に勝手に話を進めるなよ」
「悪いわねサージェンド、そう言うことだからここは目を瞑ってもらえるかしら?」
サージェンドからすれば何がなんでも止める立場になるだろう。
だけど真っ先に止めに入るはずのアリスが止めに入らず、剰え真剣で戦う方がいいとまで勧めてきたのだ。
サージェンドもアリスの事情は当然知っているので、自身の立場とアリスの言葉の間で迷っているのだろう。
「大丈夫よ、別に殺し合いをしたいわけでも、傷つけ合いをしたい訳でもないの。まぁ、いわゆる保険ってところかしら?」
「保険つってもなぁ」
「それに熱くなりすぎたり、危険だと感じたらすぐに止めに入ってくれればいい。最後まで戦わせろなんて我儘をいうつもりはないわよ」
サージェンドはそれでも渋い顔をしていたが、私が引かないと分かれば最後はため息とともに引き下がった。
「おいアストリア、お前の棍をよこせ」
「ほらよ」
サージェンドの言葉にアストリアが持っていた棍を放り投げる。
「いいか、俺が危険だと感じたらすぐに止めに入る。戦いの邪魔をされただとか、勝敗の有無だとかは一切受け付けない。その時点で引き分けで試合終了だ、わかったな?」
「えぇ、それでいいわ。ロベリアも良いわよね」
「いいですわよ。どうせ私には勝てないのだから」
共に条件を受け入れたと同時に私は剣を鞘に収めたまま、ロベリアは刀身を抜いた状態でスッと構えに入る。
私の持つ剣は、一般的な剣をより細くしたただの護身用の剣。決して戦争や長期の戦いには向かないもの。
しかも女性の私が扱いやすいよう軽量化されており、剣自体としての打撃力は大して効果は望めない。
一方ロベリアが持つ剣はレイピアという刀身が細長い剣。切ることも出来なくはないが、突きに特化した剣。
共に王侯貴族が護身用に、または自身の象徴を示すための飾り剣。
すると恐らくロベリアの初撃は……。
「始め!」
サージェンドの開始の言葉と同時にロベリアが一歩下がる……が、その反動を利用して前へと踏み出し鋭い突きの攻撃を向けてくる。
対する私は鞘に刀身を収めたまま迫り来る剣尖を真横に薙ぎはらった。
「さ、鞘ごと?」
ロベリアからすればフェイントを加えた上に、細長いレイピアの特徴を生かして攻撃してきたのだろう。迫りくる突き攻撃を弾こうと思えば、腰を落として下空から角度をつけなければ当てるのがむずかしい。
また迫りくる突きを躱す場合、左右に良ければ払いの追撃が襲い、後方に下がれば更なる追い討ちが襲いかかる。
なので、この場合は相手の攻撃を弾くのが一番いい方法ではあるが、腰を落として下空からの攻撃にはどうしても次の動作が遅れてしまう。
ならば鞘に入れたまま剣の厚みを利用してそのままなぎ払えばいいだけの事。
「か、考えたわね」
と、でも思っているのだろう。
私はロベリアの攻撃を弾くと同時に、そのまま剣を鞘に収めたまま追撃に入る。
「はっ!」
「えっ? きゃっ!」
私の追撃を寸前のところでロベリアが剣で受け止める。
「何似合わない声をあげてるのよ! はっ! やっ!」
さらに続く私の連撃攻撃。
「ちょ、きゃっ、イタっ!」
ロベリアはかろうじて剣で防ぎながらも徐々に後退していくが、これは私がわざとロベリアの剣を狙っての攻撃。
もし私が鞘を抜いていれば軽い攻撃だっただろうが、鞘に収めてる分重量がまし、相手の受けるダメージは必要以上に蓄積される。
まぁ、私の方も本来の剣の重さがプラスされている分いつものキレがないのだが、これぐらいのハンデがあっても実力は十分に私の方が上であろう。
ギン、ギン!
「さっきまでの威勢はどうしたの? このままじゃ貴女の剣は保たないわよ!」
剣撃での連続攻撃を続けながら更に後方へと追い詰める。
レイピアは突き攻撃に特化した武器。当然剣なのだから受け止めることもできるのだが、その耐久度は恐らく木剣以下。
このまま武器破壊を狙っていると見せかけて、私の本当の目的は先ほど嫌な感じがしたロベリアの右側のポケットに狙いを定める。
「そこ!」
ボキッ!
「きゃっ!!」
鞘に収めたままの剣撃がロベリアの右ポケットを捉える。
ロベリアは慌てて後方に下がり今しがた攻撃を受けた場所を確認。
手ごたえあり。
確かに今何かを壊した感触があった。生憎壊した何かが盾替わりとなってロベリア自身には大したダメージは通らなかったようだが、切り札であろう何かはこれで使い物にはならないはず。
「うそっ!?」
ロベリアは慌てて壊れた何かを確かめ悲鳴をあげる。
やはりこの反応、何かを隠し持っていたのだだろう。
それにしてもワザワザ声を上げて反応してくれるなんて、やはり戦いに関しては素人なのは確実。もしこれがアストリアやジークならば、逆にハッタリをかけてでも強がるはず。
「何かを隠していたようだけれど、お生憎様。これで勝負あったわね」
何を隠していたかは気になるところであるが、こんな勝負とっとと終わらせるに限る。
私は両手で正眼に構え、止めをさす為に離れてしまった間合いを一気に詰める、その時。
ゴゴゴォーー!
突如私に向かって巨大な火の渦が襲いかかるのだった。
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