第90話 トラブルメーカーズ・前半
ドゥーベ王国第一王子、ライナス・マルクス・ドゥーベ様及び、第一王女、ロベリア・マルクス・ドゥーベ様、ご入場!
ざわざわざわ。
高らかな騎士の宣言により、会場内の視線を一斉に我が身へ受ける。
自国のパーティーでもそうだったが、誰もが私の美しい姿に目を奪われ、好意の視線を送るこの瞬間が一番好き。
だってそうでしょ? 王女であり、次期聖女と敬われる立場にある上、容姿端麗、文武両道、おまけに
うふふ、今だってホラ、大人は勿論同年代と思われる男女からも好意の視線を送ってくる。
女性達は私の美しい姿に憧れ、男性達は私の容姿に目を奪われる。おまけに私が今日着ているこのドレス。
ドゥーベ王国で一番人気と言われている仕立て屋に頼み、私自身がデザインした絵を元に作らせたんだから、可愛くない訳がない。
まぁ、少々私のデザインセンスが解らないようだったから何度も作り直させたけれど、結果的に満足のいく一着が出来上がった。
だけど変なのよね。あのパタンナーったら自分がつくったということは口外せず、ロベリア様がデザインされたということをアピールされた方がいいですよ。なんて言ってきたのよ。
普通私のような高貴な人間のドレスを仕立てたとなれば、身にあまる名誉が付いてくると言うのに、案外デザインをする人って欲がないのね。
まぁ、いいわ。今日はこのドレスで十二分に私の可愛さと美しさを引き立てているのだから、男性達は私の虜になること間違い無し。
もしかすると婚姻の申し出が殺到してしまうかもしれないわね。
「うふ、うふ、うふふふふふふー」
ざわざわざわ。
「おいミリィ、来たぜ」
隣にいるアストリアが分かりきった事を確認するかのように小声で囁いてくる。
「あれがロベリアにライナスね」
正直隣国でもあるのだが、ドゥーベ王国の内情の事はハッキリ言ってよく分からない。
これが北西にあるラグナス王国や、南西にあるメルヴェール王国改め、新生ミルフィオーレ王国ならばまだ付き合いもあるのだが、ドゥーベ王国に関しては国同士の国交自体がない上、セリカさんの事件以降はかの国は敵という認識が上層部にはある為、表立っての付き合いはしてこなかった。
つまり、かの国の王族と会うのは今日この場が最初という訳。
それにしても……
「不気味な笑い方をするわね。おまけにあの派手なドレス。アレで本当に似合っているとでも思っているのかしら?」
何を考えているのかは知らないけれど、不気味に微笑むあの顔で近くにいた人たちが一斉に距離を取ろうと離れていく。
さらにその姿に拍車をかけるのがあのドレス。
アリスと同様の綺麗な銀髪だというのに、ド派手なピンクにこれでもか! と言うほどのリボンやら花のコサージュやらが所狭しと施されている。おまけになに? この時代にでっかいパフフリーズのデザインってどうなのよ。
子供の頃に読んだ絵本に出てくるお姫様のドレスをイメージしたいのだろうが、残念な事に彼女の体型が全てを台無しにしている。
別に太っているって訳じゃないんだけどれ、背が低いのに盛りに盛ったドレスの装飾品が彼女を3割り増しに太く見せてしまっているので、パッとした見た目は伝説のドワーフか何かを連想させてしまう。
もしかしてアレがドゥーベでは流行っているのかしら?
「それにしても大丈夫なのか、アレ? 護衛らしい護衛もそうだが、外交官らしい者すら同行していないぜ」
アストリアに言われよく見ると、双子の近くにそれらしい人の姿がまるでない。
確かに国賓を招く王家のパーティーだから、護衛なんて連れては来れないだろうけど、交渉や挨拶などを行うためにも外交官の同伴が当然だと思っていたが、二人の周りにそれらしい人物は一切見当たらない。
もし仮に、双子とは別れて入場するという可能性も捨てきれないが、ここは言わば敵陣の真っ只中。今は建前上引き分けという形に止めてはいるが、失った兵や被害状況を見ればどちらが勝者なのかは一目瞭然であろう。
それを踏まえた上で我が国へと来ているのだから、警戒の意味を込めて自国の王子王女を守ろうと離れず付き添うのは当然であるだろうに……。
「どういう事かしら? 本当に本人達は親睦を深めたいとでも思っているのかしら?」
「それはないんじゃねぇか? だってあの二人、見た目からしてかなりバカそうだぜ」
本来なら一国の王子王女に対してなんて事を口にしているのよと注意するべきだが、今回に限ってはその意見に私も激しく同意してしまう。
男の方……ライナスは見た目の容姿はそこそこだが、黒く焦げた肌にスーツの上からもわかる筋肉丸出しの体型。おそらく剣か何かを使えるのだろうが、見るからにその力技任せの脳筋の類である事が伝わってくる。
それでも『たくましい男性が好き』と言う女性もいるだろうが、それを台無しにしてしまうあのやらしい視線。ライナスが女性達を見つめる視線が何とも下品で下心丸出しの姿が全てを台無しにしてしまっている。
「一体何を考えているのかしら」
女性とお近づきになりたいというより、まるで物を見定めるようなあの視線。
最初は興味津々で見ていた女性達も見つめられた瞬間慌てて視線をそらし、女性に付き添っていた男性はその視線から庇うように間に入る。
確かにアストリアの言う通り、とても親睦を深めたいという雰囲気ではない事が見て取れる。
そして女性……ロベリアの方はというと、見た目の姿も痛いのだが、アリスを100倍バカっぽくした容姿に、アリスの世間知らずを100倍にした雰囲気で、アリスの非常識さをこれまた100倍にした感じと言えば少しは分かってもらえるのではないだろうか。
だけど彼女が持つあの髪色。
それだけでアリスと血の繋がった存在なのだと証明している。
「それでアリスの方は大丈夫なのか?」
「えぇ、今はティアラ姉様と一緒にエスニア姉様の支度に付き添っているわ。その後はジークに近く居るように言ってあるから取り敢えずは心配いらないわ」
ジークにはこのパーティー中アリスから離れるなと言ってあるし、アリスの関心は今エリク兄様やエスニア姉様の方へといっている。
もちろん敵国であるドゥーべから双子が来るとは伝えてあるが、元々貴族に興味がないアリスにはその他大勢にしか捉えていないだろう。
「だがなぁ、あのアリスだぞ? トラブルがなく無事に終わるとは思えんのだが……」
「………………」
眉間にシワを寄せたアストリアの一言で、私の額から冷たい汗がタラリと流れ落ちる。
「ま、まさかねぇ……」
自分で否定する言葉を口にするも、今まで数々のトラブルに巻き込まれた経緯を思い出し、不安な気持ちが湧き上がる。
だ、大丈夫よミリィ。流石のアリスも今日は兄様達の晴れ舞台でもあるのだから、大人しくしているようにと釘を刺したし、護衛件エスコート役にジークも付けている。
これがアストリアなら不安要素もあがるのだが、寡黙で密かにアリスへの恋心を抱いているジークなら安心もできる。
更にこの後リコやルテア達とも合流する手筈になっているんだからアリスへの包囲網は問題はないはず。
だけど何? 不安な気持ちが湧き上がってくるのは。
そんな時だった。
「ちょっと、貴女ジーク様の何なのよ!」
「テメー、俺様のアリスの近くに寄るんじぇねぇ!」
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