第41話 創造工房は魅力がいっぱい
「ほぉ……」
目の前のトルソーが着ている鎧をまじまじと見つめながら、俺は思わず声を漏らした。
俺はこの世界に来てまだ日の浅い日本人だし、魔法使いだから、戦士が着る鎧甲冑のことなんて全く分からない。それでも、この鎧が良いものだということは何となく分かる。
磨き上げられた群青色の本体の要所に誂えられた水色の飾り石が不思議な光を抱いていて美しい。鳥の翼のような形をした銀色の模様も見事だ。
これが、人の手で作られたものだとは……人間の技術って、本当に凄い。
「その鎧が気に入ったのかい? それは『霊氷の鎧』というんだ。うちの工房自慢の一品さ。試着してみるかい」
「あ……いえ。俺は魔法使いなんで。お構いなく」
鎧に顔を近付けていると、欲しがっていると勘違いされたらしい、工房の主人ににこやかに話しかけられた。
俺は慌てて首を振って鎧から離れた。
顔を離した時に鎧に付けられていた値札がちらりと見えたが……そこに書かれている数字を見てぎょっとしてしまった。六十万……いや、六百万もするのか、この鎧。流石は
俺が今着てる服なんてたったの六十ルノだっていうのにな。
「おっちゃん、このインフェルノアックス、持ってみてもいいか?」
「ああ、構わないぞ。素振りするならそこの空いてるスペースでやってくれ」
リュウガは随分と楽しそうだ。此処にある武具は主人の許可さえ貰えばどれも試着できるから、色々と試せるのが嬉しいんだろうな。
彼はさっきからとっかえひっかえ色々な武器を試着させてもらっては、素振りをしている。彼は剣術士ではあるが剣以外の武器もそれなりに扱うことができるのだろう。構えている姿はなかなか様になっていて格好良い。
──俺たちは、街にある数多くの創造工房の中のひとつにお邪魔していた。
この世界にある『工房』と呼ばれる場所は、普段はアトリエとして色々な品物を製作しているが、そこで作られた品物を販売する店としての顔も持っている。創造工房は、創造士が創造魔法を用いて作った色々な品物を扱っている特別な店なのだ。
その品揃えはポーションのような手頃な値段の薬品に始まり、びっくりするような高値の付いた武具にまで及ぶ。
工房内の一角に設けられた販売所は、限られたスペースの中に数多くの品物を並べているのでみっちりとした印象を受ける。東南アジア系の雑貨を取り扱っている微妙にアンニュイな雰囲気の店、あれに似たような感じだ。この世界の店で使われている陳列棚は木製が主流で金属製の棚なんてないから、余計にそう感じるのかもしれないな。
「ハル。見て見て」
「ん?」
唐突に背後からフォルテに声を掛けられて、俺はそちらに振り向いた。
「……ぶっ!?」
そして、盛大に吹き出してしまった。
俺の目の前には、ポーズを取ったフォルテが立っている。
その格好は普段の地味なローブ姿ではなく、やたらと露出度の高い服だった。
布面積が殆どない──例えるなら、キャバクラのお姉ちゃんが好んで着ていそうなイメージがあるセクシーランジェリー、あんな感じの服である。見えてはいけない部分を申し訳程度に覆い隠しているだけのデザインで、一応小さな宝石や刺繍などが施されておりそれなりに上品さも感じはするのだが、それ以上にエロさが際立っていた。
いつもはローブ姿のためそれほど意識はしないのだが、フォルテはかなり魅力的な体つきをしている。出るべきところはしっかり出て、引き締まっているところはよく引き締められている、モデルにも劣らない女の体なのだ。今は裸同然の格好をしているため、それが余計に強調されて見えてしまう。
伊藤さんにそっくりってだけで否が応でも意識してしまうのに、こんな刺激的すぎる姿を見せられたら……
俺は全身の血が一瞬のうちに沸騰するのを感じた。
咄嗟に右の掌で目を覆い隠して、喚く。
「な、何て格好してるんだ! 何だその服は!」
「これ? 土魔法が込められてる
何でも服に付いている土の属性石が一種の防御結界を作り出しており、服を身に着けた者の体に掛かる衝撃を軽減してくれるのだそうだ。
それは凄いと思うが……衝撃から身を守る以前に守らなければならないものがあるような気がするのは俺だけなのだろうか。
何で下着同然のデザインなんだよ。明らかに男が着られないだろ、これ。
百歩譲って製作者の趣味で生まれた武具なのだとしても、悪意高すぎである。
「私、こういう武具にしようかなぁ」
何やらフォルテがとんでもないことを言い出した。
俺は慌てて反論した。
「そんな破廉恥な格好してる魔法使いが何処にいるんだよ! 尻も胸も丸見えで恥ずかしいって思わないのかよ!?」
「ひらひらしないから動きやすいんだけどなぁ」
「傍で見てる俺が恥ずかしいんだよ! 頼むからちゃんとした服を着てくれ!」
フォルテの胸元に下がった二つの大きな塊が、彼女の身じろぎに合わせてたゆんと揺れている。
それを指の間からうっかり見てしまい、俺の心臓は今までにないくらい強い鼓動を打っていた。
……い、いかん。下半身が元気に……
俺はぐっと唾を飲み込んで、落ち着けと繰り返し自分に言い聞かせた。
この服を買ってもいいかと強請り始めたフォルテだったが、俺が頑なに拒否したお陰でようやく諦めたらしく、彼女は名残惜しそうにしながらも元のローブに着替えた。
性能が良いのは認めるが、二百万の買い物ができるほどの資産なんて俺にはないっての。
というか、あんな布切れが二百万って……恐ろしいな、
気分転換だ。せっかく工房に来てるんだし、
俺は
棚には、色々な雑貨が置かれていた。一目で旅道具と分かる品物から、一体何に使うのだろうと首を傾げるような形状のものまで、色々ある。
髪飾りのようなちょっとした装飾品なんかも置かれている。これらも
……この白い花の形をした髪飾りなんて、フォルテの黒髪に似合いそうだな。
今は買えないけど、いつか大金を手にする日が来たら、こういう品を彼女に贈ってやるのも悪くないかもしれない。
そんなことを考えつつ、棚に並ぶ商品を見て回っていると。
ふと、ある品物が目について、俺は足を止めた。
「……これって……」
それは、脚が付いたガラス製の容器だった。
大きさはビールの大ジョッキと同じくらい。容器の底には淡い緑色をした丸い石が填め込まれており、取り外しのできる蓋が付いている。
これとよく似た形のものを──俺は、日本で見たことがある。
容器を手に取ると、主人が説明してくれた。
「それは『トルネードカッター』って言うんだ。その中に肉や野菜を入れると、風の力で瞬く間に細切れにしてくれる優れものさ」
……やっぱり。
これは、あれだ。魔法仕掛けの道具ではあるが、要はミキサーと同じなんだ。
容器がちょっと小さいから一度に大量に細切れ具材を作ることはできないだろうが、これがあったら挽き肉を作ったりジュースを作ったりするのが格段に楽になるだろう。
料理を作っている身としては……ちょっと欲しいな、これ。
容器をひっくり返すと値札が付いていた。そこには、色褪せた字で三万の表記が。
三万か……ちょっと頑張れば庶民でも買える程度の金額ではあるが、残念ながら俺にはそこまでの金はない。
でも、諦めるのは惜しい。今此処で逃したら、他の街では絶対に手に入らない気がする。
品物を手にしたまま考え込んでいると、主人が笑いながら言った。
「そいつは長いこと売れ残ってる品なんだよ。それが欲しいのかい? それなら、ひとつ頼み事を引き受けてくれないか。もしも頼みを聞いてくれたら、その御礼としてそいつを譲ってあげてもいいぞ」
交換条件というやつか。
一体何だろう。
「頼みって?」
問いかける俺に、主人はにこやかな笑みを絶やさぬまま言ったのだった。
「ルミルーラ草っていう薬草があるんだけどね。それを採ってきてほしいんだよ」
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