医務室にて
目を覚ますと、最初に飛び込んできたのは見たことのある天井だった。
「やっと起きたか」
目覚めたばかりのカインに声をかけたのは、彼の師であり学園の長でもあるエヴァだった。
「学園長? どうして――」
口を開こうとして、カインの全身に激痛が走る。
そこでようやく気付いた。自分が医務室のベッドで横になっていることに。
ついでに、病院の入院患者が着るような白衣姿だった。
「まだ無理をしない方がいい。君は本来なら、死んでもおかしくないほどの傷を負ったのだから」
「そうでしたね。確か僕は倒れて……」
カインは、自分の身に何が起こったのかを思い出した。
「アルティさんとミリィさんは!?」
シャルバを倒した辺りまでの記憶はあるが、それ以降のことは気絶したため分からない。
そのため、アルティとミリィの安否は不明だ。
「大丈夫。二人は君のおかげで無事だよ。つい先程までは、二人して熱心に君の看病をしていたが、もう深夜だからね。寮に帰したよ」
「そうですか……良かった」
二人の少女の無事を知り、カインは胸を撫で下ろす。
「彼女たちのことよりも、自分の心配をしたまえ。君は三日間も眠り続けていたんだぞ?」
呆れたように、エヴァは肩を竦める。
「何があったのかは、全てアルティ君から聞いたよ。まったく、君は相変わらず無茶をするのが好きだねえ」
「別に好きでは……」
「言い訳は結構だ。それよりもカイン、魔法を使ったというのは本当かい?」
恐らくはアルティに聞いたのであろう。
アルティから学園で起こったことを聞いたのなら、おかしいことではない。
「……はい、使いました。なぜ使えたかまでは分かりませんが。学園長は何か知っているんですか?」
「いや、私もはっきりとは分からない。確証がないため推測になってしまうが、それでも構わないなら話そう」
「教えてください」
カインは即答する。
一度は捨てた力とはいえ、もしまた使えるのなら聞いておいて損はないだろう。
「いいだろう。ではまず、国王が君にかけた封印魔法の特性について説明しよう。君も知っての通り、あれは対象に魔力を封じる刻印を植え付ける魔法だ」
カインも知っていることをエヴァはあえて話す。
恐らく、これから話すエヴァの推測には必要なのだろう。
「だがここで一つ疑問が生まれる。魔力を封じるとは言ったが、封じることができる魔力量に限界はないのか?」
「それは……」
「無論限界はある。いくら王家に伝わる魔法とはいえ、そこまで便利なものではない。封印し切れないほどの魔力が流れたらどうなるか……ここまで言えば分かるだろう?」
エヴァが先の答えを促すような目で、カインを見る。
エヴァの解説で大まかな答えは、カインの中にも出た。
「つまり、僕が封印でも抑え切れないほどの魔力を放ったから、一時的に魔法が使えるようになったといてことですか?」
「恐らくね。何か、予兆のようなものはなかったかい?」
「予兆……」
カインは、怒りに合わせるように背中が熱くなった時のことを思い出す。
「何か覚えがあるようだね」
カインのわずかな反応で、エヴァは確信する。
「流石は勇者と言うべきかな。まさか、封印魔法すら越えるほどの魔力を流すとはね」
エヴァは感心したように言うが、その表情はどこか陰りを見せていた。
「カイン、君の師として警告させてもらおう。今後、二度と魔法を使うな」
「どういうことですか?」
「君は莫大な魔力を流すことで封印を破ったが、君の身体に大きな負荷をかけることになった。今回眠っていたのも、それが原因だ」
カインも、自分がなぜ倒れたのか疑問だった。
身体の傷は魔法で全て直したので倒れた理由に心当たりはなかったが、今のエヴァの話で納得がいった。
「あと二、三回同じことをすれば、君は間違いなく死ぬ。約束してくれ、もう二度と魔法は使わないと」
「……はい」
普段のエヴァからは想像もつかないような厳かな声音。
カインの身を案じての発言であることが分かり、素直に頷く。
「その代わり、一つだけ僕のお願いを聞いてくれませんか?」
「別に構わないが……君がお願いだなんて、どうしたんだい? 私の知る限り、今まで君は人に何かを頼んだことはなかったように思うが……」
カインの言葉に軽く目を見張りながらも、エヴァはどこか楽しげだ。
「一緒に王城まで行ってくれませんか?」
しかし、カインのお願いの内容を聞き、表情を一気に険しくする。
「王城か……カイン、もしかしなくても気付いたね?」
先程までとは一転して、重苦しい空気が室内に充満する。
「その口振りからして、師匠も分かったんですね?」
「まあね。手段を選ばない辺りが実にあいつらしい」
「それなら話が早いです。僕と一緒に来てくれませんか?」
「私は構わないが……君はいいのかい? あいつに会うのは嫌だろう?」
カインが王城に行く目的を知っているためか、エヴァがそんなことを訊いてくる。
「大丈夫です。僕はあの人に言いたいことがあるので」
「いいだろう。では、早速行くとしようか」
それから数分後、二人は準備を終えて医務室を出た。
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