帰り道の不思議さん
琴吹 晃
第1話帰り道の不思議さん
僕は中村裕太15歳。中学3年生だ。
最近高校受験も終わり、僕はある1つの事を決心した。
学校からの帰り道、川の河川敷にいつもその男はいた。
不思議さん
僕はそう心の中で読んでいる。
年齢は20代半ばといったところか。
その姿は『ムーミン・シリーズ』に出てくるスナフキンの様な格好をしている。
いつも不思議さんは紙とペンを持ちながら、川が流れているのを見ている。
そんな側から見ればただの不審者である不思議さんに、僕は興味を持っていた。
そして受験が終わった今、遂に話しかけようと意を決したのだ。
こけない様にと河川敷に降り、不思議さんの元に歩み寄る。
不思議さんの隣に並ぶ様に座る。
そして・・
「いつもそんな所で何をしてらっしゃるのですか」
記念すべき一言をかけた。おかしな言葉は無かっただろうか。
すると不思議さんは、特に驚くそぶりも無く答えた。
「小説のネタを考えてるのだよ」
だからいつも紙とペンを持っていたのか。
1つ謎が解けた。
「小説家なんですか?」
この人ならあり得そうだと思い聞く。
「一応ね。でも最近ネタが思い浮かばず行き詰まっているんだよ」
だからずっとこの河川敷に入り浸っているのか。
2つ目の謎も案外簡単に解けた。
僕が次に何を話すか戸惑っていると
「君少し時間はあるかな?もしあるなら話相手になってほしいんだ」
少し戸惑いながらも僕は
「はい」
と答えた。
不思議さんから話しかけくれるとは思わなかった。
会話に行き詰まっていた所なので丁度良かった。
これでもう少し会話が弾みそうだ。
「なんせこんな格好だからね、あまり人が寄ってこないんだ」
と不思議さんは言う。
「君は小人がいると思うかい?」
突然の問い掛けにの僕は先程以上に戸惑った。
小人?僕は今まで生きてきて見た事が無いし、現代の技術でも発見されてない。
「いないと思います」
僕がそう答えると
「そうか」
表情1つ変えること無く答えた。
「僕はいると思うんだ」
凄い意見が帰ってきた。
僕の中での不思議さんに対する不思議パラメーターの数値が上がる。
「何処かで見たんですか?」
『借りぐらしのアリエッテイ』の様に、家に小人がいたとでも言うのか?
「いや、これから話す話は全て僕の妄想だ」
そして不思議さんはこちらを向き
「聞いてくれるかい?」
「はい」
小説家の妄想だ。聞いていて損は無いと思い、僕はすんなりと受け入れた。
「ありがとう」
不思議さんが川の方を向き話し出す。
「ぼくはね、小人も人間の様に独自の文化を築き上げていき、その社会を発展させていったと思うんだ」
いっている意味がわからなかった。
しかし少し考えるとなんとなくわかる気がした。
「つまり、小人は人間の様に新技術を開発し、今は人間に見つからない様にするための技術が小人にはあるから、見つけられないと言うことですか?」
人間の最高技術を超える技術を小人は持っているかも知れないとこの人は言っているのだ。
「その通りだ。飲み込みが早くて助かるよ」
不思議さんは僕にそう言いながら微笑んだ。
「ほら、時々あるだろう?何も無い所でつまずくこと、あれはもしかしたら人間の攻撃を防ぐためにステルス機能付のバリアが張られた小人の町につまずいているのかもしれない」
実にファンタジーな話だ。
しかし肯定する事は出来ないが、否定することも出来ない。
「でもそれだと、宇宙人や巨人もしかしたらこの世界にいるかもしれないですよ」
そうだ。その話ならばまだ発見されていない空想上の生物達も、いるかもしれないと言うことになる。
「そうだ。だからこそこの世界は素晴らしい」
微笑みながら嬉しそうに言う。
「僕はね、そんな素晴らしい世界のまだ皆んなに知られていない部分を本に収めてやりたいのさ。例えそれがただの僕の妄想だとしてもね」
とことん不思議な人だ。
嫌、この位不思議でないと小説家なんてなれないのかもしれない。
日がくれてきた。もう時間だ。
「親が心配するのでそろそろこの位で」
「あぁそうだね。そういえば名前を聞いていなかったね」
「中村裕太です」
「中村くんか。よし」
そう言うと不思議さんは手を差し出してきた。
「節技 相太だ。これからもよろしく」
そう言うと僕達は握手した。
しかし僕はその苗字を聞き、お驚きと笑いに包まれ握手どころじゃなかった。
「面白い人だったなぁ」
素直な感想だった。流石小説家といった所か
太陽はすっかり沈み、一番星が綺麗に光っている。
帰り道の不思議さん。
その正体は、側から見れば不審者のファンタジーな小説家だった。
次はどんな不思議な話を聞かせてくれるのだろう。
そう思いながら僕は、残りの帰り道をスキップしながら帰った。
帰り道の不思議さん 琴吹 晃 @akirakotobuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます