親友のためにその1

 カインとアルティの件からすでに三日の時が流れた。

 アルティたちAクラスはすでに教官のいない授業にも慣れてしまい、各々が手際よく自習に取り組んでいる――ように見える。

 実際には、三日前のカインの言葉を受けて、学生たちは自身の今後について頭を悩ませていた。

 『本当にこのままでいいのだろうか?』『自分たちが何かをしたところで意味があるのか?』といった感じで自分たちのしてきたこと、そしてこれからのことに考えを巡らせている。

 カインの言葉がただの戯言ではなく、事実を伴ったものであることが、学生たちにより重みを与えている。

「みんな、大丈夫かな?」

 そんな中、唯一ミリィだけが他のクラスメイトの心配をしていた。

「ねえ、アルティ。三日前からみんな少し様子が変だよね?」

 ミリィは、隣に座る親友に訊ねることにした。

「…………」

「アルティ?」

「え? ごめん、何か言ったミリィ?」

 再度声をかけられて、アルティがようやく気付いた。

「だから、みんな三日前から様子が変だよね?」

「そうね、どうしてかしら……」

 口ではそう言いながらも、本当は理由など分かっていることをミリィは見抜いていた。。

 なぜなら、アルティも他のクラスメイトと同様何か思い悩むようなような表情をしている。

「アルティ……」

 そして、ミリィはそんなアルティに気遣うような視線を送る。

 だが、あえて何も訊かない。

 その行為がアルティを苦しめることを理解しているから。

 しかし、このままアルティだけで悩んでいても答えが出るとは限らない。

「はあ……」

 どうにかならないものだろうか? などと考えながら、ミリィは今のクラスの状態を作った元凶のことを頭に思い浮かべた。




 夕暮れ時の赤みがかった光が、学園の校舎を照らす。

「もうこんな時間ですか……」

 空き教室が多いため、普段使われることのない校舎の屋上で、カインは一人座り込んでいた。

 かれこれ三日間同じことの繰り返しだ。

 アルティたちAクラスのいる教室には一度も行っていない。

 流石のカインも、あんなことがあった後で普通に授業をできるほど豪胆ではない。

 それでも学園に来ているのは、わざわざ自分を雇ったエヴァへの義理立てをしているだけ。

 こうしてサボっていることはエヴァには伝えていないが、何も言ってこない辺り特に問題はないのだろう。

 そのため、学園が終わるまでの時間は屋上で適当に時間を潰している。

「彼女には悪いことをしましたね……」

 紅色の夕日を見ていると、アルティを連想してしまう。

 一人の少女を泣かせてしまったことに罪悪感を覚える。

 カインは、三日前に自分が言ったことは間違えていないと今でも思う。

 だが同時に、Aクラスの学生たちには言うべきことではなかったという後悔の念も抱いてしまう。

 カインのしたことは、不必要に彼らを貶しただけ。

 多分カインは、彼らに嫉妬していたのだ。

 人類を守るということの尊さのみに目を向けて、それに誇りを持っている彼らがただただ眩しかったのだ。

「僕はここにいるべきではありませんね」

 無意味に他人の夢を貶す自分そんざいは邪魔でしかない。そう結論付けたカインは立ち上がる。

 エヴァに言って教官をやめるつもりなのだ。

「……ん?」

 屋上で唯一の出入口のドアに手をかけたところで、誰かが屋上に近づいてくるのが分かった。

 カインのいる校舎は空き教室が多いため、普段人が立ち寄ることはない。

 時間的に考えても、すでに学生の大半はいなくなっている頃だ。

 誰が何の目的でここに来るのか、カインには見当もつかない。

 そうこうしている内に、ドアが開く。

 そして中から現れたのは、

「ミリィさん?」

 Aクラスの学生の中では比較的会話をした少女、ミリィだった。

「どうしてここに?」

「カイン君に会いに来たんだよ」

「僕に?」

 多少仲良くなりはしたが、三日前の件を考えるとわざわざ会いに来た理由が分からない。

「大変だったんだよ? 三日間誰もカイン君を見てないっていうから、どこにいるのかまったく分からなかったよ」

 あはは、と笑いながらミリィは続ける。

「でも最後の手段として学園長に訊いて正解だったよ。事情を話したら、すぐにカイン君がここにいるって教えてくれたもん」

「事情?」

「あのね、私カイン君と話がしたいんだ」


 

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