少年の怒りその2
「人間同士の……戦争?」
「そうです。皆さんも知っているでしょう? 魔王が死んだことで、これまで協力関係にあったいくつかの国が戦争を始めたことは」
カインの言っていることは事実だ。
魔王の死からまだ二年しか経過していないにも関わらず、すでにいくつかの国では戦争が起こっていた。
魔王という共通の敵が消えたことにより、国同士の協力関係がなくなったことが原因だ。
ヴェルテイマ王国は特に敵対している国はないが、その状態もいつまで続くかは分からない。
「たくさんの戦士の命を犠牲にして、ようやく手に入れた平和を人類は放棄している。こんなことが許されていいと思っているんですか?」
「そ、それは……」
普段の感情が乏しいカインからは考えられない怒りに満ちた様子。
学生たちもカインの変貌ぶりに目を白黒させる。
「彼らはみんな、人類を守るために命を懸けた! ただこれ以上誰も傷付いてほしくない、その想いを胸に彼らは戦ったんです!」
カインが怒りのままに、声を張り上げる。
学生たちは、豹変したカインに圧倒されてしまう。
「ですが、そんな彼らの想いは守ったはずの人類によって踏みにじられた! これでもまだ、人類を守るなんて戯言を吐けますか!? 人類のために戦おうなんて思えますか!?」
「「「「…………ッ!」」」」
人類を守るという使命感に酔っていた学生たちにとって、カインの言葉はまさに冷や水浴びせかけられたような思いだ。
誰もカインの言葉に反論することができない。
カインの言ったことは、今まで学生たちが見ようともしなかった現実。
先程まで口論をしていたアルティでさえ、何も言い返せない。
「これでは、魔物との戦争で死んだ人たちはただの無駄死にです」
――だが、今の言葉だけは容認できなかった。
「――り消しなさい」
「何か言いましたか?」
「今の言葉を取り消しなさいって言ったのよ!」
アルティはカインの襟首を掴み、怒りを通り越し殺意を宿らせた瞳で睨む。
「なぜですか? 僕の言ったことは何か間違えていましたか?」
「間違えてる間違えていないの問題じゃないわ! とにかく無駄死にと言ったことを取り消しなさい」
アルティがどういった理由で取り消しを要求しているのか、カインには分からない。
だが、カインは恐れることなく続ける。
「嫌です。彼らは無駄死にだった。僕は何度だって言いますよ」
「この……!」
最早堪え切れないと言わんばかりに、アルティが怒りに任せて平手打ちを繰り出す。
「何をするんですか?」
しかし、カインはそれを当然のように片手で受け止める。
「言い返せないとなれば暴力ですか。まったく本当にあなたたちは――」
カインは鋭い瞳でアルティを見て、言葉が止まる。
「どうして、そんなことが言えるのよ……」
アルティは瞳からポロポロと玉のような涙を流している。
「私のお父さんは無駄死になんかじゃない……!」
それだけを言い残して、アルティは修練場を出た。
「……皆さんは先程言ったように自習をしていてください」
圧倒的な静寂が場を支配する中、アルティに続いてカインも修練場を後にする。
――この日より数日間、学園でカインの姿を見た学生はいなかった。
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